第13話
リアムは周囲を見回し、不審な人物がいないのを確認してからドアをノックした。
「ルカさん、おはようございます。朝早くにすいません」
「やあ、リアム、フレア。何かあったの?」
「実は助けていただきたくて」
案内された席に腰掛けるとすぐにノアとベンが現れた。リアムはおもむろにフレアがさらわれた日からのことを順々に話していった。ただし、夢の話を除いて。
「大変だったんだね」
ルカがしみじみと言うと、すぐにノアが
「俺たちにできることはなんだってやるよ」
「もちろんだ」
ルカとベンが力強くこたえてくれた。
「みなさん、ありがとうございます」
「それでどうすればいい?」
「やはり、奴らを公安に捕まえてもらう他ないと思います。このまま一生隠れて暮らすことはできないですし、これ以上犠牲者を増やしたくありません」
「そうだね。それしかないね」
ノアが賛同してくれた。
「そのためには、まず奴らのことを調べて、犯罪の証拠を掴む必要があります。みなさんにはそれを手伝ってもらいたいんです。当面の資金としてこれを使ってください」
リアムはジョバンヌさんから受け取ったお金をそのまま差し出した。
「大切に使わせてもらうよ。それじゃあ、早速作戦会議といこうか」
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ライアンはイラついていた。
「あの女、今日も出てこねぇ。クソッ」
まもなく日が暮れる。今日で2日目だ。昨日も今日も閉店後ずっと見張っていたが、女は姿を現わさなかった。
「今日はここまでだ。明日は開店前から見張る」
3日目も無駄足に終わった。ジェイクが店から出てきた客の何人かに話を聞いたが、どうやら店の中にもいないようだった。もちろん、厨房の奥にいて見えなかった可能性もあるが・・・・・・。
このままずっとここに張り付いているわけにもいかない。ライアンは迷ったが、明日、店の中を確認することにした。
「いらっしゃいませ」
ライアンは鋭い目つきで店の奥を見回した。厨房らしきところで若い男と年配の男が2人で作業をしている。女はどこにもいなかった。
2人は俺たちの顔を知らない。だから、顔を見ただけで逃げることはないはずだ。だとすれば今はたまたまいないのか、それとも俺たちとは関係ない理由で出て行ったかだ。
店員に所在を聞くべきか?
いや、たとえ聞いたとしても何も答えてくれないだろう。むしろ、それが2人に伝わり、逃げられるかもしれない。そうすると糸口を失ってしまう。ならば今回は黙って出ていくのが正解か。ライアンはひとりごちると、何も買わずに店を出た。
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作戦会議で決まったことは以下のとおりだ。
パン屋の周辺にあやしい人物がいないか調査し、見つけたら人相を覚え、この街での宿泊場所を調べ、さらにはトポスでの住処と日々の行動を探る。
「ただいま」
ノア、ルカ、ベンが大きな袋を両腕に抱えて帰ってきた。
「おかえりなさい」
フレアが笑顔で迎える。
「奴らを見つけたと思う。宿もわかった」
「えっ。もう見つけたんですか」
「ああ、奴らかなり目つきが悪かったし、明らかにパン屋の客には見えないしで、すごく目立っていたよ」
「これからルカに人相を描いてもらう。ルカは絵を描くのがうまいんだ」
ルカは抱えていた大きな袋から紙を取り出すと、すぐに描き始めた。
リアムはハリソンという男の顔ははっきりと覚えていたが、残りの3人はトポスの街でちらっと見たくらいであまりよく覚えていない。最初に描かれたのはハリソンだった。
「こいつで間違いない。名前はハリソン」
やはり、奴らは僕たちを見つけていたのだ。もし夢を見なかったら、フレアはさらわれていたかもしれない。奴らの執拗さにリアムは慄然とした。
ルカは残りの3人の人相もあっという間に描き上げた。リアムは4人の人相をまじまじと見て、脳に焼き付けた。顔がわかっただけでも大きな一歩だ。
「明日の早朝から奴らの宿を見張ることにする。そして奴らのトポスの住処を突き止める。俺たちもトポスに拠点を移して必ず奴らの犯罪の証拠を掴んでやるよ」
ノアはこともなげに言う。
「みなさん、本当にありがとうございます。とても心強いです。ひとつ気になることがあります。奴らが城門の役人とつながっていたということは、公安にも仲間がいる可能性があります」
リアムは自分に言い聞かせるように言った。
「確かにその可能性はあるな。聞いた話だけど、衛星都市の公安の司令官と副司令官は、お互いを牽制するため、2つのグループに分かれて編成されているんだ。
この2人が仲間だった場合はいくら証拠があっても握りつぶされておしまいだろう。まずは司令官と副司令官が奴らとつながっているかどうかを調べる必要があるな」
ノアが貴重な情報を提供してくれた。
「俺たちは奴らがトポスに戻るときにそのままあとを追うことになる。しばらくはここに戻れないだろう。リアムとフレアは安全のためにもしばらく外出を控えた方がいいと思う。食料や必要なものは買ってきたから」
ルカが食料の入った袋を指さした。
「ありがとうございます。そうさせていただきます。ところで、みなさん、なんかこういったことに手慣れた感じがするのですが・・・・・・」
「ああ、実はね。俺たちがいろいろな国を旅しているのは、さらわれたルカの妹のカリンを探すためなんだ」
ノアはちらりとルカのほうに視線を向けた。
「そうだったんですね。何か手がかりは見つかったのですか?」
「まだ何の糸口も見つかっていない。奴隷売買ルートがわかっても、カリンがどこにいるのかまではわからなくてね」
ルカの言葉に悔しさがにじみ出ていた。
翌朝、リアムはいつも通りの時間に目を覚ました。フレアは隣でまだ眠っている。
もうパンをつくることは出来ないんだと思うと寂しい気持ちが込み上げてくる。きっとフレアも同じ気持ちだろう。フレアにまた悲しい思いをさせてしまった。
でも、必ずこの状況を変えてみせる。リアムはフレアを起こすと、支度をさっと済ませて、食卓に向かった。
「おはようございます」
3人は出発の準備をしていた。
「やあ、おはよう」
「これから出発ですか?」
「ああ。奴らが宿から出てくるのを待って、そのまま後をつけるつもりだ。おそらく、明日か明後日にはトポスに戻るんじゃないかと思ってね。奴らもこっちにかかりきりというわけにはいかないだろうから」
ノアが説明してくれた。
「もし俺たちが帰ってこなかったら、トポスに行ったということだからね。そのときは奴らもこの町にはいないと思ってもらっていいけど、しばらくは外出しないほうがいいと思う」
「わかりました。そうします」
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
フレアは不安を隠すかのようにやさしく微笑んだ。
日が暮れてまもなく3人は戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「奴らは今酒場にいるから今日は宿に泊り、明日朝早く出発する可能性が高いと思う」
「朝早くから申し訳ないです。晩御飯準備しているので、すぐに食事にしましょう」
「ありがたい。腹ペコだよ」
ベンのお腹が鳴ったのを合図に、フレアは、あっという間に熱々のスープ、鶏の炙り焼き、温めたパンを食卓に並べた。
「うまそうだ。いただきます」
そう言うやいなや、ベンはガツガツ食べ始めた。
「このスープ、めちゃくちゃうまい。こんなにうまいスープ食べたの初めてだよ」
「それはよかったです」
「ところで今日は何か変わったことはありませんでしたか?」
「特に変わったことはなかったよ。夕方まで店の周辺でうろうろしていて、その後、いったん宿に戻ってから酒場に向かった」
「そうですか」
「ところで、リアム。俺たちがトポスで泊る宿についてなんだけど、おすすめを教えてくれないか。昨日聞くのを忘れてて」
ルカが紙とペンを差し出してきた。リアムはお値打ちでサービスがいいと評判のおすすめの宿を紙に書いてルカに渡した。
「ありがとう。何かあれば、この宿宛に連絡してね」
「わかりました」
「明日は早いから俺たちはもう休むことにするよ」
「みなさんには本当に感謝しています。おやすみなさい」
リアムとフレアは深々と頭を下げた。
「困ったときはお互い様でしょ」
ノアがいつかリアムが言ったことをそのまま返してくれた。
翌日の夜、リアムとフレアは簡単な夕食をとっていた。
「リアム、これから私たちどうなるのかなぁ?」
声色から不安な気持ちが伝わってきた。
「フレアは必ず僕が守るから、大丈夫だよ」
フレアを安心させるようにやさしく微笑んだ。
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時間は1日前にさかもどる。
ライアンは宿で朝食をすませた後、ジェイク、タイラー、ハリソンに今後の予定を伝えた。
「今日の夕方までは昨日と同じようにパン屋の周辺を見張る。女が現れなければ一旦宿に戻り、夕飯はナンドー商会の連中と食うことになっている。連中に俺たちがトポスに戻った後のことを頼むつもりだ」
「パン屋の見張りを頼むんですか?」
「ああ、そうだ。俺たちがずっとこの街にいるわけにはいかないからな。明日、トポスに戻る」
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