第二十話 騎士団の寮
騎士団の寮に着いた。
馬車の中ではユビキタス館長の質問に答えていたけど、あまりにも感覚的なことばかりで、館長を納得させる答えではなかったようだ。
一緒に馬車に乗っている騎士団長のこともあちこち身体を診たり、質問していた。館長はキラキラとした瞳で「いろいろと調べる必要がありそうです」と言っていた。
とにかく馬車を降りる。
「ここが騎士団の寮になります」
オルドリック騎士団長にエスコートされて馬車を降りる。
結構大きな建物でコの字型になっている。男子寮と女子寮に別れていて、中間が共用部分らしい。
「本来ならば騎士たちを整列させるべきですが、今回は皆部屋に篭らせております。申し訳ありません」
「いいえ、その判断を支持します。なにか、とても嫌な気配を感じるの」
『うん、僕も感じる。魔物ほどじゃないけど、結構濃いね』
「とにかくやってみるわ」
先ほどと同じようにリナとシルを連れて上空で留まる。胸の前で手を組み、祈る。
なんだか嫌な気配が濃いから、ちょっと強めに心を込めて。
ここにいる全ての人の魂が綺麗になりますように。心も体も元気になりますように。辛い気持ちが楽になりますように。
胸元から出てきた温かい球体を両手に抱えたそのとき。なぜかゾワッと鳥肌が立ち、シルが『グルルッ』と唸る。
「姫さま! 危ない!」
ヒュッ、カンッ
「姫さま、お下がりください」
オルドリック騎士団長の声が聞こえたかと思ったら、リナが抜剣していて何かをはたき落とした。
聞き慣れない音にドキッとしたけど、冷静なリナの声に気持ちが落ち着く。リナの言う通りにリナの背後少し後ろに下がる。
ヒュッと音がして、また飛んできた。矢だった。
見たらどうやら騎士寮の部屋の窓から狙われていたらしい。反応できたリナはやっぱりすごい。射られる前に気づいた騎士団長もすごいわ。
その騎士団長はさすがというか、あたしがちゃんとリナに守られることを確認すると、走り出し、寮の壁を登っていく。
すごいスピードだ。あたしに三本目の矢が射られる直前に辿り着き、矢をへし折るとあっという間に制圧した。
まさに百獣の王、獅子族の強さだ。
『あいつ強いな……僕だって』
シルはプライドを刺激されたみたい。あとで頭を撫でてあげよう。
そんなことを考えていたら、騎士団長からもう大丈夫だと合図があったので、ひとつ深呼吸。浄化を続ける。
手の中の球体に意識を集中すると、弾けた。前回よりもキラキラの量が多い。地面に光の模様が浮かんできて、光の柱が立ち昇る。
「グッグァァァァァ! うああああ!」
「にゃにっ⁉︎」
突然の叫び声にびっくりしてその方向を見ると、さっき矢を射ってきたやつの声だった。人間の男性騎士だ。
『あいつ相当穢れてたからな。魂にこびり付いていて、剥がれるのが辛いんだろう』
「え? 精霊さまやお兄様はもっと穏やかだったけど」
『精霊やドラゴン、姉さんもだけど、僕たちは特別さ。姉さんの兄はまだ初期段階だったんだよ』
「そうなんだ……」
お兄様もああなっていたのかもしれないと思うと肝が冷える。
「どうやら失神したようです」
リナの言う通りみたいで、ピクリとも動いていなかった。あれ、生きてるのかな……。あ、騎士団長が指示を出してどっかに連れて行ったみたい。
『がっつり浄化されてたね。さすが姉さん』
「うん、良かった」
何はともあれ、無事に浄化が終了して良かったにゃ。…………まだ一棟だけだけど。
そう、浄化が終わったのは一棟だけ。あと九棟ある。全く同じ建物がずらりと後ろに並び、残り九つ。
ふぅ、気合い入れてやるか。
それからあたしは休憩を挟みつつ無事浄化をやり遂げた! すごくスッキリして、人間も空間も綺麗になったけど、とにかく量が多かった!
そしてすっごいお腹すいたにゃ〜‼︎ 途中でお菓子つまんでたけど、全っ然足りないにゃ〜!
寝転んでジタバタしたいけど、我慢我慢。あたしは第一王女なんだから! お兄様の妹なんだから、しっかりしないとっ!
おすまし顔で下に降りて行き、ユビキタス館長とオルドリック騎士団長の元に行く。
そのときになんだか視線を感じて後ろを振り返ると、寮の窓という窓から騎士たちがこちらを見ていた。
あたしが振り返った瞬間に、みんなシュバッと隠れるけど、そろっとこちらを見ているのがわかる。
え〜と、どうしたんだろうか……。
「皆、驚き喜んでいるのです。騒ぎ出したいのを押さえ込んでおるようで。ご不快でしたら、申し訳ありません。あとで叱責しておきます」
あぁ、どうりでなんか雰囲気がソワソワふわふわ、浮き足立ってる感じなのね。
「叱責はしないでいいわ。別に不快じゃないもの。騎士たちの表情が明るくなったようで安心したわ」
「寛大なお心に感謝致します。どうやら皆、元気になったようです。本当にありがとうございました」
跪いた騎士団長は胸に手を当て、あたしに頭を下げる。これは騎士にとって最大限の感謝の証だ。良かった良かった。
さぁ第一王女アイリーン、この場を締めて帰ろう!
「わたくしはわたくしの役割を果たしたまでです。これから騎士たちの状態を確認して、問題があれば報告するように。落ちた体力は浄化では戻らないから、そこだけ注意してくださいね」
「承知致しました。先ほどの不届者はきっちり締め上げますので、ご心配なく」
ギラッと目が鋭くなる騎士団長、ちょっとこわいっ!
「え、えぇ。任せます。ではわたくしはこれで」
「姫さま、本日は誠にありがとうございました‼︎」
騎士団長にここまで感謝されるとは思わなかったなぁ。などと思いながら馬車に乗ろうとして、「姫さま〜!」と声がしたので目を向けると、ある騎士が窓から身を乗り出して手を振っていた。
「姫さま! ありがとうございましたー‼︎」
一人が言い出すと、他の騎士たちもたくさん手を振ってくれて、口々に感謝の言葉を述べていく。その表情は晴れやかだ。騎士たちの声が結構すごい音量になっている。
騎士たちに向かって軽く手を振ってから馬車に乗り、王宮へ走り出す。しばらくは騎士たちの声が聞こえていて、なんだか嬉しくてニヨニヨしてしまった。
そんなとき、グゥ〜とお腹から大きな音が鳴ってしまい、向かいに座っているユビキタス館長からふふっと笑われてしまった。
「本当に頑張られましたからね。お腹がお空きになられたんでしょう。王宮まで少しかかりますから、こちらをどうぞ」
「ありがとう」
館長の言葉に甘えて、クッキーを頬張った。
んん〜! 美味しい、美味しいけど、お肉が食べたい〜!
やっと王宮に帰ってきて、自室。ユビキタス館長と昼ごはんを一緒に食べることになった。
ウキウキして料理を待っていると、最初に出てきたのはコーンスープ。さっきまで力を使っていて暑かったから冷たいのが嬉しい。
コーンの香りと甘味が口いっぱいに広がって美味しい。何杯でも食べられそう。当然おかわりをした。
ユビキタス館長もおかわりをしていた。いつもよりおかわりの量が多いから好物なのかな。
次に来たのはうさぎ肉の煮込み。付け合わせはマッシュドポテト。綺麗な器によく映える。
お肉はほろほろで、よく煮込まれたのが分かる。んん〜! 美味しい! お肉とマッシュドポテトを交互に食べることで飽きが来ない!
赤ワインベースのソースが美味しくてお皿に残ったソースをパンで掬いながら綺麗に食べる。
うさぎ肉はくどくなくて食べやすいから、何回もおかわりをしてしまった。
館長は少食みたいで、食べ終わったあとはシルを膝に乗せて撫でながら、体のあちこちを観察していた。ドラゴンの体をじっくり見ることなんて、一生のうち一度できるかできないか、だもんね。瞳をキラキラさせて、口角が上がりっぱなしだ。
「あぁ〜美味しかった! たくさん食べられて満足満足!」
「良かったですね。どうやら力を使われるといつもより空腹になられるみたいですね。皆に知らせておきましょう」
「そうしてもらえると助かるわ、ありがとうユビキタス館長」
「ではデザートにしましょうか。今日はまたトレビアンケーキ店のアップルパイを準備してきました」
目の前にアップルパイのホールが丸ごと出てきた。もちろん、あたしと館長に一個ずつ。バニラアイスも別のお皿に用意されている。
侍女頭のニーナが目の前でアップルパイを切ってくれて、小さいお皿に取ってくれる。
「ぜひ手で掴んで食べてみてください」
王女としてはそれはダメなんだけど、ここはあたしの部屋だし、一緒に食事をしている館長が言うのだからいいのだ!
ほわ〜! パイだから崩れそうなのに手で掴んでもしっかりしてて、ほかほかで、どっしりしてる! 中にりんごがしっかり入っている証拠だ!
あむっと口に入れると、サクッとしたパイ生地にジュワッと甘いくたくたに煮込まれたりんご。パラダイスだ。気づいたら無くなっていたひと切れ。
お次はアイスを乗っけて食べる。にゃふ〜ん! うみゃい‼︎ これは何個でも食べられる!
と思っていたら、ニーナがお皿に盛られたカスタードクリームを差し出してきた! これはっ! 食べるしかにゃいにゃっ‼︎
アップルパイにカスタードクリームを乗っけて、あーむっ!
……ンフフ、ンフフフフフフ‼︎
それからはもう、シンプルにそのまま、アイス添え、カスタード添えでお口はお祭り状態。あっという間に消えていった。あたしのお腹に。
「ごちそうさまでした! ユビキタス館長、アップルパイとっても美味しかったです! ありがとう!」
「喜んでいただけて良かった。今日はすぐに騎士団に行っていただけてありがとうございました。先ほど、騎士団長からの報告で騎士たちは皆無事に元気になったとか。大変助かりました」
「それは良かったです!」
そのあと、ユビキタス館長から今後について話があるのだった。




