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第16話

 5人は3頭の馬に分乗し、ある場所に向かって馬を走らせていた。リアムとフレアが薬草採取のときに知りあったステラおばさんの家だ。街の集落から少し離れた山の麓にある一軒家で、夫を病気で亡くして以来長い間一人暮らしをしていた。


 馬から降りて静かにドアの前に立つと、軽くノックをした。


「ステラおばさん、こんばんは。リアムです」


 家の中から慌てた様子が伝わってきた。すぐにドアの向こうになつかしい顔があらわれた。


「リアム、フレア。無事だったんだね。本当によかった」


「話せば長いんですが、このとおり無事です。事情があって今晩お世話になりたいのですが」


「もちろんよ。さあ、入りなさい」


 後方でこちらの様子をうかがっていた仲間たちに振り向きコクンとうなずくと、彼らはすぐに背を向けて立ち去った。


「ステラおばさん、お世話になります」


 フレアは疲れた表情を隠すように微笑んでいる。


「心配してたのよ。2人とも突然いなくなって、街は大騒ぎだったわ」


「実は、奴隷商人にさらわれたんです。どうにか逃げてきたんですけど、まだ追われていまして」


「そうだったの。大変だったのね。今日はもう遅いからゆっくり休んで明日話しましょう」


「パンとスープだったらすぐ出せるけど、食べるかい?」


「はい。ありがとうございます。実はお腹ペコペコで」


 食事を済ませて横になると、フレアはすぐに寝息を立てはじめた。リアムはいまだ興奮が収まらず、目を閉じてクヌム神様へ感謝のお祈りをしようとしても、いろいろな思いが頭の中を駆け巡ってなかなか集中できない。


 もう二度とフレアに会えないかもしれない、その思いが頭をよぎったとき、リアムは頭から血の気がひき、膝ががくがくと震え出し、暗闇の底へと放り込まれた。その感覚は今でもはっきりと思い出すことができる。


 今回はなんとか心を立て直し、あきらめずにトポスまで走りぬき、幸運にもフレアを救い出すことができた。


 リアムは以前バルカさんが言っていたことを思い出した。


『前世に自分が犯した罪は、今世で自分が償わなければならない』


 それは、愛する人との別離かもしれないし、病気やけがで苦しむことかもしれない。あるいは、お金や食べ物で苦労することかもしれない。その償いのあり方は前世で自分がどのような罪を犯したかによるとのことだった。


 自分とフレアは前世でいったいどんな罪を犯したのだろう?いや、これ以上考えることはやめよう。どうにもならないことを気にしたって仕方がない。


 もし、困難、悩み、苦しみに直面したとしても、それを悲観的に捉えずに、前向きに乗り越えるだけだ。その過程で自分を成長・進化させていくことが大切だとバルカさんは言っていた。


 自分を成長・進化させていくこととは、新しいことに挑戦し続け、真理を学び、より素晴らしい人格を形成していくこと。


そして、自分の周りの人を幸せにし、社会の人々により大きく役立つことを実現していくこと。以前、バルカさんが教えてくれたことが頭の中にはっきりと蘇ってきた。


 それにしても、前世の罪を償わなければならないのであれば、たとえクヌム神様に祈ったとしてもどうにもならないこともあるのだろうか?


 これも考えても仕方がないか。自分でできることを最大限にやって、クヌム神様にお祈りをして、あとは執着せずにクヌム神様にお任せしよう。そのように考えるとリアムはなんだか気持ちが軽くなった。


 リアムは、こころの中をクヌム神様への感謝の気持ちでいっぱいに満たした。そして、幸せな気持ちで眠りについた。



 ******

 ライアンたちは、たらふく食べて飲んで上機嫌で戻ってきた。ドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。


「タイラー。酒と肉を買ってきたぞ」


 ジェイクが呂律の回らない口で言ったが、返事はなかった。


「おい、タイラー、どこにいる?」


 タイラーがいつもいる部屋のドアを開くが、誰もいない。ライアンは女を監禁している部屋に向かった。ドアが開いている。中には誰もいなかった。


「ハリソン、ジェイク、家の中を全部調べろ、タイラーと女がいない」


 ライアンは外に出ると周りを見回した。帰って来たときには酔って気づかなかったが馬車も馬も消えていた。


 タイラーが女を連れて逃げたのか?それともあのリアムとかいう男の仕業か?


 だが、奴は俺たちのこともアジトのことも知らないはずだ。いったい、どうなっているんだ。ライアンは珍しく冷静さを失いパニックになっていた。


「兄貴、家の中には誰もいません」


 ジェイクが頼りない足取りでやってきた。女を取り返したことはまだボスには報告していない。まだなんとかなる。


「ハリソン、すぐに東門と北門に行って、タイラーが街を出たかどうか確認してこい」


「ジェイク、お前は南門と西門だ」


 二人はすぐに馬に跨り、鞭を振った。


 ナンドー商会の2人は酒場から宿に戻っており、ここにはいない。明日朝一番に、女を引き渡したことをなかったことにしてもらわなければならない。口止め料は自腹になるが仕方がない。



 しばらくしてハリソンとジェイクが戻ってきた。西門からタイラーが馬車で出ていったことがわかった。女が荷台にいたかどうかはわからないとのことだった。


 こうなるとタイラーが自分の意思で女を連れ出した可能性が高い。しかし、タイラーがなぜそんなことをしたのか? ライアンには皆目見当がつかなかった。


 ライアン、ジェイク、ハリソンの3人はすぐに西門に向かった。しかし、3人とも飲みすぎていたこともあり、どうしても睡魔に勝てず、道沿いの茂みで馬をつなぎ、眠ってしまった。


 翌朝起きたときは、探す気力もなく、意識朦朧の状態でアジトに戻った。

 ******



 一瞬のうちに朝がやってきた。窓から差し込む日差しをまぶたに感じ、リアムは目を覚ました。お湯を沸かしている音が聞こえた。


「おや、リアム、起きたのかい」


「おはようございます」


 フレアも目をこすりながら、起き上がった。


 簡単な朝食をとった後、リアムは事の顛末をステラおばさんに簡潔に説明してからこう言った。


「ステラおばさん、1つお願いがあるのですが」


「なんだい。私ができることならなんでもやってあげるよ」


 リアムはステラおばさんに手持ちのお金の一部を預け、一軒家を借りてもらうようにお願いした。しばらくは、そこに身を隠すことにする。ノア、ルカ、ベンにも合流してもらうつもりだ。


 ステラおばさんはすぐに動いてくれて、二日後から借りられることになった。先ほど様子を見に来てくれたノアにそのことを伝えた。


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