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けもみみ王女は世界を救う~大好きな家族と大切な仲間、そしておいしいご飯のために、あたしも戦います!~  作者: あまね月


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第八話 基礎体力試験

「打ち合い、やめっ! 集合!」



 騎士団長が号令をかける。騎士たちは即座に訓練をやめ、模擬刀を持ったまま騎士団長のまえに整然と並ぶ。まだ肩で息をしているものも多い。



 っていうか、これから試験ってどういうこと⁉︎ なんの準備もしてないのに、どうしよう……。



「これより、第一王女殿下の基礎体力試験を行う! 地形訓練場に移動して、待機するように!」


「はっ!」



 騎士たちがそろって返事をしたあと、すぐに走ってどこかへ行く。迫力に圧倒されるが、そんな場合ではない。地形訓練場ってなに? なにが始まるの。冷や汗が流れる。



「姫さま、地形訓練場までご案内します。こちらへどうぞ」



 騎士団長はそういってあたしを馬車に促すので、大人しく乗る。地形訓練場とやらに向かって馬車が走り出したところで、疑問をぶつける。



「騎士団長、基礎体力試験とはなにをするのですか?」



「姫さまの今の実力を見せてもらいます。その結果によって訓練の内容も変えていきますので、重要な試験です。もし姫さまに才能の欠片も見当たらなければ……」


「なければ……?」


「魔物を倒すなど到底無理ですので、姫さまには諦めてもらいます」



 とてもいい笑顔で宣言する騎士団長。 

 冷や汗が出てくるけど、引けないのだからやるしかない。全力でやると心に決めた。



 腹をくくったあたしを見て、面白いものを見ているかのような表情をした騎士団長。



 なんだろう、あたし白虎族なのに、捕食者が目の前にいるウサギのような気分になってくる。



 耳が横に倒れ、尻尾が体に巻きつき、毛が逆立っているあたしを見て楽しそうにクツクツと笑っている。怖いのに男前って反則ではなかろうか。





 そんなことをしていたら、着いたらしい。騎士団長のエスコートで馬車から降りて、訓練場に入ったあたしはその広さに驚く。



「ここが地形訓練場なのですか?」



「そうです。地形訓練場とはその名の通り、さまざまな地形が用意されています。ここで先ほどの騎士たちと鬼ごっこをしてもらいます。騎士たちが鬼となり、姫さまを捕まえさせます」



「え? 騎士全員が鬼なのですか? 先ほどの騎士たちは四十人くらいいるのでは……?」



「その通りです。頑張って逃げてくださいね、姫さま」



 そんな無茶なー! 飛べる獣人騎士だっているのに‼︎



「それとも、やめますか?」



 にんまりと笑う騎士団長、はらたつー!



「やります!」



 やるしかないでしょ! 大丈夫、あたしならできるわ! 森だって崖だって、浅めの川だってあるもの。やってやるわっ!



「では、そろそろ騎士たちもそろってきたので始めましょうか」



 どうやら騎士たちは走って、もしくは飛んでここまで来たみたい。息が上がっている人もいるし、さっきまで訓練していたし、疲労はあるはず。なんとかなる、いや、なんとかする!



「制限時間は三十分。十五分経過、二十五分経過時点で信号弾をあげます。では姫さま、二十秒だけ待ってあげますので、逃げてください。はい、スタート!」



 うにゃっ⁉︎ 二十秒だけ⁉︎ って交渉してる時間ない!

 あたしは靴を背負い、手足を獣化させて全力疾走で森まで走る。

 まずは森に身を隠さないと!



 森に入るまでに五秒もかかった。人の手で整えられている、いい森だ。

 できるだけ遠くに、足跡が残らないよう、音を立てないように走る。

 残り五秒、そろそろ隠れないと。



 手近の茂みの影に隠れる。二十秒経ったとき、人がたくさん動き出す気配がした。

 人数も多く、土地勘も相手の方が持っている、それに相手は騎士だ。逃げつづけられるだろうか。



 息を潜めて、気配を探る。

 空を飛んでいるのが十人くらい、森に入ってきたのが二十人くらいかぁ。残りは森の外にいるのかな。

 まぁ、森に入ったところは見られているだろうし、森を重点的に探すよねー。



 ゆっくり近づいてきているみたいなので、さっきよりもいっそう足跡や音に気をつけながら、より鬱蒼としている森の奥へ身を低くして小走りになる。



 森の奥に来ると、騎士たちの気配は遠ざかり、陽の光も入ってこなくなって、だいぶ暗く感じる。

 まぁ、見えるけどね。あたし白虎族だから、夜目は利くほうなの。



 すごく生き物の気配が増えた。鳥、蛇、昆虫。小動物や鹿の気配もする。逃げるのには都合がいいけど、あんまり入りたくないかも。



 茂みに隠れて、生き物の気配に同調するように、深呼吸して森に溶け込む。


 

 こっちに近づいてきているのは十人くらいかな。相変わらず空を飛んでる人もいるけど、人数が減ってる。範囲を広げたのかな。



 茂みをかき分けながら、近づいてくる騎士数人。どうしようか。



 ヒュ〜パンッパパパンッ!



 なんだろう……あぁ! これが信号弾か! 十五分経ったらしい。残り十五分。騎士たちはどんどん近づいてきている。奥に行くしかないかな。



 奥に行くと突然森の気配が変わった。鳥肌が立つ。強い動物の気配だ。明らかにあたしより強い。出会したら最後、狩られるのはあたしだ。



 ゆっくりその場を離れて戻ろうとしたとき、目の端に見えた何かに意識が引っ掛かった。なんだろう。



 慎重に近づいて見ると、地面にあった。濃い紫色をした水晶玉みたいなものと、大きな卵。あたしでもやっと抱えられるくらいの卵。



 なんの卵なんだろう。親は見当たらないし、なんでこんなところに。



 ピキッピキピキッ。



 突然卵にひびが入り始めて、息を呑んだ。静かに見守っていると、懸命にからを破って出てくる。

 その生き物は美しかった。白銀の鱗を持つドラゴン。



 あたしが抱えられるくらい、ちっちゃいのに鱗がしっかりある! ドラゴン、初めて見た! 翼に手足もちっちゃくて可愛いっ!



 ドラゴンは殻から出てくるとその眼をしっかりと開けて、あたしを見た。キューキューと鳴いて近づいてこようとする。



 えぇ〜⁉︎ どうすればいいんだろう。これは異常事態だ。なぜなら、この国にはドラゴンがいないから。

 

 

 ドラゴンという種族は精霊と似ている。この世界を守護している種族だから、こんなところに卵だけあるのは、どう考えてもおかしいんだよー!



 騎士団長に報告しないといけない。一歩後ずさると、ドラゴンは懸命に手足を使ってこっちに来ようとする。キューキュー鳴く声に心が惹きつけられる。



 ドラゴンがこっちにこようとして、濃い紫色の水晶玉にぶつかった瞬間。



 ブワッと黒いモヤが水晶玉から出てきて、ドラゴンに襲いかかる。

 独特の刺激臭がして、鼻がヒリヒリする。

 


 鳥肌が立ち、生理的な涙まで込み上げてきて、ひと目で危険なものだと分かった。



 ギャーと甲高い悲鳴を上げるドラゴン。咄嗟に抱き上げてモヤを払う。



 ドラゴンの体は端の方からジワリと、シミみたいに濃い紫色に染まっていて、ゾッとして指先が冷たくなった。



 さらに膨れたモヤが襲いかかってきた。瞬間、反転。全速力で走り、来た道を戻る。



 んに゙ゃー! 重いっ! ドラゴンで両手が塞がって思うように走れないよー!



「騎士団長ー! たすけてー‼︎」



 逃げながら、あたしを探していた騎士たちを見つける。追いかけてきているモヤを見て、息を呑んでいる騎士たち。



「なんだあれは⁉︎」


「逃げてー‼︎」



 騎士たちは即座にあたしの近くに来て、同じ速さで走って着いてくる。



「姫さま! このまま真っ直ぐ騎士団長の元まで走ってください!」


「モヤが鹿を飲み込んだぞ! あぁっ⁉︎ 魔物だ! 魔物になった!」



 騎士たちがあたしを守るように陣形を組んで走る。



 魔物ってなによ! 海と空にしか出ないんじゃなかったの⁉︎ なんでこんなところに出るのよー!



 もう泣きたい! もう泣いてる気がする! なんでこんなことに! とにかく!



「団長ー! 騎士団長ー! たすけてー!」


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