第15話
走り始めてどれくらい経っただろう。
ふと視線を前方に移すと、見慣れたトポスの城門が目に入ってきた。リアムはトポスの城門通過の手続きのため、ほんの少しだけ立ち止まったが、すぐにノアたちがいるはずの宿に向かって走り出した。
宿の前で足を止め、呼吸を整えていると、はからずも、ノア、ルカ、ベンの3人が宿の入口から出てきた。
「リアム、どうしてここに?何かあったの?」
ルカがリアムに気づいた。
「はあっ、はあっ。フレアが、フレアが。僕のせいで」
息も絶え絶えそう言うと、手と膝を地面についた。リアムはノアとベンに両腕を抱えられて、なんとか立ち上がった。
「何があったか話してくれないか」
「はい」
リアムは3人が出発した後のことを順番に説明し始めた。
「わかった。そうであれば、フレアはこの街の奴らの住処に連れていかれた可能性が高い。場所はもうわかっている。これから一緒に助けに行こう」
「僕のせいで本当にごめんさない」
「いや、俺たちにも責任がある。事前に手を打っておくべきだった」
「よし。それじゃあ、いっちょう暴れてくるか」
ベンはリアムの肩にやさしく手をのせた。
「俺たちはこれまでの旅で何度か盗賊とやりあっている。慣れたもんだよ。ベンは昔から剣の修行を積んでいるから頼りになるし、ルカと俺だってなかなかの腕前だしな」
ノアはリアムを励ますように言った。
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「タイラー、お前は女を見張っておけ」
ライアン、ハリソン、ジェイクは、女を連れてきてくれたナンドー商会の2人とともに酒場に行くのだ。
「はい。わかりました」
タイラーは何か蹴とばしたい衝動を抑えて、愛想よくライアンに返事をした。
タイラーは1人になると、酒を飲み始めた。なんで俺だけいつも留守番なんだよ。俺だって酒場に行って女を抱きたいぜ。まったく。はっ、そうか、女ならここにもいるな。
タイラーは女の様子を見に行った。女は目隠しされ、猿轡をされ、手足を縛られてベッドで横になっていた。
俺にだってたまにはいいことないとな。
タイラーは部屋に入ると、女の服を脱がし始めた。女は猿轡の下から何か叫んでいるようだが、構うものか。タイラーは自分の欲望を満たすことで頭がいっぱいだった。
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奴らの住処は街外れの特徴のない一軒家だった。隣の家までは100m以上はあるだろうか。
ルカは静かにドアの前まで行き、細長い針金を鍵穴に入れたかと思うとあっという間に開錠した。ベンを先頭に中に入っていく。4人は頭に布をまき、目元以外を隠していた。
廊下をしばらく行くと左手にドアがあった。ベンは後ろを振り返って目配せをすると、ドアをさっと奥に押して中に入った。誰もいないと合図があった。
そのとき、フレアの声が聞こえたような気がした。リアムはベンの前に出て、次の部屋に向かった。ドアは半開きだった。部屋の中をのぞくと男がフレアの服を脱がそうとしていた。
リアムはその男の頭めがけて持っていた棒をたたきつけた。男は、「ぐえっ」と奇声を発するとへなへなと倒れこんだ。
リアムはすぐにフレアの猿轡と目隠しを外した。両手で頬をさするとフレアはうっすらと目を開いた。フレアの虚ろな目に光がもどってきた。
「フレア、ケガはないかい?ごめんね。本当にごめんね」
フレアは我慢していた感情を解き放ったかのように泣き出した。リアムはフレアの手足の縄をほどき、思いっきり抱きしめた。
「奴らが戻ってくる前に早く出よう」
ノアの声から緊張感が伝わってきた。リアムはフレアを背中におぶって外に向かった。
ベンは床に倒れた男に近寄ると、剣先を男の太ももの上に置いてほんの少し力を入れながら、
「起きろ」
と言った。
ルカが男の顔を平手でたたく。男は苦痛の表情で目を開けると、
「だ、誰だ。お前ら」
と怯えた口調で声を絞り出した。
「俺たちの言うことを聞かなければ今すぐお前を殺す」
ベンが野太い声で脅す。
「わかった。わかったから殺さないでくれ。なんでもするから」
「他に仲間はいるか?」
「今は出かけてる。この家には俺と女の2人だけだ。うそじゃない」
「お前の名前は?」
「タイラー」
「お前にはもう少し付き合ってもらう。一緒に来い」
ベンはフレアを縛っていた縄や布を回収した。男がそろりと立ち上がると、ベンはすぐにロープをその男の胴回りに巻いて逃げられないようにした。
厩舎にいた馬を馬車につなぎ、リアムとフレアとノアとルカが馬車に乗った。タイラーという男も手足を縛って乗せた。ベンは自分の馬にのり、ノアとルカの馬の手綱を持って後からついてきた。
「このまま宿に戻るわけにはいかない。どこか隠れ家のようなところはあるかな」
ノアはタイラーに聞こえないようにリアムの耳元で囁いた。
「まずはこの先に森があるので、そこに急ぎましょう。ここでは目立ちすぎます」
リアムはこの先どう動くか頭をフル回転させた。タイラーがいるので、お互い名前で呼ばないように気をつけた。
仲間は誰なのか、フレアをいつどこに連れて行こうとしていたのか、人さらいの他にどんな悪事をしているのか、ルカは男の首元にナイフをあてて聞き出していた。
「こんなことしゃべったことがばれたら、お前、ボスや仲間に殺されるんじゃないか?お前が俺たちの言う通りにするなら、お前から聞いたということは黙っておいてやるよ」
「わかった。何でも言うことを聞くから命だけは助けてくれ」
タイラーの話によれば、ボスはやはりヘルペスで、ライアン、ジェイク、ハリソン、タイラー4人が実行部隊だった。
フレアは明日、客のところに連れていかれる予定だったらしい。もう少し遅かったら二度とフレアに会えなかったかもしれない。背筋に冷たいものが走った。
タイラーによれば、人さらいの他に、国が禁じている商品を不正に輸出したり、賭場を開いているとのことだった。
輸出入貿易商人は産業省による許認可制となっているが、ヘルペスたちはその許認可も受けていなかった。さらには、禁輸品である小麦などの主食となる食料や武器なども不正に輸出をしているとのことだった。
加えて、禁止されている賭場を開き、小麦や武器を作っている者たちを、無理やりに賭場に連れて来て借金地獄に落として利用し、娘がいる場合は奴隷として売り飛ばすぞと脅して協力させていた。
フレアのようにさらわれて売られていった人たちがたくさんいるかと思うと心が痛む。ルカの妹も何としてでも助けてあげたい。
森の中に入ると、いったん馬車をとめてタイラーから少し離れたところで5人は今後のことを相談した。
「俺たち3人は顔がばれていないし、宿に戻ることができる。問題はリアムとフレアがどこに隠れるか、そしてタイラーとかいう男をどうするか、だな」
ノアが論点を明確にしてくれた。
「フレアと僕は、今はまだ自分の家に戻るのは危険なので、知人を頼るつもりです」
「だとすれば、タイラーをどうするかだな。奴にはまだ使い道があるが、このまま行動をともにするのは危険だ。俺たちのことがバレてしまう可能性が高い。このまま街から出ていくように言えば罪を暴いたときに捕まえられるかどうかわからないが・・・・・・」
ノアは神妙な顔で言った。
「一番大事なのはみなさんの安全です。だから、この男にはこのまま馬車と馬を与えてこの街から出ていくように言ったらどうでしょうか」
リアムはひとりひとりの顔を見て確認するように言った。
「そうだな。今はそれがベストかもしれない」
ノアは、タイラーを縛った紐をほどき、仲間のところに戻ればしゃべったことをばらすと脅して、馬と馬車を渡し、奴らの住処から遠い西の城門から出ていくように言った。
ノアが気づかれないようにタイラーの後をしばらくつけて様子を伺っていたが、あやしい動きは見られなかったのですぐに戻ってきた。
リアムはノア、ルカ、ベンに向かって、深くお辞儀をした。フレアもそれに倣って頭を下げた。
「フレアを助けてくれて本当にありがとうございました。この御恩は必ずお返しします」
リアムは深い感謝の気持ちを言葉に込めた。
「困ったときはお互い様さ。俺たちが死にそうだったとき、リアムも助けてくれただろ。なっ、みんな」
ルカもベンも頷いている。
「気にすることないよ。俺たち仲間なんだからさ」
ルカがリアムの肩にそっと手をのせる。
「ああ、まったくだ」
ベンもフレアの肩に手をのせようとしたが、急に顔を赤くして手をひっこめた。それを見てみんなが笑った。




