第51話
翌日、リアムはアリスさんの件を特殊工作部のロイド部長に報告した。
そして、その後まもなく、特殊工作部の手を借りて、自分を囮にして工作部隊ベントをおびき出して捕縛することに成功した。
このあとすぐにアリスさんと連絡をとり、今はアリスさんを国防省で保護している。
現在、特殊工作部が捕縛したベントなるものたちを尋問聴取しているとのことだった。また、第1から第6部隊の周辺にも諜報員、工作部隊がいることを想定し、ナリス長官が直々に各部隊長に注意を喚起した。
アリスのような存在を想定して、諜報員を確保した場合は決して傷つけずに速やかに作戦参謀部に引き渡すことをナリス長官直々に下命してもらった。
敵国から自国に送り込まれた諜報員・工作部隊や、マリノス前次長のように敵国に取り込まれた者の捜査・摘発、および、それらの者を利用した偽情報流布に関わる任務を作戦参謀部が担当していることは、国防省内でさえ秘匿されていた。
作戦参謀部内の会議室。
エリン、ローラ、ノア、ルカ、ベン、カリン、そしてリアムが今後の計画について決めるべく話し合いをしていた。フレアとルナには隣の小部屋で待機してもらっている。
「まずは、みんなの考えを聞かせてくれないか」
リアムがノアに視線を向けた。
「工作部隊ベントの残存者がまだいる可能性がある。奴らはアリスさんからの情報をもとに動いて今回罠に嵌められたわけだから、残存者がいた場合、もしくは事前にフェンネルの本部に報告していた場合、アリスさんの裏切りが露見する可能性がある。早急にアリスさんとご家族の安全を確保する必要があると思う」
ノアの言うことはもっともなことだった。
「保護にあたっては、名前と住む場所を変えてもらうことになりますが、今後、国が全面的に支援することについて、すでにナリス長官から承諾を得ています」
リアムが説明すると、カリンが安堵の表情を見せた。
「今回のように敵国工作部隊を殲滅したとしても、また新手が送り込まれてくるだけで、いたちごっこになってしまうと思う。
今後の対応策としては2つの方向性があると思う。
ひとつは、敵国の諜報員や工作部隊を送り込まれにくい状況をつくる、例えば、友好国以外への国交を完全に閉じて人の行き来を限定してしまう。ただ、この場合でも抜け道はあるだろうし、逆に自国の諜報員を送り込むのが難しくなると思う。
もうひとつは、今回のように自国の要人の暗殺・拉致など、目に見える危害を受けるリスクがある場合は徹底的に叩いて潰すが、危害を受ける可能性が低い場合は泳がせて偽情報を報告してもらう道具とする」
ルカの考えに一同頷いている。
「確かにな。いくら蟻を殺し続けても、砂糖がある限り、蟻はどこからでもいくらでもわいてでてくるからな」
う~ん。ベンらしい例えだな。
「ルカやベンの言う通り、フェンネルでは諜報員と工作部隊の育成に国を揚げて取り組んでいるから、諜報員や工作部隊を見つけたら監視をつけて逆に利用するのがいいと思います」
カリンの言葉には説得力があった。
「マリノス前次長の処遇について何か意見ありますか?」
マリノス前次長には監視をつけて現時点では拘束はしていなかった。
「アリスを保護する前提なら、マリノスには退場してもらえばいいと思うけど、問題は退場の仕方だな。敵国諜報員に情報を流した裏切者として処罰し、国内外に向けてのメッセージとするのか、あるいは、全く別の理由で目立たないように辞めてもらうか」
ノアの問題提起に即答できる者はいなかった。
「前者の場合は、相手の警戒を強めてしまうけど、今後みんなが仕事をしやすいのはどっちかな?」
リアムがひとりひとり表情を確認していく。
「それは、警戒されないほうだよね」
ルカの言葉にみんなが頷いた。
「エリン師匠、ローラ補佐官、他に何か付け加えることはないですか?」
「一刻も早く、敵国諜報員や内通者を探索・発見できるような仕組みや体制を構築しないとね」
エリン師匠がめずらしく真面目なことを言う。
「フェンネルの工作部隊は一度リアム副官を殺そうとしたわけですから、今後も同様なことを企む可能性は否定できません。今後もリアム副官の警備は必要だと思います」
ローラさんがリアムをまっすぐ見つめてきた。
「確かにその通りだね。特殊工作部に引き続き協力してもらえるようにナリス長官にお願いするよ」
「あと、もうひとつ気になったことがあるんですけど」
ローラさんが恥ずかしそうにリアムをちらちらと見る。
「なんですか?」
「エリンにだけ師匠をつけるのはどうかと思います。公私を分けて、これからはエリン補佐官と呼んでいただいたほうがよいと思うのですが・・・・・・」
えっ。気になってるとこ、そこ?
「ローラ、あなた、また嫉妬しているの?私のことが好きなんだから仕方ないじゃない」
「す、好き? エリン、あなた頭大丈夫?どうしたらリアム副官があなたを好きっていう話になるの?」
「そんなの見てればわかるわよ。ねぇ、リアム」
「あの、仕事中なんですけど。お2人とも少し自重してもらえますか」
ノア、ルカ、ベン、カリンにとって、この定例となったやりとりを見たのは初めてだったらしく、4人とも口をあんぐりと開けて絶句していた。




