第七話 騎士団長、説得
訓練場では騎士たちが一対一で打ち合っていた。剣のぶつかる音が痛そうだ。
人間、鳥族、竜族、蛇族、狼族に獅子族までいる。あっ、あたしと同じ虎族もいた! すごいな〜、かっこいいな〜。
その中で一際目立つ人物がいた。鳥族の騎士だ。とても美しい青い翼を大きく広げて飛んでいる。
どうやら竜族と空中で戦っているようだ。かなり激しい戦いなのが音からわかる。
「あの大きな青い翼の騎士、とても綺麗だわ。動きにキレがあって、竜族にちっとも負けてないわ」
「さすが姫さま、お目が高い。あれは名をリナ・クルトワといいます。力の流れを理解し扱うのに長けていまして、小柄のわりに剣が重いのです。相手の剣はいなし、流し、かわしでなかなか当たらない。手強い騎士です。専属護衛をお探しなら、おすすめの騎士ですよ。女性ですから、男性が入れないところでもお供できます。専属護衛の中に一人は女性騎士をお選びください」
「そうなの、わかったわ」
戦う姿が美しくて、目が釘付けになってしまう。あたしの心の中では護衛騎士の一人は決まったも同然だった。
あたしもあんな風に美しくなれるかしら。あんなに強くなれるかしら。……強くなりたい。
「オルドリック騎士団長。お願いがあります」
あたしは真剣なお願いをするために、騎士団長に向きなおり、しっかりと見つめた。
「伺いましょう」
膝を折ってそう言うと、あたしと向き合って視線を合わせてくれる。それでも少しあたしより高いけど。
「わたくしは魔物を倒せるようになりたいのです。だからどうか、わたくしに戦う術を授けてくださいませ」
真剣であることを伝えるため、丁寧な言葉に切り替える。合わせて、胸に右手を当て、片足を半歩ひき、軽く膝を曲げる。
あたしはあくまでも王族だから、騎士団長相手に目上の人に対する正式な礼はできない。これが精一杯の誠意だ。
「これは困りました。国王陛下には怪我をしないための訓練を、と申しつかっておりますが」
「そこをどうかお願いします。わたくしはどうしても、魔物を倒せるようになりたいのです!」
騎士団長は駄々っ子を見るように眉尻を下げた。でもこれはどうしても引けないのだ。
「王族ならば守られるべきであり、魔物を討伐したいのならば指揮を取られればよろしい。……なぜそこまでして、魔物を倒されたいのですか?」
「それはもちろん、美味しいお魚をたくさん食べるためですわ!」
瞳をキラキラとさせながら、拳を突き上げて大きな声で明言するあたしを見て、へ? みたいな顔をする騎士団長。
「最近漁獲量が落ちているのはご存知ですわよね? どうやらそれは魔物が増え、強くなっているからのようなのです。とんでもないことですわ! ですから王族といえども、魔物を倒せるようにならなくてはいけないのです!」
「ひ、姫さま。落ち着きなさいませ」
騎士団長は詰め寄るあたしの肩を抑え、引き離す。許容できない距離だったようだ。どうだ。これで伝わったかな?
「ゴホン、姫さまのおっしゃりたいことは理解しました。ですがそれは騎士の領分であります。王族の方が、ましてや王女殿下がなさることではありません」
頑固だー! ぜんっぜん揺らがない! でもそれじゃあたしが困るの。どうしてもできるようになりたいの!
あたしの想いが伝わらなくて悔しい。うつむき、スカートをギュッとにぎる。
「最近農業の方も上手くいっていないようなのです。お兄様が視察に出ているのもそのせいです。近年、収穫量が落ち続けていることが数字からわかります。……このままではいけないのです! なんとかしなくてはなりません。あたしにできることは全てしたい! だから!」
スカートを両手で握ったまま、強い眼差しで騎士団長をみる。どうか伝わってほしい。
「……姫さまのお気持ちはわかりました」
騎士団長が真剣な目であたしを見ている。少し怖いけど、逸らすわけにはいかない。
「自分にできることを考えて、行動なさっているのは素晴らしいことです。ですが姫さま、焦りは禁物でございます」
あたしに向かって柔らかく微笑む。
……あたし、焦ってる?
「不安や焦りで行動することは、かえって状況を悪くしてしまうこともあります。まずはその不安や焦りを落ち着かせましょう」
不安……焦り……。そうか、あたしは不安だったんだ。
どんどん暗い表情になっていくお兄様。笑顔だけどあたしに何か隠しているお父様、お母様。
ささいなこと、だけど心の中にモヤモヤとしたものがある。これが不安。
あたしの周りは何ひとつ変わっていない。空、風、匂い、鳥の声、食事、周りの人たち。いつもと同じ。なにも変わっていない。深呼吸をくり返す。
モヤモヤがくっきりとしたものに変わっていく。それは今のあたしにできること。このままじゃダメだと思うなら、行動すること。
「騎士団長、確かにわたくしの中には不安と焦りがありました。ですが力をつけたいことには、変わりありません。すぐに魔物を倒せるようになるとは思っていません。どうかわたくしに訓練を施していただけませんか」
騎士団長は心の中を見ようとしているみたいに、あたしをじっと見つめる。
「魔物と戦えるようになる訓練は、一朝一夕にはいきませんよ。強い人を見て落ち込むかもしれません、悔しいこともあるでしょう。それでも毎日、淡々とできますか? 投げ出すことは許しません。その覚悟がおありか?」
怖いなぁ、怖い。落ち込むことも、悔しい思いをすることも、嫌になるかもしれないことも。
覚悟がどういうものかなんて、よくわからない。けど。
「確かに、騎士さまたちを見ていると、自分がそこまで強くなれるのか、自信はありません。嫌になるかもしれません。ですが、嫌になっても必ず戻ってくる。そう、お約束します」
「では、俺との約束ですよ」
「はい。約束です」
あたしと騎士団長は指切りをした。小指の太さが全然ちがって面白かった。騎士団長はあたしの頭を撫でたあと、立ち上がり、いい笑顔でこういった。
「ではさっそく試験をしましょう」
「へ?」
今のが試験じゃなかったのー⁉︎




