第56話
休日の5日目。
フレアとルナを伴って渡された住所に向かうと、そこはラーク前軍師の住居、すなわち、今はローラ師匠がひとりで暮らしている住居の隣の建物だった。
「リアム副官、おはようございます」
ローラ師匠とエリン師匠がその建物の前で待っていた。
「あのー。もしかして、引っ越し先というのは、ローラ師匠のお家の隣なんですか?」
「はい。そうです。補佐官としては常にリアム副官のおそばにいるべきと心得ております」
「はあ。そうなんですか。まあ、とりあえず見学させていただきます」
嫌な予感しかしない。
玄関のドアをくぐると、広くておしゃれな空間が目の前に広がった。
「わあー。素敵なお家。ルナ、ここに住みたい」
10人は座れそうなソファセット。大きなダイニングテーブルとゆったりとしたキッチン。今住んでいる所と比較すると3倍以上は広い。
「確かに。かなりいいかも。ここだったらみんな喜ぶかな」
「うん。なんだか私もワクワクしてきた。キッチンも広いしみんなで料理できるね」
「すごーい。すごーい」
ルナは興奮して部屋中を走り回っている。
「ローラ師匠。こんなに素敵なお家、本当にいいんですか?」
「ええ。実は、ナリス長官が直々に手配してくださって」
「えっ、そうなんですか。ナリス長官には直接お礼を申し上げるようにいたします」
「はい。私もそれがよいと思います」
「ローラ師匠、エリン師匠も、私たちのために骨を折ってくださりありがとうございました」
「補佐官として当然のことです」
ローラ師匠の頬がほんのり赤く染まったように見えた。
「師匠として、とっ、当然のことだからにゃ」
エリン師匠が嚙んでいる。まさか、照れてるのか?はにかむ表情は想定外のかわいらしさだった。
「個室は全部で8つありますので、順番に見ていきましょう」
とローラ師匠が先を促した。
「わぁー。すごーい。ルナ、この部屋がいいな」
すべての部屋にはベッドとクローゼットとカーテンが備え付けられていた。追加で買う必要がありそうなものとしては、机と椅子、化粧台くらいか。8部屋ということは1部屋は来客用にできるな。
「ねぇ、リアム。ひとつ提案があるのだけどいいかしら」
「エリン師匠、なんでしょうか?」
嫌な予感しかしない。
「ローラが言ったように、やはり補佐官は上官のそばにいたほうがいいと思うの。だから私もここに引っ越そうと思って。1部屋空いているようだし」
「なっ、なっ、それはちょっと。私1人では決められないというか、みんなの意見もありますし」
「そうよ。みんなの迷惑になるわよ」
ローラ師匠が口を尖らせている。
「だったら、ローラの家に引っ越しする。空いてる部屋、あるんでしょ」
「それはダメ。絶対にダメ」
「じゃあ、ここに住む」
「それも絶対にダメ」
「ローラだけリアムの近くに住むのは不公平だよね?」
「それはたまたまだから仕方がないじゃない」
「リアム、私がここに住むのか、それともローラの家に住むのか、どっちか決めてよ。これ、師匠の命令だから」
「えー。エリン師匠、そんなご無体な」
リアムはローラ師匠をちらりと見て頭を下げた。
「もーう。仕方がないわね。部屋は貸すけど、生活は別々にするからね。お互い干渉しないということでいいわね?」
「それでいいわよ。何かあったとき、すぐに3人で話ができるようにすることが目的なんだから」
エリン師匠は不敵な笑みを浮かべていた。
見学を終えた後、リアムはフレアとルナとともに、家具屋に向かった。一緒についてくると言い張るローラ師匠とエリン師匠をなんとか説き伏せるのが大変だった。これからもずっとこんなことが続くのかな?
国王からいただいた報奨金で、机と椅子と化粧台を買った。うれしそうに選んでいるフレアの笑顔を見ているだけで幸せな気持ちになる。
ルナの化粧台はもう少し大きくなってから買うということでなんとか納得してもらった。買い物を済ませた後、カフェでお茶を飲んでいると、フレアがとんでもない質問をぶつけてきた。
「ねぇ、リアム。ローラさんとエリンさんのことなんだけどね。2人ともリアムのことが好きなのかな?」
リアムは飲んでいたお茶を口から噴き出した。フレアの顔がびしょびしょになっていた。
「もう。リアムったら、やだぁ。何慌ててるの」
フレアはハンカチで顔をふきふきしている。
「いや、突然、フレアが変なこと言うからさ」
「だって、さっきのやりとり見てたら、2人ともリアムのことが好きなのかなーって思うでしょ。普通」
「ルナもそうかなと思ったよ」
「えっ。そうなの?いや、あれは補佐官としての責任感というか、僕のことをいろいろ心配してくれてるっていうか。そういうことだと思うよ」
「リアムお兄ちゃんて、鈍いんだね」
「そうだよね。ルナちゃんもそう思うよね」
「それはちょっと言いすぎじゃないかな。僕だってそんなに鈍いほうじゃないと思うよ」
「いやー、リアムお兄ちゃんはかなり鈍いよ。それで、どうなの?」
「どうなのって。何が?」
「だからね、ローラさんとエリンさんのこと、どう思ってるの?」
ルナってまだ5歳だよね。どうしてこういうところだけしっかりしてるのさ。
「それは、あくまでも2人は補佐官であって、仕事の同僚であり、プライベートでは師匠でもあるというか。まあ、そういう関係だよ」
「とーっても仲がいいように見えたけどね」
ルナが執拗に攻めてくる。あなた本当に5歳なんですか?
「ローラ師匠とエリン師匠は大切な人であることは間違いない。それだけだよ。はい。この話はもう終わり。さあ帰るよ」




