第25話
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置手紙を読み始めると、フレアの膝はガクガク震え、呼吸が浅くなった。
今にも折れそうな心をなんとか奮い起こし、リアムは必ず帰ってくる、そう自分に言い聞かせた。そして、みんなの無事の帰還を祈った。心が穏やかになるのは祈りの中だけだった。
翌日、家からさほど遠くないところに祭ってある大きな石碑を思い出し、そこに行くことにした。
石碑に着くと、おもむろに地面に膝をついてクヌム神様に祈り始めた。
ひとりも欠けることなく全員が無事に帰ってきますように。危ない目あったり、ケガすることなく、1日も早く戻ってきますように。
カリンが明るく前向きになって人生を取り戻し、幸せになれますように。
心中深く祈りを捧げるフレアの頬に涙がつたう。
カリンも私と同じでさらわれて怖かっただろうな。2年もの間も誰も助けてくれなくて辛かっただろうな。
そう思うと涙が止まらなかった。
祈りを終えて、家に向かって歩いていると、うしろから馴染みのある声が聞こえてきた。
「おーい、フレア」
振り返るとリアムが手を振っていた。
「リアム・・・・・・」
一瞬、幻夢のように思えて動けずにいたが、リアムの笑顔に瞳の焦点が合うと大きく手を振り返した。
リアムは馬を降り、
「カリンさんも、みんなも無事だよ」
そう言うと両手を広げ、フレアを抱き寄せた。
「リアム、おかえりなさい。無事でよかった」
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ドアをノックすると、金色の髪が美しく輝き、目鼻立ちが整った女性が迎え入れてくれた。
「ようこそリアムさん。はじめましてフレアさん。兄から話を聞いています」
カリンはペコリと頭を下げた。
「カリンさんが無事に戻ってこられて本当によかったです」
カリンの後ろにいたルカたちも満面の笑みを見せている。
「さあ、食事にしよう」
ルカの声は弾んでいた。
食卓には、パンとスープ、惣菜や干し肉、チーズやフルーツが所せましと並んでいた。そして、こころから幸せそうな笑顔がいっぱいだった。
フレアもカリンも無事に助けることができた。本当によかった。なんとも表現しがたい幸せの感覚がリアムの体中に満ちあふれていた。
「みなさんは、これからどうする予定なんですか?」
リアムは気になっていたことを率直に尋ねた。
「俺たち4人はもともとマルタという街に住んでいてね。カリンを探すために旅に出たんだけど、俺とカリンの両親はもう亡くなっていて・・・・・・。今となってはマルタに帰る場所はないし、これからはフェンネルの追手から隠れて生きていくことになる。みんなを巻き込まないつもりだ」
「お前さ。何言ってんの。水くさい。俺たちはこれからもずっと一緒に決まってるだろ」
ノアの言葉にベンも頷いていた。
「俺たちは家族だからな」
ベンは自分で言って照れくさそうな顔をしている。ルカは涙が瞳からこぼれ落ちそうになるのを必死に耐えているようだった。リアムも何か熱いものがこみ上げてきた。仲間っていいな。
「リアムとフレアはようやく街に戻ってこれたんだし、これまでの生活に戻るんだろう?」
ルカが矛先を変えた。
「う~ん、そのことなんですが、まだフレアにも相談してないし、決めたわけではないんですが。実はベルクさんから王都ペレスの公安省で働かないかっていうお誘いがありまして」
フレアの顔がこわばるのが見えた。
「それが本当だとしたらすごいことだよ。公安省で働くには専門学院卒業が必要なんだ。それなしで働けるのは異例中の異例だね」
ノアが興奮気味に言った。
「リアムは行きたいの?」
フレアの声は震えていた。
「正直なところ、フレアが一緒に来てくれるならとは思ってる。だけど、フレアにはマチルダさんやダニエルさんがいるから、」
「私、ずっとリアムと一緒にいたい。だから、どこにでもついていくからねっ」
フレアの力強い決意がリアムの言葉を遮った。
フレアは自分が何を言ったのか気づいて、頬を赤く染め、目をふせた。リアムも一緒に赤くなってしまった。
「決まりだな。リアムとフレアは王都ペレスに行く。そして俺たちも一緒に行く。どうだ、みんな」
ノアはひとりひとりの表情を確認した。
「そうだな。みんなで助け合えばなんとかなるだろ」
ベンが賛同した。
「俺とカリンが一緒だとみんなに迷惑がかかるかもしれないけど、もし許してくれるなら一緒に行きたい」
ルカの横でカリンも頷いている。
「よし、決まった。みんなで王都ペレスに行くぞ」
ノアの言葉にみんなが
「おーっ」
と続いた。
準備や挨拶もあるということで、10日後にトポスを出発することにした。
翌日の昼前に、リアムはフレアを迎えに行った。今日はお弁当を持ってのピクニックだ。
フレアは草むらの上に布を敷くと、籠からパン、チーズ、干し肉、フルーツを出し始めた。
「フレア、ペレスに一緒に来てくれてありがとう」
「うん。これからはいつも一緒だよ」
「ああ、うん・・・・・。フレア、母さんの喪が明けたら、フレアと結婚したい、と思ってる」
フレアの頬が一瞬で赤く染まる。その表情を隠すかのようにリアムの胸に顔をうずめた。
「うれしい。本当にずっと一緒にいられるんだね」
「うん」
フレアの頭をやさしく撫でる。フレアは顔を上げると目を閉じた。リアムはそのかわいらしい唇にそっと自分の唇を重ねた。
丘からの帰り道、フレアは機嫌よく鼻歌を歌っていた。その鼻歌を聞きながら、リアムはこれからのことに思いを巡らせた。ペレスに行って、公安省で働き、そこでフレアと一緒に暮らしていく。
初めて行く街で誰も知っている人はいない。もちろん、ノア、ルカ、ベン、カリンはいるけど。
ちゃんとやっていけるだろうか。いや、そんなこと今から心配してもしょうがないか。ペレスに行って何かあればその時に考えればいい。先のことをあれこれ心配しても気疲れするだけだ。きっとなんとかなる。
フレアの家に着くと、早速マチルダさん、ダニエルさんに、自分が王都ペレスの公安省で働くことになったこと、そして、フレアを連れていきたいこと、将来フレアと結婚するつもりでいることを報告した。
2人は最初とても驚いていたが、満面の笑みで幸せそうなフレアを見ると、すぐに祝福してくれた。
翌日以降は、叔父と叔母、職場のソフィアさん、学舎時代の友達、公安のベルクさんなど、お世話になった人たちへの挨拶で多忙を極めた。
父と母が残してくれた家を売却してペレスでの新生活に必要な資金も手に入れることができた。
すべての準備が整い、いよいよ明日出発だ。リアムは、約17年半暮らした街、お世話になった人たちとの別れを寂しく感じていたが、同時にフレアと新しい仲間との新生活に胸を躍らせていた。




