第53話
休日の2日目。
今日はあいにくの雨だったので、昨日市場で手に入れた新鮮な野菜と肉を使って料理をつくることにした。
「今日は一緒に料理でも作りませんか?」
「はーい。ルナ、がんばってお手伝いしまーす」
「はーい。私もルナちゃんと一緒にお手伝いしまーす」
フレアの表情がとても明るくなったような気がする。
「それでは、今日は、鶏肉のりんご酢煮と野菜スープを作りたいと思います。ルナ、フレアさん、他に何か食べたいものがあれば作りますよ。何かありますか?」
「ルナはね、ええとね、ええとね、わかりませーん」
「リアムさんの案でよいと思いまーす」
「はい。それでは、僕が作り方を説明しますから一緒に作りましょう」
「はーい」
「まずはスープです。キャベツ、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、すべて1cm角くらいの大きさに切り刻んだものを油で炒めます。このくらいの大きさだと火が通るのも早いですから。そこに細かく刻んだニンニクとバターを入れて塩コショウを振りかけます。火が通ったら水と牛乳と角切りトマトとひよこ豆と干し肉とローリエを入れてじっくりと煮込みます。スープはこれで出来上がりです」
コトコト煮込んだ野菜の甘い香りが食欲をそそる。
「次は鶏もも肉のりんご酢煮です。一枚の鶏もも肉を切らずにそのまま皮目を下にして焼きます。皮目がこんがりと色づくまで、鶏肉は一切動かさないようにします。しっかり焼いたら鶏の皮から出た鶏油の8割くらいを先ほどのスープの鍋に移します。鶏肉をひっくり返して表面に塩コショウを振り、りんご酢と砂糖とすりおろしニンニクとバターを入れます。ソースにとろみがついてきたら出来上がりです」
ニンニクとバターの香りが鼻腔を抜けていく。鶏皮がこんがりと香ばしく焼けて、肉表面のつやと照りと相まって、見るからにおいしそうだった。
「わぁー。おいしそう。ルナ、おなかペコペコだよ」
「もう少しだけがまんしてね」
「ねぇ、ちょっとだけ、味見したい。ダメ?」
「しょうがないな。少しだけだよ」
鶏肉をルナの一口サイズに切り分けて、ふーっと一息かけて冷ました後、目いっぱい開かれたと思われるルナの小さなお口の中にそっと置いた。
「おいしい。リアムお兄ちゃんって料理上手なんだね」
「ありがと。フレアさんもどうぞ」
「わ、わたしもいいんですか。じゃあ」
フレアは頬を赤く染めながら遠慮しがちに口を開いた。
「す、すごくおいしいです」
「よかったです」
「さあ、スープを温めなおして食事にしましょう」
「はーい」
ルナとフレアがいそいそと食卓に鶏肉のりんご酢煮とたっぷり野菜スープとパンを並べ終えた。
「いただきまーす」
「リアムお兄ちゃん、スープ、すっごくおいしいよ」
干し肉から出たうまみとニンニク、バター、塩コショウ、トマトの酸味が相まって、絶妙なおいしさだった。
「リアムさん、スープ、本当においしいです。何かとてもなつかしい味がします」
「フレアさんとは何度か一緒に食べたことあるので、舌が味を覚えているのかもしれませんね」
「そう、なんですか」
「あ、無理に思い出さなくていいですからね」
「はい。リアムさん、ありがとうございます。昨日のリアムさんのお話を聞いてとても気持ちが楽になりました。今は無理に思い出そうとは思っていませんよ」
「それがいいと思います」
「あの、リアムさん、ひとつ提案があるのですが」
「なんでしょうか?」
「お互い敬語を使うのをやめませんか?」
「みなさんが私にだけ敬語を使うので少し寂しい気持ちになります」
「うん。そうだね。これからは敬語なしで」
「はい、ありがとうございます」
「フレアお姉ちゃん、敬語使ってるじゃん」
ルナの鋭い突っ込みが入った。
「ああ、そうね。なかなかすぐには難しいね」
「フレア、少しづつでいいからね」
苦笑いしているフレアを見て、リアムはとても幸せな気持ちになった。何か見えない壁のようなものが消えていく気がした。
「うん。ありがとう。リアム」
フレアは頬と耳を赤く染め、うつむき加減で返事をしてくれた。
「やったー。いつものリアムお兄ちゃんとフレアお姉ちゃんだ。ルナはとーってもうれしいよ」
食事後しばらくするとルナはうとうとし始めた。リアムはルナを優しく抱きかかえるとベッドの上にそっと寝かせた。
「ルナちゃん、とてもいい子だね」
「うん。ルナはとても素直だし、5歳とは思えないほど気遣いもできるし」
「そういえば、ルナちゃんのお母さんとお父さんは?」
「ああ、まだ、フレアには言ってなかったね。もともとルナはご両親とともにキール村というところに住んでいたんだけど、エルドランの襲撃でご両親が殺されてしまったんだ。
たまたまそこに居合わせた僕がルナを引き取ることになってね。ルナも両親を失って辛くて寂しいはずなのに、僕たちのことを心配してくれて・・・・・・」
「ルナちゃん・・・・・・」
フレアの目尻から一筋の涙がすーっと頬に流れ落ちた。
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どうしてもカリンに確かめたいことがあった。フレアはようやく決心し、まっすぐカリンを見据えて切り出した
「ねぇ、カリン、ちょっとだけ、話してもいいかな?」
これからお互い敬語を使わないことを夕食のときにみんなと話をしていた。
「うん。いいよ」
「あのね、その、ええと・・・・・・」
「どうしたの?フレア。遠慮しなくていいんだよ」
「リアムと私って、どういう関係だったの?」
フレアは勇気をふり絞って単刀直入に質問した。
「・・・・・・」
カリンの表情がこわばるのがわかった。
「カリン、どうしても知りたいの」
「実は、リアムに口止めされているの。でも、フレアが望むなら話してあげる。フレアとリアムは結婚の約束をしていたって、ルカ兄さんが言ってた」
「そう、なんだ」
予感は的中していた。リアムを目の前にすると、なぜか心臓が早鐘を打ち、こころがきゅっと締め付けられた。頭では何も覚えていないけど、こころでは何かを感じ取っていたのだ。
「でも、どうして口止めなんてしたんだろう」
「おそらくフレアに余計な負担をかけたくなかったんじゃないかな」
「・・・・・・。カリン、話してくれてありがとう」
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