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第6話

 フレアの寝顔を見ていると、徐々に気持ちが高ぶってきて、眠気が吹き飛んでしまった。


 住むところ、働くところは、奇跡的になんとかなった。ジョバンヌさんはじめ、みんないい人ばかりで、本当に幸運だった。


 これから、知らない街で生きていかなければならない。生活に必要なものをそろえていく必要もある。所持しているものは、服を除けば、買い物で使うはずだったお金が少々。


 あとは縄に結わえたイモらしきものだけだ。しばらくはここでしっかり働いて、生活基盤を整えていかないと・・・・・・。


 不意にリアムの頭の中で昨日見た夢が再生された。思えばあの夢のおかげで助かったのだ。不思議な体験だった。


 不思議な体験はもうひとつあった。川岸で意識が戻った時、これまで見たことがない光景が頭に浮かんできたのだ。あれは一体なんだったのだろう?


 リアムはもう一度あの光景を見ることができないか試してみようと、目を閉じて眉間に力を込めた。そして、見たい、と心に強く念じた。


 すると、突然目の前に人が現れた。こちらに向かって長い棒状のものを振り回している。長い棒の先端には30cmほどの刃がついており、全体の長さは3m以上あるように見えた。着けている鎧も見たことがないものだ。あわてて目を開く。


 えっ、今の何? 


 川に落ちたときに頭を打ったのかな?


 まぁ考えてもしかたないか。疲れているせいかもしれないし。クヌム神様に感謝のお祈りをしてから寝ようっと。


 クヌム神様、助けていただきありがとうございました。これからもどうかお守りください。フレアがいつも笑顔で幸せでありますように。


 リアムはフレアの笑顔を頭に浮かべながら、こころの中をクヌム神様への感謝の気持ちでいっぱいにした。



 そのとき、ひとつの考えが頭をよぎった。


 クヌム神様、あの夢と川岸で頭に浮かんだ光景はいったい何だったのでしょうか?


 これまでお願いをしたり、感謝することはあったが、質問するのは初めてのことだった。答えてくれるはずもないか・・・・・・。


「あの夢は予知夢である。頭に浮かんだ光景はそなたの前世の記憶である」


 突然、頭の中に言葉が飛び込んできた。耳から聞こえているわけではない。不思議な感覚だった。


「えっ、何?」


 リアムは思わず声をあげて目を開いたが誰もいない。もう一度目を閉じる。


「あなたは誰ですか? もしかしてクヌム神様ですか?」


「神ではない。そなたの前世の魂である」


「ぜっ、前世の魂? 前世の魂って何でしょうか?」


「人は寿命がくれば死ぬが、それで終わりではない。肉体がなくなっても、魂は生き続ける。


魂は何度も何度も新たな肉体を得て、生まれ変わり、死に変わりしながら、永遠に生き続けるのだ。


前世の魂とは、そなたが以前別の人生を生きたときの魂のことだ」


「あの、では、僕は前世の自分と話をしているということでしょうか?」


「そうだ」


 リアムの問いかけに対して、前世の自分が答えているってこと? なんで自分が同時に2人いるんだろう? 


 頭が混乱してきた。言葉を発していないし、声が耳から聞こえてくるわけでもなかった。自分が発した問いかけへの答えが自然に頭に浮かんでくる。自問自答のようではあったが、自分が質問に答えているという意識はなかった。


「今自分がここにいるのに、どうして前世の自分も同時に存在しているのでしょうか?」


「例えば、ここに火が灯っているろうそくが1本あるとする。そして、その1本のろうそくの火を元火として2本目のろうそくの火が灯り、さらには3本目のろうそくの火が灯る。


そうやって火が灯るろうそくが増えていく。それぞれ独立したろうそくであるが、それら3本のろうそくを束ねればとひとつの大きな炎にもなる。


魂もそれと同じだ。もともとはひとつの魂から始まって、生まれ変わるたびにそれぞれの人生を経験した魂が増えていき、別々にも存在するが本来同根であり、ひとつにもなれるもの、ということだ」


「う~ん。わかったような、わからないような」


 おとぎ話のような不思議なやりとり。


「あの、それで、予知夢とは何でしょうか?」


 リアムは恐る恐る質問を続けた。


「そなたが見た予知夢は、未来に起こる可能性がある危機や危険を回避するための警鐘である。


暖炉の火に手を突っ込もうとしている幼子に向かって、『火傷するよ』、と親が言うのと同じようなものだ」


「それで、僕は、なぜ突然予知夢を見るようになったのでしょうか?」


「それは私にもわからない」


「そうですか。では、あの不思議な光景は前世の記憶だったのでしょうか?」


「そうだ。本来なら思い出すことがない前世の記憶をそなたは思い出してしまった。だからこうして前世の自分とも対話することができるのであろう」


「どうして、僕は前世のことを思い出したのでしょうか?」


「私にもわからない。通常ではありえないことが起こったということだ」


「先ほど、生まれ変わりの話をされていましたが、そもそも人はなぜ何度も生まれ変わってくるのでしょうか?」


「それは、魂を磨くためだ。わかりやすく言うと、自分を成長・進化させるためだ。常に新しいことに挑戦し、その経験から様々なことを学び、より素晴らしい人格を形成していく。


そして、自分の周りの人を幸せにし、社会の人々により大きく役立つことを成していく。これこそが人生の目的なのだ」


「人生の目的?」


 リアムは頭の中に強く染み入ってきた言葉を反芻した。


「人は何度も生まれ変わって、楽しいことだけでなく苦しいことも悲しいことも嫌なことも様々経験する。その経験こそが成長・進化の糧となる。


すなわち、この世的に見た不幸や悩みや葛藤も、魂の成長・進化にとって必要なことであり、逆にそうしたものがなければ成長・進化もないということだ。


だから、一見不幸に見えることであってもそれを前向きに捉え、自らの魂の成長・進化につなげていくという考え方が大切なのだ」


 リアムはどんな人生にしたいかということは考えたことがあったが、何のための人生かという発想はなかった。


 毎日自分の好きなことをやって仲間と楽しく生きていければいいと思っていた。不幸や悩みや葛藤が自分の成長・進化に必要なことなんて、考えたこともなかった。


 リアムはこの際気になっていたことを聞いてみることにした。


「クヌム神様の願いをご存じですか?」


「それは、真実を学び、人格を向上させ、そしてそなたの周りの人や国の人々を幸せにすることだ。つまり、人生の目的をよりよく実現していくことに他ならない」


「私はクヌム神様の願い通りに生きると約束しました。だから、これからの人生は、よりいっそう自分自身を磨き、一人でも多くの人々に役立つように生きていきていこうと思っています」


「私も陰ながら応援しよう。ところでそなたにひとつ伝えておきたいことがある。


予知夢を誰がどういう意図を持ってそなたに見せているのかをしっかり見極めて、その正邪を判断していく必要がある。


予知夢がそなたへの真心ある警告を意図としているのか、それとも、そなたを騙して人生を破滅させる意図によるものなのか。


それを判断する上で最も大切なことは、そなたの心の奥底にどのような思念があるかを見定めることだ。


すなわち、我欲から出てきたものなのか、人の幸せを願う心から出てきたものなのか。


予知夢を自分の欲のために使えば破滅に向かうことになるだろう。それだけは忘れぬようにな」


「わかりました。なんとなく、おっしゃっていることはわかるような気がします。またお会いすることはできますか?」


「そなたが前世の記憶を思い出せるうちは、おそらく、これからも会えるだろう」


「よかったです。ところで、これからあなたのことを何と呼べばよいでしょうか」


「我が名はバルカ」


「バルカさん、今日はありがとうございました。お休みなさい」


 リアムはゆっくりと目を開いた。今起こったことについて、まだ完全に消化できているわけではないが、不思議な現象の理由がわかってほっとしている自分もいた。


 自分の前世が、どこの誰で、どんな人生を送ってきたのか?


 興味がないわけではなかったが、その質問はあえてしなかった。なぜなら、もし前世の人生がたいしたものでなかったとしたら自分の限界を知るようで怖かったし、逆に輝かしいものだったとしたら今の自分に余計なプレッシャーになったり、あるいは自分はすごいんだと傲慢になってしまうかもしれない。


 おそらく、これが前世の記憶がなくなってしまう理由なのではないだろうか? 前世の自分を深く知りすぎてしまうと、今世の自分を磨いていく上でマイナスに働くのではないだろうか? 


 いまだ興奮冷めやらぬ状態ではあったが、この2日間で溜まりに溜まった疲労がリアムの意識を徐々に奪っていった。


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