↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/60

第32話

 リアムは1週間の間に、公安省だけでなく産業省、国防省、国民省に所属する観察者10名から個別に話を聞いた。さらに、過去の内部通報履歴を調べ、内部通報者2名からも話を聞いた。


 観察者はたいていの場合3名の対象者を受け持っていた。対象者は、通常の場合、観察者制度担当者に指名されるとのことだった。


 例外として、職場で急に金遣いが荒くなったり素行が悪くなった人物がいれば各自の判断で観察対象者に加えることになっていた。


 観察者の悩み事としては、何らかの対処が必要になったとき、具体的な対処方法についてすぐに相談できる人がいない、ということが一番多かった。


 しかし、公安特務室の担当者が観察者と頻繁に会ってフォローするということは現実的には難しい。だとすれば、観察者同士で助け合うしかないだろう。


 また、本来の仕事が忙しすぎて観察どころではないという話も多かったが、上司にも秘匿されている以上、仕事量の調整も難しいだろう。


 う~ん。やはり、仕事量を差配する上司を巻き込むしかないのか。しかし、上司からの情報漏洩リスクや、上司が観察対象の場合もありうることを考えると非常に悩ましい。このあたりはもう少し実態を精査してから判断すべきだろう。


 一方で、内部通報者からの話は予想どおりのものだった。告発には自分と家族が犠牲になるかもしれないという覚悟が必要で、その覚悟の見返りが正義を貫くということだけでは、制度として機能させるのは難しいのではないかとのことだった。


 実際に、2人とも告発後は組織内で浮いてしまい、思うように仕事が出来ていないようだった。現在の内部通報制度は、実名での告発が条件となっている。理由は簡単で匿名の告発は信用できないからだ。


 確かに匿名の告発には誰かを貶めるような悪意ある罠も含まれているだろう。それでも10件のうち1件でも真実であれば、通報者が不利益を被ることなく犯罪を摘発することができる。


 とは言え、公安特務室がすべての匿名告発をかたっぱしから捜査することも非現実的だ。そもそも、悪事を働いたり、人に悪意を持っている役人がどの程度いるのだろうか。


 仮にそういった役人が組織の中に5%程度いるとしても、偽の告発はそんなに多くないのではないだろうか。



「リアム、リアムっ、何ぼーっとしてるの?聞こえてる?」


 思考の海に沈んでいたリアムは現実に引き戻された。


「あ、はい、エリン師匠、聞こえてます」


「それでどうするか決めたの?」


「ええ、はい。大枠はだいたい、その、まぁ」


「はっきりしないわね。あなた男でしょ。あれ、ついてるんでしょ?」


「し、師匠、少しお言葉が過ぎませんか。ついてはいますけど」


「それで、何するの?」


「観察者の話を聞いてみて、やはり、観察者に対するフォローが弱いように思いました。それで、職場が近い観察者3人を一組のチームにして、助け合いができるような仕組みを作りたいと思っています。あと、内部通報制度ですが匿名告発もできるように制度変更についても検討してみたいです」


「ふーん。そうなの。わかったわ。やってみなさい」


「えっ。いいんですか」


「いいに決まってるじゃない。長官直々の命令なんだから。あなたが仕事を進める上で何か困ったことがあったら相談しなさい」


「ではさっそくですが、一度地方都市の観察者からも直接話を聞いてみたいのですが」


「わかったわ。ブレナン室長に相談してみるからちょっと待ってて」


 しかし、エリン師匠はやはり変わった人だな。でも面白い人だよね。話してて楽しいし。


 性格は少々きつめだけど、ふとした瞬間に見せる凛々しい表情や息をのむような美しさとのギャップが印象的だった。


 エリン師匠は7年前に卒業して、公安特務室を2年経験した後、2つの部署を各2年経験して、公安特務室に戻ってきたということだった。


 エリン師匠が席に戻ってきた。


「ブレナン室長の了解をとったわ。来週長官が地方都市のマルタに視察に行く予定があるから、同行するようにって」


「えっ。長官視察に同行ですか。なんか話が大きくなってませんか。私はできればひとりで行きたいのですけど」


「それはダメ。室長の命令だから。私も同行するし。あんたのお目付け役でね。きゃは。マルタには行ってみたかったのよね~。ラッキー。よし、弟子のリアムよ。今から出張に必要なものを買い出しに行くわよ。ついてきなさい」


「師匠、なんでそうなるんですか。まだ仕事中ですよ」


「準備も仕事なんだから。早くしなさい。命令よ」


「ふぁい。わかりました。エリン師匠」


 最近、自分が自分でないような気がする。なんか変な感じだ。僕ってこんな性格だったかな?


 ペレスに来てからみんなと家族のように暮らし始め、自分でなんとかしなければならないという責任感から解放されて肩から力が抜けたことも一因かもしれない。


 だけど、根本的な原因はエリン師匠のような気がする。エリン師匠と一緒にいると、これまでの自分とは違う自分になってしまう気がする。


 このままでいいのかなぁ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。