第23話
リアムは祈らずにはいられなかった。
ルカにとってのカリンを自分にとってのフレアに重ね合わせた。
カリンが無事に戻り、ルカとともに幸せになってほしいと、心から願った。
幸せを祈る情感が高まっていくとともに全身が熱を帯び始めた。
魂を揺さぶる波動がひたひたとリアムの中に広がっていった。
それはまるで、クヌム神様によって人の形をした粘土に新たないのちが吹き込まれているかのようだった。
クヌム神様、どうか1日も早くカリンの居場所がわかり、救い出すことができますように。
カリンが無事にルカのもとに戻ってきて幸せになれますように。
これまでのカリンの苦しみや悲しみがことごとく癒やされ、これからの人生に希望を持って歩んでいけますように。
カリンが幸せそうに笑ってルカと楽しそうに話している姿を思い描きながら、ただひたすら2人の幸せを祈った。そして、いつの間にか眠りに落ちていった。
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朝焼けの淡い光があたりを照らし始めると、高さ10メートルはあろうかという石レンガ造りの巨大な時計台が、いまだ目覚め切っていない街に大きな影を落とした。
時計台のすぐ横には大きな川が流れており、川沿いに視線を進めると、オレンジ色の屋根の立派な屋敷が姿を現した。そして、その屋敷の横には、こじんまりした平屋の家と厩舎が連なっていた。
その平屋の家の前で、若い女性の右腕が男に掴まれていた。
「離して」
とその女性は叫んでいるようだった。
女性の顔の輪郭と表情が次第にはっきりと見えてきた。整った目鼻立ちに、芯の強さと気品が宿る凛とした顔立ち。
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「カリン?」
そう叫ぶと同時に、リアムはがばっと目を見開いた。
夢?
これまでにも2度、こうした夢を見たことがある。1度目はライアンたちから逃げているときデントスの森で見た夢。2度目はパン屋で働いていたときに見た夢。
もしかしたら今日の夢も未来を教えてくれる夢なのかもしれない。リアムは夢で見たことをすべて紙に描き写した。
そして、すぐにルカのところに向かった。出来るだけ早く知らせたかった。
「やあ、リアム、おはよう。今日は早いね」
ルカは今起きたばかりのようだった。
「大切な話があるんです。申し訳ないですが、今いいですか?」
「もちろんだよ。すぐにノアとベンを呼んでくる」
リアムはみんなが揃うのを待っておもむろに口を開いた。
「カリンの居場所がわかったかもしれません」
「それはどういう意味?」
ルカがすぐに反応した。
「信じてもらえないかもしれませんが、僕は未来に起こることを夢で見ることがあるんです」
3人ともに言葉の意味を理解できないのか、ぽかんとした表情だ。
「本当のことなんです。これまでにそういった夢を2度見たことがあります」
「それで、今カリンはどこにいるの?」
ルカの真剣なまなざしを受けて、リアムは一枚の紙を出し、夢で見たことを順に説明し始めた。
「この時計台は、確か、フェンネルの王都バルトで見たような」
ルカが興奮気味に言った。
「確かに似てるな」
ノアが頷いた。
「カリンはおそらく逃げようとして、男に捕まってしまったんだと思います。おそらく数日後にはこれが現実になると思います」
自分で言っておきながら、何の根拠もない絵空事のような話。こんな話を信じてはくれないだろうと思って様子をうかがうと、3人はお互いに顔を見合わせて大きく頷いている。
「すぐに準備して出発しよう」
ルカはそう言うとすくっと立ち上がった。
「僕も行きます」
リアムは咄嗟に反応した。
「いや。リアムはフレアと一緒にいたほうがいい。気持ちだけ貰っておくよ」
ルカは諭すように言った。
そう言われてリアムは黙りこんでしまった。確かに今はフレアのそばにいたい。再びフレアに何かがあったらと想像すると胸が締め付けられる。だけど、本当にそれでいいんだろうか?
カリンを取り戻したいルカの気持ちは痛いほどわかる。しかも、自分が一緒に行ったほうが見つけ出せる可能性は高い。そもそもフレアが助かったのはルカたちの協力があってこそだ。
それなのに、フレアのことが心配だからといってこのまま一緒に行かなくてよいのか?恩義あるルカたちに今こそ自分ができることをすべきではないか?
フレアに何かあったらという不安と恐怖。ずっとそばで守っていたいという強い思い。リアムはこれらの感情と欲求を断ち切った。
「いいえ。私も一緒に行きます。その方がカリンを見つけられる可能性が高まると思います。みなさんにはこれまで何度も助けていただきました。今度は私に手伝わせてください」
「リアム、ありがとう。本当にありがとう・・・・・・」
ルカはリアムの手を握りしめた。
リアムはすぐに家に戻って旅支度を済ませ、フレアへの手紙を書き置くと、3人と城門で合流した。
4人は一瞬も時間を無駄にしたくないという思いで馬に鞭を入れ、目的地であるフェンネルの王都バルトへと急いだ。




