第40話
後日、リアムは公安省のカーネル長官からの呼び出しを受けた。
「リアム君のおかげで大勢の国民が救われた。本当にありがとう」
「いえ、私は何もしていません。カーネル長官とラーク様が動いていただいたおかげです。キール村から拉致された方まで救っていただき、本当に感謝しかありません。ありがとうございました」
リアムは深々と頭を下げた。
「ところで、この後、ナリス長官とラークに会うんだが、君も連れてくるように言われていてね。問題ないかな?」
「はい。承知いたしました」
国防省長官執務室。
「君がリアム君か。君が勇気を持って動いてくれなければ、大勢の国民の命が失われていた。君には心から感謝している」
ナリス長官はリアムの右手を両手でしっかりと握りしめた。
「いえ、私もナリス長官と同じで、国民、そして、仲間の命を救いたかったんです。こちらこそ迅速に対応いただき感謝申し上げます」
「まあ、挨拶はその辺でよかろう。ところで、リアム君、君はこの先我が国はどう動くべきだと思うかね」
「そうですね。エストニア峡谷とバイロン収容所のことでエルドランとは遅かれ早かれ戦になる可能性が高いと思います。また、エルドランがフェンネル領内を通って侵攻してきたことを考えると、エルドランがフェンネルとつながっているのは間違いないでしょう。ガルディアがエルドランやフェンネルと通じているかどうかは不明ですが、敵対することがあっても味方になる可能性は低いと思います。フェンネルとガルディアに挟まれているデカントはその地理的な状況を考えると、両国の意向に背くことは難しいでしょう。こうした状況を踏まえると、我が国は、早急にキシリス、バンドラとの包括的な軍事同盟を締結すべきと考えます」
「なるほど。君はどこかで軍事・外交について学んだことがあるのかね?」
ラーク前軍師が身を乗り出して聞いてきた。
「軍事・外交のことは全くの門外漢です」
「ほう。センスがあるということかもしれんな。リアム君、しばらくわしのところで学んでみる気はないかね。実のところ、私の寿命はもうすぐ尽きる。その前にこの国のために大切なことを君に託したいのだよ」
果たして自分にそんな重責が務まるだろうか。軍事も外交も全く知らない素人に。それでも国のみんな、仲間たちを救いたいという気持ちは強い。それに予知夢を軍事や外交に役立てることができるかもしれない。
「承知いたしました。どうぞよろしくお願いします」
「そういうことならば、今回の功績の褒賞という意味も込めて、国防省長官直属の軍略担当見習いという身分でリアム君をうちで雇うことにしたい。カーネル長官、いいですかな」
「リアム君には公安省でがんばってもらいたいと思っていたが、国家存亡の危機に直面している今、私のわがままを通すわけにはいかんだろう。ラーク、リアム君を頼む」
なんか、えらいことになってしまったな。リアムは思いもよらぬ展開に少々戸惑ったが、キール村の惨劇を繰り返さないためにも、やれることはなんでもやろうと覚悟を決めた。
ラーク前軍師と今後のことを相談した後、公安省に戻る途中でグースとばったり会った。
「お前、まだいたのかよ。さっさと田舎に帰れ。帰らなければどうなるかわかってるんだろうな」
リアムはゆっくりと深呼吸をして自分に言い聞かせた。
世の中にはいろんな人がいる。自分の価値観や判断基準とは全く異なる理解しがたい人も大勢いる。そういった人に対していちいち腹を立てても仕方がない。自分の忍耐と寛容が試されていると思えばいい。
「今日付けで公安省を退職して、今後は国防省でナリス長官に仕えることになった。グース、もう君の視界から消えるから安心してくれ。君が道学の本質を理解・実践して、多くの人を幸せにする仕事が出来るようになることを祈っているよ」
「なっ、何言ってるんだ、お前・・・・・・」
リアムはグースの次の言葉を待たずに先を急いだ。
「ブレナン室長、お話があります。先ほど、カーネル長官の了解のもと、国防省長官官房に異動することになりました。本日まで大変お世話になりました」
「ああ、ついさっき、長官から話を聞いた。まだ着任したばかりで残念だが、新天地での活躍を期待しているよ」
「ありがとうございます」
会話を聞いていたエリン師匠が隣の会議室に手招きした。
「本当なの?」
エリン師匠の顔が蒼ざめている。
「ええ、すいません。全く予想外の展開で、ついさっき決まってしまいました」
リアムは顛末をエリン師匠に説明した。
「そんなことがあったの・・・・・・」
師匠らしくない弱々しい小さな声だった。
「はい。でもエリン師匠は今後も僕の師匠に変わりありませんから。もう一人新たに師匠ができましたけど」
「新たな師匠って、だれ?」
「ラーク前軍師です」
「えっー」
「ということで、これからしばらくはラーク師匠から軍事・外交を学ぶことになります。エリン師匠、大変お世話になりました。」
「も、もう、会えなくなるの・・・・・・」
「いや、そんなことはありませんよ。ラーク師匠の家ここからすぐですし。また会えますよ」
「公安省辞めても、私の弟子は辞められないからね。わかってる?」
「はい、エリン師匠。もちろんです」
師匠の顔にほんの少しだけ笑顔が戻った。
最後に、機嫌を戻した師匠にグースとの一連の出来事を話して後を託した。師匠の笑顔が不気味なものに変容していた。




