40 ガールズトーク
結局クラウディル家専用の応接室から適当な客室に案内され一晩を明かし、あくる朝また別の部屋に案内された。
しばらくはこの部屋に滞在することになるらしい。
「これって絶対アレよね?」
部屋のクローゼットのずらっと並ぶ衣装を眺めながら横に並ぶミレイに問いかける。
「アレって?」
わかっていてすっとぼけているのか、それともわかっていないのか、きょとんとした眼で私を見つめ返してくるミレイを促して部屋の中を一回り確認してもらう。
王様が用意した『私のための』客室だそうだけど。
なんで私のジャストサイズな服と靴が何着何足と用意されているんだろう。
「怪しいものはないわよ」
「窓は?」
「開かない」
「バルコニーみたいなのは?」
「そもそもないわね」
「ドアは?」
「外からカギがかかってる」
問いかけに冷静に答えるミレイは本当にわかっているのか、いないのか。
思わず頭を抱えた。
「また私監禁されてる!?」
退路が一切なくて、身に着けるものが一通りそろった部屋はまさしくそれにうってつけの部屋だった。
たとえ王様のほうにその意図がなくても、今までの経験上そうとしか思えない。そろそろやめたいこんな生活。
「自由が欲しい。普通に買い物行ったり好きなもの食べたりしたい」
「破壊行っとく?」
「逃亡生活は自由とは程遠いんだってば!」
無邪気な感じで言ってくるミレイは黙らせて私はとぼとぼとソファーに腰を下ろした。
それでもこの部屋はましだ。
本棚があって、王国の歴史系の本もあるけど、普通の冒険小説や恋愛小説も用意されている。暇つぶしにはちょうどいいと言える。
それに部屋の中に、バスルームもトイレもちゃんと完備されていていつでも快適だし。
一言でいえばこの部屋から出る必要がない。
「仮にこれが監禁じゃなかったとして、私はいつまでここにいればいいのよ?」
「いいんじゃない、ここにいればあの捻くれ野郎とは距離は置けるんだし」
ミレイのいうとおりだ。ここにいればあれと関わることはないんだけど。あれと頻繁に顔を合わせなきゃいけないのと監禁とどっちがマシかと聞かれたら「どっちも嫌」なわけで。
「ある意味絶滅危惧種だもんね、サラも私も」
「……これは保護活動の一環?」
国による手厚い保護ってこと?
魔人を呼んでもいいのか?と危惧してたけど、もしかしてそれも読まれていたのかもしれないのか。
「ありがた迷惑」
「そうね、同感だわ」
ミレイと顔を合わせてお互いに心底嫌そうな顔で頷きあった。
とはいえここは城の中だ。
ここから出るにはミレイの破壊工作しかないけど、それは本当に最後の手段にとっておきたい。
「とりあえずは安全だけは保障されていると思いたいし、のんびり羽を休めればいいんじゃない?」
いや、まあ、あいつのとこでもだいぶ羽を休めてはいたと思うんだけど。
流されるままの人生で流れ着いた先がここっていうのもどうなのかなって思わなくもない。
だけど、もし、流されなくて自分の好きなように生きていい、って言われたとしたら、私は一体どうしたいんだろう。
「ミレイは、将来の夢とかある?」
「え? 何いきなりどうしたの?」
やっぱ唐突だったか。
面食らった様子のミレイは、すぐに何かを察したのかにやっと笑った。
「自分の将来に悩んでる?」
「……うん、だってあのまま、あの宿で働いて生きてくんだろうなって漠然と考えてたから。急にその道がなくなって、強引に振り回されて、もう何が何だか」
「私は、まあ、小さい頃は『大好きな人のお嫁さん♡』って思ってたんだけどねー……。大好きな人は殺りたくなっちゃうから無理かな」
難儀な性格よね、ミレイは。
「その殺戮衝動はどこからくるの?」
「多分血」
魔人ってそうなの? みんなカマキリみたいな感じなの?
「サラも何かしらあるのかもよ?」
「……たまに、ものすごく働きたいって衝動があるんだけど、それ?」
「働き者の王様っていい響きよね?」
からかうような口調でミレイに言われて私も苦笑を漏らした。
「労働後のごはんは美味しいのよ」
「わかるわ、夜勤明けのケーキは極上の美味だったもの!」
すごくよくわかる。
ケーキもご飯も全部、自分の稼いだお金で食べるものは特別な味わいだったと、タダ飯食いに成り下がっている今、心から思う。
「サラはあの捻くれ野郎が嫌なんじゃなくて、囲われている現状が嫌なんじゃないの?」
「囲っ!? ……囲われている、のか……私は……」
よくよく考えてみれば現状はそれだ。お妾さんか私は!
「それも嫌だけど、あれ本体も嫌」
「あれ呼ばわり」
ミレイが嬉しそうに笑うのはなんで。
「この状況から抜け出して、自活したいっていうのが我儘って意味わかんなくない?」
普通の子だったら、自活を考えるなんて偉い! って褒められてもおかしくないのに。
なんだかちょっと私の周囲は狂っている。
「ランドだったら、面倒臭いからもう受け入れろとかいうんでしょうけどね。私もアレはダメだと思うわ」
「……だよね?」
貴族様とかお金持ちとか才能ありとか、まあそこそこ美形だとか、ある意味いい物件だっていうのは、わかっているのだ。女子センサーって奴は私にもミレイにもちゃんとあるんだから。
でもそれらを差し引いても、あの性格は……。
「絶対にしなくてもいい苦労をする羽目になる」
「そうね、私もそう思う」
こういうのは異性のランドには絶対にわからないと思う。ミレイにわかってもらえてものすごく嬉しい。
「でもサラはそういう苦労、難なく乗り越えちゃえるのよねぇ」
「はぁ!?」
え、ちょっと、なんでいきなりミレイがそんなことを言ってくるの? 裏切り!?
「だからこそあれもサラに執着しちゃうのよ」
「……つまり?」
「やってみたけどやっぱり無理でしたー☆ってのが穏便な逃げ方かな」
「待って、待ってよ! それって、受け入れろってこと――」
「頑張って。子どもは男の子と女の子、どっちがいいかしら?」
「ミレイ、あいつから何か受け取ったの!? なんで裏切るの!?」
立ち上がって、ミレイの肩をひっつかんで大きく揺さぶって訴えるがミレイは笑顔のままだ。
「いい? サラ、今ここで保護されているってことは、絶滅しないように繁殖させられるってことよ、たぶん」
「はぁ?」
ちょっとやめてほしい。想像したら吐き気がしてきた。
「私は自分の身は自分で守れるからそういう場に行ったら殺っちゃえばいいだけだけど、私が動けない状況でサラがそういう場に連れていかれたら、どうなると思う?」
「強制的に――ってそんな人道に反することする!?」
仮にも王様でしょう?
「絶やしたくなければどんな手だって使うでしょ。そういう現実に今直面している状況で、サラを助けられるのは、悔しいけどあの捻くれ新品野郎だけってこと。それもちゃんと頭に入れておいて」
……絶対、嫌!
なんだそれ、冗談じゃない。
「ごめん、身も蓋もない言い方しちゃった。で、どうする逃げる? それも選択肢の一つだと思うわよ?」
「……逃げない」
なんでそんなに身勝手な話で私が逃げなきゃならないのよ。なんだかムカついてきた。
お父さんやお母さんが亡くなっても放っておいたくせに、結局あの伯父だって野放し状態にしてあって、何もしてくれなかったくせに、そんな勝手なこと言うの?
大神官に目をつけられた理由だって、結局そうやって放っておいたからでしょ。
そもそも私が門前町に流れていかなかったら会うことすらなかったのに。
「文句言ってやりたい」
「……そういうところよ、サラ」
「どういうところ?」
「あのひねくれ野郎に好かれちゃう原因」
なにそれ意味わかんない!




