第38話
朝食後。食卓を囲むみんなの顔はこころなしか険しくなっている。ルナには寝室にいるようにお願いした。
「夢でわかったことは3つあります。ひとつめは、エルドランが我が国とフェンネルとの国境線から攻めてくること。ふたつめは、国防省内部にエルドランの諜報員がいて、ガルディアが我が国を攻めてくるという偽情報を流すこと。みっつめは、拉致された50人がエルドランのバイロン収容所で監禁されていること、です」
「うーむ。俺たちが出来ることは、このことを国防省内でそれなりに発言力があり、かつ、エルドランの諜報員ではない人に知らせて、国防省内で対処してもらうということ、かな」
ノアのお株を奪うような発言の主はベンだった。
「フェンネルとの国境に我が国の軍隊を派兵し、しかも、それを国防省内部の諜報員に知られないようにして、逆にその諜報員に偽情報を与えてエルドランをたたくというシナリオだな」
相変わらずノアの切れ味は鋭い。
「作戦としてはそういうことだが、問題はその情報の信憑性をどうやって高めて、誰を通じて国防省幹部に伝えるかだ」
ルカがまさに核心を指摘してくれた。
「まさに、そこが最大の難所だと思います」
そう言うと、リアムは腕を組んで考え込んだ。この情報の信憑性が一番高いのは、エルドランに潜入している我が国の諜報員から持たされた場合だ。
「確か、ノアたちは以前国防省に依頼されて各国で情報を集めていたって聞いたけど。伝手はあるんですか?」
リアムはノアに視線を向けた。
「あるにはあるけど、俺たちが集めていた情報は、どちらかというと世間の噂話的なものなんだ。そもそも俺たちに軍事情報収集なんて出来ないからね」
「それでも、ノアたちがエルドランを旅して、たまたまその情報を知ったというシナリオで持ち込めば、少しは信用してくれないでしょうか?やってみる価値はあるのでは」
「リアムがそう言うなら試してみるか。ただし、どこで誰からどういう状況で聞いたのかについては、もっともらしい話をつくっておく必要があると思う」
ノアは常に冷静だ。
「そうだな」
ルカとベンが頷いている。
「じゃあ、その話は一度みなさんで考えてもらっていいですか?」
「わかった。考えてみる」
やはりノアは頼りになる。
「誰を通じて国防省幹部に伝えるかについては、僕に心当たりがあります。シナリオが出来次第相談に行くことにします」
公安省長官執務室。
「カーネル長官、本日は急な申し出にも関わらず、お時間をいただき、ありがとうございます」
「いや、構わん。国家存亡の危機と言われて話を聞かんわけにはいかんだろう」
「はい」
リアムはゴクリと唾を飲み込むと説明を始めた。
「もし、それが事実ならば我が国は大変なことになる。だが、事実でなかったとしたらかえって国を危うくすることにもなりかねない」
「長官、そこでご相談なのですが、ラーク前軍師とお話する機会を作っていただけないでしょうか」
「うーむ。わかった。今すぐに出かけよう」
ラーク前軍師の家宅は、国防省の建物から500mほどのところにあった。
「ラーク、すまんな。突然おしかけて」
「いや、構わんよ。今は気楽な隠居生活じゃ」
「こんにちは。先日は大変お世話になりました」
「ああ、リアム君だったね。君が一緒ということはキール村の件かい?」
「はい。それにも関係しております」
リアムは説明を始めた。
「もし、この情報が事実であれば、まさに国家存亡の危機である。逆に、偽情報だとしたら、罠にはめられて、国民の生命と財産を脅かすことにもなりかねない。だからこの情報の信憑性を見極めなければならない。リアム君、この情報の出所を教えてくれるかな?」
「はい。私の友人は以前国防省から委託され、エルドラン、フェンネル、デカント、ガルディアの国内情報を収集して報告しておりました。その友人が昔エルドランで盗賊に襲われていた親子を助けたことがあったんです。そのとき、友人は一切お礼を受け取りませんでした。そして、先日その友人がエルドランに行ったときに偶然その親子に会ったそうです。そのときこんな話を聞いたそうです。その親子はバイロン収容所というところで働いていて、つい最近大勢の若い女性が運び込まれてきたそうです。そのときの指揮官は女性に、『お前たちの祖国はもうすぐ滅びる。諦めて俺の言うことを聞け』と言って乱暴したそうです。その親子は酒に酔った兵隊のこんな話も聞いたそうです。『アドリアのあほうども。誰も来ないところで待ちぼうけとはご苦労なことだな』と」
「うーむ」
「以上の情報が事実だとすれば、2つの可能性が浮かび上がります。ひとつめは、キール村を攻めたのはエルドランであり、拉致された女性はバイロン収容所に監禁されていること。ふたつめは、エルドランは、第三部隊を移動させたことにより手薄になっているフェンネル国境を超えて攻めてくる可能性が高いこと。しかしながら、ラーク様がおっしゃったように、これが偽情報である可能性も否定できません」
「それでリアム君はどうしろと?」
「はい。そこでご提案があります。まず、ひとつめの情報について間違いがないか、我が国のエルドラン潜入諜報員に速やかに確認させること。ふたつめの情報についてフェンネル国境付近に偵察を送って確認すること。ただし、手遅れにならないように並行して迎撃隊を組織化しておくこと。以上2つを確認した上で、この情報の真偽をご判断いただくのがよいと思いますが、いかがでしょうか。ここからは私の推測となりますが、おそらく我が国にエルドランの諜報員が潜入しており、情報工作をして我が国に偽情報を流し、判断を過させようとする動きがあると思われます。そこで、国防省内部でエルドランから目を逸らせようとする情報を報告する者を確認することも併せて提案いたします」
リアムは一呼吸おいた。
「うーむ。そういうことならばリスクは最小化できる、か。しかし、迎撃隊の組織化となると他のエリアの軍備が手薄になり、部隊長からは反対される可能性があるがな」
「それについてですが、もし、エルドランがフェンネル国境を超えてくるのであれば、エストニア峡谷を通ってくるほかありません。そうであれば、少数で殲滅する作戦があります」
「狭い峡谷ならば崖上から容易に殲滅できるだろう。わかった。この件はわしが預かる」
「ラーク様、国民のいのちがかかっております。何卒よろしくお願いいたします」
「承知した。ところでキール村の唯一生き残った女の子はどうしておる?」
「はい。ルナは私が引き取り、妹として育てていきます。少しづつですが元気になっています」
「そうか。それはよかった。では、ルナを守るためにも、微力を尽くすとしよう」




