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第43話

「ただいま。ルナ」


「お帰りなさい。リアムお兄ちゃん」


「ちょうどご飯の準備できたところだよ」


「そうか。そうか」


 リアムはルナを抱き上げ、ほっぺをスリスリした。


「お帰りなさい。今日は早いのね」


 フレアの口調に何かとげを感じる。


「やあ、フレア、いつも遅くなってごめんね。フレアのおかげでいろいろ助かってるよ」


 精いっぱいのあいそを振りまく。


「今度の休みにどこか連れて行ってくれないと許さないんだから。ずっと放っておかれて怒ってるんだからね」


 フレアのほっぺがこれでもかと膨れ上がっている。


「ごめんごめん。約束する。絶対に行くよ」


 ずっとラーク師匠のところに入りびたりだったからな。相当怒ってるな。なんとか挽回しないと。


「まあ、フレア、そのへんにして。リアムも早く席につけよ。全員揃うのは久しぶりだからな」


 ノアが助け船を出してくれて助かった。


「なにこれ。おいしそう~」


 テーブルに並べられた料理に目を奪われた。


 カリンの説明によれば、玉ねぎ、にんにく、じゃがいも、ベーコン、鶏肉、そして、茹でたパスタをオリーブオイルで炒めて、塩コショウをして、小麦とバターとミルクでつくったホワイトソースと和える。


 それを耐熱皿にうつして、たっぷりのチーズをかけて、オーブンで焼いたものだそうだ。焦げたチーズがなんともうまそうだった。


 もう一皿は、ナス、パプリカ、ズッキーニ、玉ねぎ、トマト、にんにくをオリーブオイルで炒めて、それを骨付き鶏肉と水と一緒にコトコト煮て、塩コショウで味付けしたものとのことだった。軽くあぶったパンが添えてある。


「いただきます」


 パンの上にのせて一口ぱくり。


「うんまーい」


「カリン、フレア、こんなにおいしいもの作ってくれて本当にありがとう。おいしいもの食べると自然と笑みがこぼれちゃうね」


「どういたしまして」


 カリンもフレアも素敵な笑顔だった。フレアも機嫌直ったみたいでよかった。


「ベン、よく噛んでたべてね。ゆっくり食べていいんだよ。まだいっぱいあるからね」


 ベンはカリンを見返すこともなく食べるのに必死だ。


「ところでさ、片づけが終わったら、みんなに相談したいことがあるんだけど、いいかな?」



 リアムはカリンがお皿を洗い終わるのを見計らって声を掛けた


「カリン、ちょっとだけいいかな」


「どうしたの?」


「あのさ、このあとの相談で、フェンネルでの諜報員訓練についてカリンにちょっと聞きたいなと思っているんだけど、その話をしてもいいかな?嫌なら遠慮なく言ってね」


「私はもう大丈夫だよ。あのときのことを思い出しても苦しくないから。心配してくれてありがとう」


「よかった。もう大丈夫なんだね」



 片づけ終わってみんなが食卓についたのでリアムは話し始めた。


「僕から話をする前に、まずはカリンに諜報活動について話を聞きたくて。カリン大丈夫かな?」


「うん。いいよ。私はもう大丈夫だから。ルカ兄も心配しなくていいからね」


「カリンがそう言うなら俺から言うことはないよ」


「カリン、知ってる範囲でいいんだけど、例えば敵国から何か情報を得るとしたら、どんな方法がある?」


「うーん。まず、重要情報を持つキーマンを見つけたら、キーマン本人もしくはキーマン周辺人物をお金や女性で釣ったり脅迫したりして情報を聞き出すのが常道かしら。あるいは、そのキーマンの交友関係を調べて、そのつながりに入っていく。恋人になったり、友達になったり。他には、難易度は高いけど効果があるのは諜報員自体が国防省に正式に入省するやり方ね。それと、あまり効果は期待できないけど、国防省に出入りする業者や省内のカフェ、食堂、清掃の業者にまぎれて情報を収集することもあるかな」


「なるほどね。では、敵国に偽情報をつかませるためにはどうしたらいい?」


「そうね。敵国の諜報員が誰かわかっているなら意図的に泳がせて偽情報を流す。もしくは敵国にいる自国の諜報員に偽情報を広めてもらうことかしら」


「ありがとう、カリン。実はね、僕がこれからやりたいことは、自国内にいる敵国諜報員、特に軍事・外交に関わる諜報員を特定して、泳がせて、いざというときに偽情報を流せるようにすること。そのために敵国諜報員を調査する部隊をつくりたいと思っていて、近いうちにナリス長官に提案するつもりなんだけど、もし許可がおりたら、みんなに手伝ってもらいたいと思ってるんだけど、どうかな?」


「つまり、俺たち全員が国防省で働くってこと?というか、働けるの?」


「そういうことになるかな。国防省の場合は専門学院卒業してなくても、必要に応じて特例雇用というのがあるらしいよ」


「まあ、俺たちもそろそろ大道芸と赤いもからは卒業しようと思っていたところだしな。リアムとも一緒に働けるし。俺は賛成」


 ノア、いつも味方をしてくれてありがとう。


「俺もみんながよければいいぜ」


 ベン、いつも追従してくれてありがとう。


「俺はカリンが良ければいいけど・・・・・・」


「私はやってみたい。好きでやってきたことではないけど、勉強してきたことが国のために役立つならやってみたい」


「カリン、ありがとう。君が知っていること、学んだことは、情報部にとっても非常に貴重で、絶対役立つよ」


「私は特に何もできないけど、私とルナだけお留守番は絶対いやだからね」


「もちろんだよ。フレアやルナがいると相手も油断するからね。すごく役に立つと思うよ」


 ちょっと苦しい・・・・・・。ナリス長官にどう説明しようかな。


「なら決まりだな」


 カリンのうれしそうな顔を見てルカもやる気になったようだ。


「まだナリス長官から許可をもらったわけじゃないけど、もらえるようになんとかがんばります」



 翌日、ローラさんに提案について相談すると、すぐにナリス長官との面会時間をとってくれた。


「やってみたまえ。キール村の惨劇まで我が国は少々平和ぼけしていたことは否めない。敵国の諜報活動への対応が不十分だったと言わざるを得ない。私も責任を感じている。人選も含めてこの件は君に一任する。全面的にバックアップしよう」


 なんかすごくあっさりと決まってしまった。こんなんでいいのか?



 ナリス長官執務室から退出すると


「リアムさん、よかったですわね。人選の件、必要なら私も協力させていただきます。情報部には知り合いたくさんいますから」


「ローラさん、いつもやさしい言葉をありがとうございます。とてもうれしいです」


 ローラさんはいつもやさしい。笑顔も素敵だ。話す内容も話し方も思いやりにあふれてる。こんないい人なかなかいないよね。


 あれっ、ローラさんの顔が真っ赤になってる。


「おはよう。リアム」


 聞き覚えのある声が後ろから飛んできた。


「エリン師匠、どうしたんですか?」


 なんであなたがここにいるの?


「実はね、カーネル長官に、リアムがどうしても私の助けが必要だと懇願しているって言ったら、特例として国防省に転籍する許可がおりたのよ。私もびっくりしたけど」


「うえっー!そんなことあるんですか?」


 師匠、恐るべし。何でもありだな、この人。最近ようやく普段の自分に戻りつつあったのに・・・・・・。またこの人のペースに巻き込まれてしまうのだろうか。


「あの、ローラさん、この件、何か聞いてましたか?」


「ええ、今朝ナリス長官からお聞きしました。エリンはリアムさんと同じチーム、つまり私のチームに配属になります」


「ローラ、久しぶりね」


「えっ。お二人お知り合いなんですか?」


「専門学院の同期」


「ええ、まあ、あまり関わらないようにしてきましたけど」


「相変わらず嫌味なやつだな」


「相変わらずって」


「まあ、これからは一緒にやっていくわけだからさ。よろしく頼むよ」


「ここでは私が上司になりますから、わきまえてくださいね」


「わかってるって」


 なんか、ローラさんすごくやりにくそうだな。大丈夫かな。


「ところで、リアムさん。どうしてエリンが師匠なんですか?」


「ええと、それはエリンさんが師匠と呼べというので」


「私の方がエリンさんより立場が上なんですから、私が師匠じゃないかしら。おじいさまも師匠だったし」


 なんかいつものローラさんじゃなくなってる?


「あっ、はい。わかりました。ローラ師匠」


 う~ん。師匠が2人になってしまった。



 新メンバーは翌々日から登庁した。カリン、フレア、ルナの3人は国防省では目立つ存在だ。行き交う人の注目を集めている。


 みんなのために、何とか部屋をひとつ確保した。さっそくこの部屋で今後についての打合せだ。


「今後のことなんだけど、まずはカリンに諜報活動について教えてもらうことから始めようと思ってます。それと並行して、僕が作成した国防省と外交部の組織図と人物相関図をもとに調査対象を決めて、調査を行っていきます。フレアとルナには省内の食堂で働けるように手配したので、そこであやしい人物がいないかの調査をお願いします」


 フレアとルナは納得してくれるかな?


「はい。わかりました。フレアお姉ちゃん一緒にがんばろうね」


「うん。ルナちゃん、がんばろうね」


 職場が一緒だということだけで満足してくれたみたいだ。よかった。


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