第46話
グレンの騎馬隊はルチア村の周りを守護するように布陣していた。リアムはグレン隊長に事の顛末を報告した。
「本当によくやってくれた。ルチアの民を守ってくれてありがとう。私からも礼を言わせてほしい」
「いえ、私はたいしたことはしていません。グレン隊とキース隊が動いてくれたからこそです」
「私はナリス長官の命令に従っただけだよ」
「ところで、グレン隊長、このあとどのような対応をさるかお伺いしてもよろしいでしょうか」
「偵察のため200名ほどうちの部隊から兵を出す予定だ。君はここでゆっくりと休みたまえ」
「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
最悪の事態を回避できたという安堵感が、皮肉にも、それまで緊張感で麻痺していた疲労を一気に表出させた。
補給部隊を叩くまでは計画どおりにいけると思っていたが、ブスカとジュノスについては正直なところ運任せだった。今回はたまたまうまくいっただけだ。ルチアの人たちが無事で本当によかった。
戻ってきた偵察隊の報告をグレン隊長とともに一緒に聞くことになった。報告要旨はこうだ。
エルドランの軍服を着た約200人ほどの死体を確認したこと。
その中にブスカ、ジュノスの死体も確認したこと。
周辺を探索したがエルドラン本隊を見つけることができなかったことから、退却した可能性が高いこと。
グレンはナリス長官への伝令を出し、前回と同様に現場に残って事後処理の指揮をとった。
リアムはノア、ルカ、ベンと合流し、事の顛末を伝え、喜びを分かち合った。
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グレン隊長からの伝令の報告を受けたナリスはしばし瞑目した。話を聞いたときは半信半疑だった。しかし、夢の内容が現実となった。
もし、リアムが本当に未来を予知できるのならば、それはアドリアにとっての福音にほかならない。国家を守り存続させていくための最大の武器となるからだ。
かつて、いにしえの世界で、シャーマンが神意を受け取り、人々を守り導く国家が存在したと言う。リアムはそのシャーマンの再来なのだろうか。
いずれにせよ、このことは限られた者だけで秘匿しなければならない。ナリスはこれからどうしていくべきか思いをめぐらした。
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リアムはルチアから急ぎ戻ってきたその足でローラとともにナリス長官のもとに向かった。
「失礼いたします」
「リアム君、無事の帰還、うれしく思う。本当によくやってくれた。長官として礼を言う」
「労いのお言葉、ありがとうございます。ですが、今回うまくいったのはすべてキース隊とグレン隊のおかげです。彼らにこそ労いのお言葉をお願いいたします」
「君は相変わらず謙虚だな。ところで、君の夢の話についてなんだが、本当に未来が見えたということで間違いないんだね」
「はい。信じがたいことはよくわかりますが、本当のことです」
「わかった。信じよう。これは国家の最重要機密となる。私とローラ以外にこのことを知っているのは誰かね?」
「先日諜報員捜査のために国防省で働き始めた、ノア、ルカ、ベン、カリン、フレアの5名は知っています」
「そうか。では、今後これ以上は増やさないこと、そして、その5人には口外しないように伝えること、この2つを約束してくれないか」
「承知いたしました」
「君にもうひとつ引き受けてもらいたいことがある。知っての通りラーク前軍師の後任はまだ決まっていない。今しばらくは私が兼任を続けるつもりだが、君には作戦参謀部の次長になってもらいたい」
「・・・・・・」
リアムは突然のことで頭が混乱した。まだ18歳で国防省に入省したばかりの僕が?
「恐れ入りますが、それはさすがにお受けすることはできません」
「なぜだね?」
「すでにマリノス次長がおられますし、自分のような若輩の新参者がいきなりそのような地位につくと、その処遇に不満を持つ方も多いと思います。そして、それは組織としての一体感を乱すことになります」
「年齢や経験は関係ない。重要なのは、国民を救う才能・能力があることだ。君にはその才能・能力がある。確かに理解を得ることは簡単なことではないかもしれない。しかし、君は今回のことでも証明して見せたし、これからも証明し続ければいい。そうやって実績を積み、周囲からの信頼を積み上げていく。君ならそれができるはずだ」
「しかし、今のままでも出来ることはあると思うのですが・・・・・・」
「今後、今回のようなことが再び起こったとき、次長であればもっと速やかに適切に対処できるとは思わんかね?」
「それはそうですが・・・・・・」
「だったら、それは国民のためになるということだ。そのために君の力を貸してほしい」
「もちろんこれからも全身全霊で取り組むつもりです。しかし、次長の件は重ねてご辞退させていただきます。やはり、国の存亡の危機においてはすべての隊長、兵隊が一丸となって戦うことが必要であり、それは作戦参謀部への信頼があってこそです。今、私が次長になることはアドリアにとって決して良いことではないと思います。これまで同様ナリス長官の元でお役に立てればと思います」
「そこまで言うなら仕方がない。それでは私の副官になってもらう。いいかね」
「はい・・・・・・。承知いたしました」
うまく言いくるめられたように思わないわけではないが、リアムは覚悟を決めた。
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ナリスは直ちに幹部会を招集し、ルクセン山での遭遇戦の顛末、リアムとキースの功績、そして、リアムの人事について伝えた。
幹部会は、長官、作戦参謀長、情報部長、特殊工作部長、武器開発部長、物資補給部長、第1部隊から第6部隊の部隊長の12名で構成される。
「ナリス長官、確かに今回のリアム君の功績は格別なものであり、昇進させること自体に異議はございませんが、いきなり将来の作戦参謀長含みでの副官への昇進となると、少し行き過ぎかと思います。そのあたりについての長官のお考えをお聞かせいただけないでしょうか」
情報部長のルーカスがみんなの思いを代弁していることはナリスにもわかっていた。
「確かにリアム君はまだ若く経験も少ない。しかし、軍師の資質として最も重要なものはなんだ?それは、我が国の民をひとりでも多く守ることができるかどうか、その才能・能力があるかどうかだ。諸君には伝えていなかったが、前回のエストニア峡谷の作戦はリアム君の提案だった。そこで君たちに問いたい。前回のエストニア峡谷の戦い、そして今回のルクセン山の戦い、これに適切に対処し、エルドランから国を守ることができた者が、リアム君以外にいるのか?」
ナリスはここでいったん間をおいた。しかし、誰からも発言はなく、沈黙が続いた。
「リアム君は、今は亡きラーク前軍師の唯一の弟子でもある。ラーク前軍師がその才能を認めたということだ。他に意見がなければこの話は以上だ」
ナリスのやり方は少し強引だったかもしれない。しかし、リアムの特殊な能力について話すことはできないし、この国のためには必要なことだった。
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翌日、ルクセン山でのエルドランとの遭遇戦の詳細と、リアムの人事が通達されると、国防省内は騒然となった。
聞くところによれば幹部会でナリス長官に今回の人事の真意を聞く幹部がいたそうだ。それはそうだろう。入省したばかりでどこの馬の骨ともわからない若輩がいきなりナリス長官の副官になって実質的に作戦を差配する立場になるなんて前代未聞だ。ルクセン山の戦いの功績があったとしても、みんなが騒ぎ立てるのは無理ないことだ。
ローラさんから聞いた話によると、副官は作戦参謀部次長と同格らしい。つまり、実質的に作戦参謀部次長の役割を担うという意味なのだろう。ナリス長官にまんまと嵌められてしまった。
今回の人事でマリノス次長は情報部に異動になった。マリノス次長には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。心に何か重いものがのしかかってきて、ルクセン山での勝利の喜びと高揚はどこかに消え去ってしまった。
ローラさんがリアムの補佐官になってくれたことだけが唯一の救いだ。師匠が補佐してくれるっていうのも何か変だけど。
作戦参謀部は大所帯ではない。むしろ少数精鋭の部署だ。若手も多い。その分、多少はやりやすいかもしれないが、いずれにしても気が重いことに変わりなかった。
作戦参謀長を兼務するナリス長官、実質的に次長の役割を果たすリアム、補佐官のローラさん。このメンバーで作戦参謀部を回していくことになる。
ローラさんの管轄として情報分析と作戦立案を担当するチームが5つあり、それぞれのチームがエルドラン、ガルディア、デカント、フェンネル、そしてエトピア大陸全体を見る担当となっている。それぞれのチーム構成員数はリーダーとメンバー合わせて5名程度である。
リアムが直接的に管轄するのは諜報員対策担当のチームとなる。今のところのメンバーは、ノア、ルカ、ベン、カリン。今のところまだ4名だが、今後メンバーを増強していくことになっている。
国家の命運を左右する作戦参謀部をあずかる責任は極めて重い。これまではラーク前軍師に頼りきっていたのが実態だとローラさんは言っていた。
確かにラーク師匠から学んだことは少なくない。だけど、まだまだ十分とは言えないし経験もない。今の自分には得体のしれない予知夢以外に際立った能力などありはしない。
いや、こんなふうに考えちゃダメだ。弱音を吐いてどうする。もっともっと自分を磨いて磨いて磨き切る。擦り切れるほどに。そして、必ず使命を果たし、ひとりでも多くの人々を救っていくんだ。




