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第17話

 借りた一軒家にはつい最近まで人が住んでいたらしく、テーブル、椅子、ベッドなど必要なものは一通り備え付けられていた。当面はここが拠点となる。


 ノア、ルカ、ベンが宿を引き払ってやってくると、すぐにテーブルを囲んで作戦会議を始めた。リアムが口火を切る。


「奴らが執拗にフレアを狙ってくる以上、もう逃げずに立ち向かうほかありません。犯罪の証拠を掴み公安を動かします。どうかみなさんの力を貸してください」


 ノアは頷いてリアムの覚悟に同意を示し、続けた。


「ああ、もちろんだ。ただ、前にも言ったように、もし公安に奴らの仲間がいた場合はやっかいなことになる。リアムやフレアの証言だけでは難しいかもしれない。だからなんとしてでも言い逃れが出来ない証拠をつかむ必要がある」


「問題は誰に伝えるかだ。公安で実権を持つのは司令官と副司令官。相互監視の仕組みになっている。まずはこの2人が買収されているかどうかを調べる必要があると思う」


 ルカの指摘にみな頷いた。


「では、タイラーが白状した悪行の裏取りをして証拠を集めつつ、司令官と副司令官を見張って奴らとの繋がりを探ることにしよう」


 方向性が決まってみんなほっとしたせいか、我先にとテーブルに並べられたパン、干し肉、チーズ、ドライフルーツに手を伸ばし始めた。



 翌朝からノア、ルカ、ベンはライアンたちのアジトに張り付いた。


 まもなく、タイラーの言っていたことが事実であることがわかった。確認できたことは次のとおりだ。


 アドリア国の法律では、安全保障の観点から、主食となる小麦、いも、豆、とうもろこし、ならびに武器の一切すべては、国が一括購入した上で、厳正な審査を受けて販売許可を取得している商人にのみに卸すことになっている。


 そして、主食と武器は他国に輸出することは禁止されており、武器については大量に保有しているだけで大罪となる。


 ところが、ヘルペスは、農家から小麦を、鍛冶屋から剣を直接買いつけて他国に輸出していた。さらに、アドリア国の法律で禁止されている賭場も今週だけで2回も開いていた。


「たった1週間でよくここまでわかりましたね」


 リアムは率直に感嘆していた。


「実は、俺たちカリンを探すのと並行して、他国の動向を調査して国防省に情報提供するという仕事もやっていたんだ。旅にはなにかと金がかかるからね」


 ルカが重大なことをさらりと言った。


「そうだったんですか。みなさんの手際の良さに納得いきました」


「ここまでわかれば、あとは大量の武器を保有している現場を公安に抑えてもらえばいい。協力している鍛冶屋が特定できたから、彼らへの証言取りは公安に任せればいいしね。これで証拠については目途がついたね」


 ノアがいつものようにまとめてくれた。


「あとは公安の誰に伝えるかなんだけど、司令官も副司令官も今のところなんの動きもないんだよな」


 ベンがめずらしく弱音を吐いている。


「こちらから仕掛けてみるのはどうでしょうか」


 リアムはたった今閃いた考えを披露した。


 翌朝、リアムは2つの手紙を書いた。ひとつは司令官宛のもの、もうひとつは副司令官宛のものだ。手紙の内容はそれぞれ違うものだ。


 司令官宛の手紙の骨子は次のようなものだ。

 大商人ヘルペスが違法な賭場を開いていること。

 自分は無理やり賭場に連れていかれて八百長にはめられて苦しんでいること。

 次の開催日と場所がわかったらすぐに連絡するから捕まえてほしいこと。

 ヘルペス一味は公安の副司令官と繋がっている可能性があるからこのことは副司令官には内密にしてほしいこと。


 副司令官宛の手紙の骨子はこうだ。

 大商人ヘルペスが、小麦や武器の不正輸出や人さらいを行っていること。

 自分は無理やり協力させられていること。

 次の不正輸出の取引日と場所がわかったらすぐに連絡するから捕まえてほしいこと。

 ヘルペス一味は公安の司令官と繋がっている可能性があるからこのことは司令官には内密にしてほしいこと。


 もし、ヘルペスと内通しているなら、何らかの方法でヘルペスにこの手紙のことを知らせるはずだ。


 そして、連絡を受けたヘルペスはおそらく賭場の話なら賭場はしばらく開催せず、用心のため不正輸出についてもしばらく様子を見るだろう。逆に不正輸出の話なら当面の取引は延期して、用心のため賭場も開催しないだろう。


 つまり、ヘルペスたちはいったんすべての悪事をやめて様子を見る可能性が高く、その時点ではどちらが内通者であるか判断するのは難しい。


 しかしながら、しばらく何の動きもなかったら、報告を受けていないことだけでも再開しようとするのではないか。そうなれば誰が内通していたかがわかるかもしれない。


 必ずしも想定どおりには行かないかもしれないが、今はこれにかけるしかなかった。あとはライアンたち実行部隊の動きを見張って臨機応変に対応するしかない。


 手紙は、その日のうちに、司令官、副司令官それぞれの自宅に届けられた。


 その後、しばらくして賭場の開催も不正輸出も中止となった。つまり、司令官と副司令官のどちらか、もしくは両方がヘルペスと内通していることが確定した。



 ******

 ノアは、ルカとベンとともに忍耐強くライアンたちの見張りを続けていた。


 1か月ほど過ぎた頃、ライアンたちが酒場に入るのを見てその後を追った。隣の席に腰かけて耳を澄ませた。鬱憤がたまっていたせいか、酒場では3人ともかなり気がたっているようだった。


「取引の催促が多すぎてどうにかなりそうですよ。こっちのことはバレてないんだからさっさと再開すれば・・・・・・」


 ハリソンが愚痴っぽくぼやき始めると、


「おい、その話はよせ」


 慌てた様子でジェイクの言葉をライアンが遮った。


 ノアはその会話を聞き逃さなかった。しばらく飲み食いして席を立った。

 ******



 酒場から戻ったノアたちは、すぐにリアムとフレアに酒場で聞いたことをそのまま伝えた。


「司令官がヘルペスの内通者でしたか・・・・・・」


 リアムは力なくつぶやくように言った。


「しかし、公安の司令官が内通しているなんて世も末だな」


 ベンが複雑そうな表情をしている。


「奴らもそろそろ我慢の限界だろう。取引先からの圧力もあるだろうから、近いうちに取引を再開するはずだ」


 ルカがみんなの顔を見回している。


「奴らに動きがあり次第、フレアと一緒に副司令官に伝えに行きます。ノアさんたちは引き続き奴らの見張りをお願いします」



 酒場での出来事から3日後、事態が動き始めた。


「リアム、ようやく動きがあったよ。奴らは鍛冶屋に行き、そこで大きな荷物を荷馬車に積み込んでアジトに戻ってきた。おそらく近いうちに取引する可能性が高いと思う」


「やはり、動きましたね。そうであれば、すぐに副司令官に手紙を書きます。日時と場所についてはわかり次第改めて伝えるということにします」


「頼む」


 リアムはすぐに手紙を書き始めた。手紙の内容は次のとおりだ。

 大商人ヘルペスが、人さらい、不正な輸出、賭場の開催をしていること。

 この手紙を書いているのは、数か月前にヘルペス一味にさらわれたリアムであること。

 今は奴らから逃げ出して、フレアとともに身を隠していること。

 ヘルペスたちが逮捕されなければ、自分とフレアはトポスの街に戻ってこられないこと。

 司令官がヘルペスに内通しているため、司令官には内密にしてヘルペスたちを逮捕してほしいこと。

 ヘルペスは武器の輸出を近々計画しているため、その現場を抑えてほしいこと。

 その際は5名以上で来てほしいこと。

 日時と場所についてはリアムとフレアが副司令官宅に伺って直接伝えること。



 ******

 翌朝、ノアとルカは日の出前から奴らのアジトを見張っていた。


 案の定、日の出とともに奴らは動き出した。荷物を馬車に積むと東門の方角に向かった。


 ノアとルカは距離をとってしばらく後を着けていたが、東門に行く一直線の道に入ったとき、ルカはリアムたちに知らせるために元来た道を戻り始めた。


 家に着きドアを勢いよく開けると、テーブルに座っていたリアム、フレア、ベンが一斉にルカに視線を向けた。


「奴らが取引に出発した。俺たちも計画通りに動こう」


「いよいよですね。すぐに副司令官の自宅に向かいます」


「俺とルカはノアと合流する」

 ******


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