第5話
馬車の中で給金、使用人部屋の賃貸料、仕事時間などの条件についてジョバンヌさんから説明があった。新しい生活にあれこれ思いを巡らしているうちに、馬車の心地よい揺れに誘われ、いつの間にかうたた寝をしていたらしい。ジョバンヌさんの声に弾かれたように意識を取り戻した。
「さあ、着きましたよ」
「これからお世話になります。よろしくお願いいたします。」
リアムがそう言うとフレアもペコリと頭を下げた。
「こちらこそ頼りにしてますよ。アルベルト、部屋への案内を頼むよ」
「かしこまりました」
「こちらの部屋です。私の部屋はこの向かいになります」
部屋は2階で、ベッドがひとつ、クローゼットがひとつ、簡易的な机とイスがあった。小さな窓から西日が差し込んでいた。
「わあー。素敵」
フレアの笑顔を見ているとうれしくなる。
「馬車の荷物を降ろした後にまた来ますのでこちらで休んでいてください」
「私たちも手伝います」
リアムとフレアはアルベルトの後に続いた。馬車からすべての荷物を降ろし終わった頃、ジョバンヌさんがやってきた。
「お礼と私の家族の紹介を兼ねて夕飯を御馳走したいのですが、いかがですか?」
「お招きいただきありがとうございます。よろこんでご一緒させていただきます」
「アルベルト、お前も来なさい」
「はい。旦那様」
ジョバンヌさんについていくと、奥さんと娘さんらしき人が食卓の前で立っていた。
「はじめまして。私はリアムと申します。これは妹のフレアです。今日からお世話になります。よろしくお願いいたします」
二人は同時にお辞儀をした。
「妻のエリサ、娘のアリサです」
ジョバンヌが紹介すると、
「リアムさん、フレアさん、こちらこそよろしくお願いしますね」
エリサが笑顔で言うと、アリサもペコリと頭を下げた。
「私とフレアは今日から使用人としてお世話になりますので、これからはリアム、フレアとお呼びください」
「ではそうすることにしよう。リアム、フレア、改めてこれからよろしく頼むよ」
「はい。ジョバンヌさん、エリサさん、アリサさん、アルベルトさん、どうぞよろしくお願いします」
「さあ、固い挨拶はここまでとしよう。遠慮なく食べておくれ」
「はい。いただきます」
部屋中に香ばしいパンの香りが漂っている。手にとるとまだほのかに温かい。パンを半分に割ってみると中身がふっくらしている。一口頬張ってみる。表面はパリッ、中はしっとりもっちりしていてほんの少し薪の香りがした。
「おいしぃ」
リアムにみんなの視線が集まる。
「あ、すいません。とてもおいしいです」
「これは温めなおしたパンだけど、焼きたてはもっとおいしいのよ」
エリサがリアムにやさしく微笑む。
パンが入ったバスケットの横には、鶏肉とキャベツとじゃがいもと豆と牛乳のスープ、みずみずしい葉野菜とトマトのサラダが所狭しと並んでいる。
リアムはみんなのペースに合わせながら、ゆっくりと味わい深く咀嚼し、皿の上にあったものすべてをきれいにたいらげていった。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです。パンはもちろんですが、このスープも絶品でした。是非、今度作り方を教えてください」
「いいわよ。これはアリサが作ったの。アリサ、教えてさしあげなさい」
「はい。お母さま」
リアムはアリサに視線を移すとアリサは頬を赤く染めていた。するとフレアがリアムの太ももを思いっきりつねった。いてっ。なんで?
「それじゃ、明日は早いけど朝5時から頼むよ。アルベルトについて仕事を覚えるように。アルベルト頼んだよ」
「かしこまりました。旦那様」
「リアムさん、フレアさん、明日朝5時少し前に迎えにきます」
部屋の前でアルベルトがそう言うと、
「アルベルトさん、私たちは後輩ですので、これからはリアム、フレアとお呼びください」
「ではそうするね。おやすみ、リアム、フレア」
「おやすみなさい。アルベルトさん」
ベッドの前で所在無げに立っているフレアの頬が赤く染まっている。
「ええと、リアム、どうしようか?」
「どうするって・・・・・・。寝ようか」
「うん。そうだね」
フレアは背を向けると服を脱ぎだした。リアムはドギマギしながら急いで反対を向く。
「リアム、もういいよ」
服を脱いで下着になるとフレアに背を向けてベッドに腰かけた。フレアが背後から体を寄せてきた。リアムの顔の向きを変えて唇を寄せてきた。そのとき、リアムは持てる限りのすべての自制心を働かせた。
「フレア、僕たちは兄と妹。そうでないと知られたら、ここに一緒に住めなくなる。だから・・・・・・」
2人の間に沈黙が流れる。
「うん。わかった。お兄ちゃん。でもこれはいいよね?」
フレアが背後からやさしく抱きしめてきた。ゆっくりと振り返り正面からフレアを受けとめた。お互いの体温を確かめあえるくらい長くて深い抱擁だった。リアムの自制心はほぼ限界に達していた。
これが毎日続いたらもう知らん。
「さあ、明日は早いからもう寝ようか」
ベッドに入ると、フレアは柔らかな体をぴったりすり寄せながら、リアムの肩口に顔をうずめてきた。
「おやすみなさい、リアムお兄ちゃん。ウフっ」
「おやすみ、フレア」
ウフって何?




