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けもみみ王女は世界を救う【女神の翼×浄化】~大好きな家族と大切な仲間、そしておいしいご飯のために、あたしも戦います!~  作者: あまね月


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第九話 魔物討伐

 走る、走る、ひたすら走る。ドラゴンを両手に抱えて、石や木の根を避けて、転けそうになりながら走る。



 見えた! 森の出口だ! はやく! もっとはやく! あいつに追いつかれちゃう!



「姫さまを守れー!」


「足止めする! グワッ‼︎」



 剣がぶつかる音、騎士たちの悲鳴、ドサッと重たいものが地面に落ちる音。それらを聞きながら、走る。



 振り返ってはダメだ。止まってもダメだ。止まったら終わる。



 あたしがいるから、騎士たちは無茶をしているんだ! あたしがいるから逃げられない!



「ハァ、ハァ、ハァ」



 息切れがひどい、心臓がバクバク鳴って壊れそう。



 こんなに全力で走ったことないもの! お父様! お母様! たすけて!



 森を抜けた。目の前は原っぱが広がっている。遠くに騎士団長が見えた、こっちに走ってきている。



 なにか言っている気がするけど、わからない。

 聞こえるのは自分の心臓の音、風の音、後ろでバキバキッと大きな音がする。きっと魔物が森から出てきたんだ。



「ハァハァ、だんちょ、きしだんちょ、ハァ、たすけっ」



 あっ、転ける。

 足がもつれて前に倒れていく。



 死んじゃう、そう思ったとき、誰かにがっしりと抱きかかえられた。グンと体全体に圧力がかかる。背後でドダンッと一際大きい蹄の音がした。



 気がついたら空にいた。心臓がドンドン、太鼓みたいに鳴っている。



 あたしが転けた場所を見ると、魔物がいて、強く踏み抜かれたことで地面にヒビが入り、陥没していた。



「姫さま、もう大丈夫ですよ」



 振り返ると、あの青い翼の騎士がいた。髪は水色で瞳は桜色をしている、綺麗な女性だ。



「リナ……?」


「はい、リナです。よく頑張りましたね、姫さま」



 しっかりとあたしを抱えて空を飛んでいる。結構高い。風が強くて、汗をたくさんかいた分寒い。



 あっ、ドラゴン! 良かった、ちゃんと腕の中にいた。キュウ〜と鳴いてこちらを見るドラゴンをしっかり抱え直す。



 下の方を見ると魔物と騎士たちが戦っていた。魔物は角と蹴りで、騎士たちは剣と盾で。

 騎士団長が指示を出しているようだ。蹄が地面を抉り、土の匂いが充満している。



「下に降ります」



 あたしたちは魔物と戦闘中の場所から、少し離れた場所に降り立つ。

 地面に足がついて安心したと同時に、座り込んでしまう。あたしは助かったのだ。



 あれだけ走ったのは初めてだ、座り込むのも仕方ない。やっと心臓も落ち着いてきた。



 騎士たちが取り囲んでいる魔物。今はその場でじっとしている。やっとまともに見ることができた。



 見た目は大きい鹿だ。全身黒くて、瞳だけ不気味に紫色に光っている。



「あれが、魔物」



 魔物がじっとあたしを見ているような……。怖い。ドラゴンをギュッと抱きしめる。



「ギャオーン‼︎」



 突然、魔物が突進してきた。騎士たちが弾き飛ばされる。

 まだ遠いけど、あたしを目指してるの?



 ダンッダンッと地響きのような蹄の音が近づいてくる。魔物の正面には騎士団長。筋骨隆々な人なのに、魔物と比べると小さく見えた。



 駆け出し、飛び上がった騎士団長は、すれ違いざまに大剣を一振り。ブンッという音と共に、魔物の首が飛んでいった。



 首から上が無い魔物は、走るのを徐々にやめ、立っている。気持ち悪い光景にあたしは息を詰める。



 首の断面から、あのモヤが出てきて、あたしに向かってくる。その中にキラリと光るものが見えた。あの水晶玉だ。



 ビュンと空から飛んできた騎士二人が、左右からモヤの中の水晶玉を貫く。



 パンッと弾けたかと思うと、モヤが空気中に溶けるように消えていった。残ったのは倒れた胴体と首、それは普通の鹿のものだった。



「終わった……?」


「はい、終わりましたよ、姫さま」



 リナが背中をさすってくれる。その手の温かさに泣きそうになりながら、生きていることを噛み締めた。



「姫さまはご無事かー⁉︎」



 騎士団長が駆けつけてくる。大丈夫だと立ち上がって応えようとして、フエ〜と後ろに倒れそうになった。



 リナに支えてもらいながら、跪いた騎士団長と話す。



「あたしは大丈夫です。リナに助けてもらいましたから」



「姫さま、ご無事で何よりです。まずは一度侍医に見てもらいましょう。おや、その腕に抱かれているのは……まさか」



「ドラゴンの子供です。この子がモヤに襲われていたのを助けて、それで」



 体がひどくだるい。話すことも、立っているのも辛いくらいだ。



「わかりました。詳しいことは後日お聞かせください。とにかく今は、安全な場所に戻り、侍医の診察を受けましょう」



 王宮まで送ります。といった騎士団長に甘える形で、馬車に乗ろうとしたそのとき。



「伝令! 伝令! 騎士団長はおられるか!」


「ここにいる!」



 鳥族の騎士が空から舞い降りた。伝令の騎士は基本、緊急事態にしか使わない。何があったの。



「国王陛下より伝令! 視察に出ている第一王子殿下が襲撃を受けた、大至急救出に向かえとのこと!」


「承知」



 そのあとは早かった。リナにあたしを託し、飛ぶように駆けていく騎士団長。



 へとへとのあたしは祈るしかできなかった。お兄様、どうかご無事で。神様、どうかお兄様をお守りください。




 その後、王宮の自室で侍医の診察を受けたあたしは、体を清め、傷の手当てをした。



 森の中で全力疾走したせいで、切り傷擦り傷がたくさんできてしまったからだ。消毒液がしみる〜!



 ドラゴンも見てもらったが、シミのような体の変色以外、特に異常は見当たらないらしい。といってもドラゴンの生態は分からないことが多いので、分かる範囲でしかない。



 侍医から今日は軽い食事をして寝るように言われている。



 あたしにしては珍しく食欲があまりない、体がだるすぎて一刻も早く寝たい気分だ。



 急遽作ってくれたのか、卵がゆを少しずつ食べる。出汁と素材の味が調和していて、とても美味しい。

 果物で作られたゼリーをデザートに食べて、寝る準備をする。ドラゴンは何も食べなかった。



 一人前しか食べなかったあたしを見て、侍女頭が心配そうな顔をしていた。今は食い気より眠気だから。



 お兄様が無事でありますように。騎士団長が助けに行ってます、どうか持ち堪えてください。ベットに入り、祈る。



 枕元にいるドラゴンと一緒に、眠りに落ちた。


「アイリーン、たすけて……たすけて……」


 夢の中で、また誰かがあたしを呼んでいる気がした。


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