第十九話 騎士団詰所
翌日、あたしはスッキリ起きていた。
昨日初めて力を使ったからか、なんだか疲れて爆睡してしまった。疲れは取れたけどお腹は空いてしまったので、朝ごはんが待ち遠しいっ!
テーブルに座り、ワクワクして料理を待っていると続々と運ばれてきた。
にゃっふー! 今日はステーキだ‼︎ 何度食べても美味しいのよね!
どうやら今日は色々な焼き加減のステーキを用意してくれているみたい! にゃー嬉しっ!
表面を軽く炙っただけのものから、しっかり火が通ったものまで。もちろん最初は塩胡椒で、味変にはガーリックを添える。
肉食系獣人は生肉に近いものを好むと聞いていたけど、わかるにゃ〜! 生肉じゃなきゃ味わえない美味しさってあるのよね。
人間は食べたら食中毒になってしまうことがあるから、生肉は食べたらダメらしい。
でもしっかり火が通ったものもこれはこれでいいのよ! 赤ワインソースがお肉を引き立てて、いくらでも食べられそう!
昨日頑張ったからか、いつもより少し多いステーキ七枚も食べてしまった。力を使うといつもよりお腹が空いてしまうのかもしれない。
「姫さま、ユビキタス館長がいらっしゃいました」
「お通しして」
シルと一緒に食後の果物を食べていたら、館長が来てくれたみたい。
部屋に入ってきた館長は、なんだかくたびれていた。聞いたら、ずっと調べ物をしてくれていたみたい。ありがたいなぁ。
「姫さま、早速ですがセオドア殿下は無事回復なさったそうですよ」
「本当に⁉︎ よかった〜!」
ほっとした。女神さまからの力をちゃんと使えていたのか分からなかったし。シルが大丈夫って言ってたから大丈夫だって思ってたけど、やっぱり少し心配だった。
「寝込んでいたので少しばかり体力が落ちているようですけど、問題ないようです。食欲もあり、すぐに体力も戻るだろうと」
「よかったわ! あたしお見舞いに行かなくっちゃ!」
「いえ、姫さまにはやって頂きたいことがありますので、それが終わってからでお願いします」
「やること?」
「はい、騎士団の方で問題が起きています。先日魔物に襲われたとき、護衛に当たっていた人間の騎士たちが暴れているようです」
「え? ……もしかして以前教えてくれた、魔物の黒い霧で人間は乱暴になってしまうっていう、あの?」
「えぇ、おそらくは。姫さまの体調がよろしいのなら、できる限り早く、姫さまに対応して頂きたいと思っております。……皆、知識はあっても実際に乱暴になった人間が出ることは滅多にないので、驚き、不和が生じ始めています」
それはいけないわ。なんとかしないと。騎士団長からも話を聞かなければ。
「体調は万全だから、今すぐに行きましょう」
「はい、お供いたします」
騎士団長に先触れを出してから向かう。本当はある程度時間を置かないと失礼なんだけど、出来るだけ早い方がいいみたいだからね。シルも一緒。
今回は騎士団の詰所に向かう。詰所の建物のだいぶ手前に騎士団長が待っていたので、そこで馬車を降りる。
あたしの前で跪いた騎士団長は優しい表情をしていた。
「姫さま、ようこそ騎士団に。お元気なご様子で安心いたしました」
「オルドリック騎士団長。先日は魔物から守って頂き、ありがとうございました」
「姫さまがご無事で何よりでございます」
あたしの翼を見て少し驚いたオルドリック騎士団長は、なんだか少し疲れているみたいだった。それもそうだろう。魔物が出るわ、騎士たちも大変だということだから、休む暇がないのかもしれない。
それでも迫力は変わらず、金の瞳からは強い意志を感じる。相変わらずの美丈夫ぶりだ。
「騎士たちが魔物の影響で大変だと聞きました。状況はどうですか?」
「はっ、主に先日セオドア殿下の護衛に当たった人間の騎士たちが暴れており、当人たちも戸惑っているように見受けられます。一部は自ら部屋に籠っており苦しんでいる様子。我々も今までに経験したことがなく、対応に苦慮している次第です。周りの者も種族関係なく影響を受け、口論や喧嘩が絶えません。酷い者は部屋で謹慎を命じておりますが、収まる気配が無く、騎士団の雰囲気は最悪です」
「そう……。そこまで酷いの……」
心身を鍛えている騎士たちがここまで影響を受けるなんて、正直甘く見ていた。魔物の黒い霧とは恐ろしいものなのね。
例え直接黒い霧の影響を受けるのは人間でも、間接的に獣人も影響を受けるのだわ。
今までは先祖の教えを守り、結界の外に出て魔物を討伐するのは人間以外だったから、被害がなかっただけ。
今回は結界内に突然現れたから、防ぎようがなかったわね。
とにかく、早くなんとかしないと。
「騎士団長、自分の目で騎士たちを見たいのだけど」
「危険ですので、姫さまを彼らに会わせることはできません。どうかご容赦ください」
お兄様のように胸元に黒いモヤがあるか確認したかったのだけど、仕方ない。一応オルドリック騎士団長にも聞いてみたけど、見えないらしい。
『姉さん、ここ嫌な気配がする』
「そう、シルも感じるのね」
籠から飛び出してきたシルがあたしの頭に乗りながら言う。
実はあたしも到着したときから、ざわざわとしたものを感じていた。これが魔物の邪なる気配なのだろうか。
「オルドリック騎士団長、とりあえずこの辺り一帯に力を使ってみます」
「わかりました。お願い致します」
シルのことや、あたしの翼や力のことは、王宮に務める重要な人物には通達してあると馬車の中で聞いた。
さっきは少ししか驚いていなかったから、騎士団長もその一人なのだろう。
王宮の中でなら翼を隠さなくていいらしい。だから遠慮なく飛ぶよ。
あたしの翼は女神さまから授かったもの、だからなのか手足のように動かせる。まるで生まれたときからあったかのように。
「リナ、着いてきて」
「承知しました」
リナに声をかけて、シルと共に飛ぶ。あたしの純白の翼と、リナの蒼天のような翼がどんよりとした曇り空に映える。
こんな曇天なのに、シルの美しさはかけらも鈍っていない。神秘的なほどに。やっぱりドラゴンってすごい。
ある程度の高さまで来た。これ以上高くなると結界を出てしまうから危ないとリナに言われたので、留まる。
こんなに広範囲に力を使うのは初めてだから、全体像を見たかったのだ。
騎士団の詰所が丸々入るくらいの範囲でいいよね。
頭の中でイメージする。詰所が綺麗に収まる大きな円を。その中にあるモヤモヤが消えることを。
どうか魔物からの悪い影響が消えますように。騎士たちが元気になりますように。
祈ると、あたしの胸元がぽわっと温かくなった。そこから球体が出てきて、両手にもつ。あったかい、淡いオレンジ色をしている。
その球体が弾けて、キラキラと地面に落ちていった。しばらくすると地面に模様が浮かんできた。光でできているみたいだ。
騎士団の詰所がすっぽりと入るくらいの光の円の中に、あたしの額にあるのと同じ紋様が浮かんだ。
突然カッと輝いたかと思うと、光の柱が立ち昇った。眩しくて目を閉じる。
収まったときには、先ほどから感じていた嫌な気配がなくなっていた。と同時に厚い雲が光の柱があったところだけぽっかりと空いている。
「できたのかな?」
『うん、できたと思うよ。嫌な気配が消えた。すごいよ姉さん!』
「シルもそう感じるならできたんでしょうね。なんだか呆気ないわ」
「姫さま、騎士団長が呼んでいるようです」
リナに言われて下を見ると、騎士団長があたしに向かって手を振っているように見えた。
とりあえず降りてみよう。
「姫さま! 今のは姫さまが⁉︎」
「そうよ! びっくりした?」
オルドリック騎士団長は目を大きくして驚いているようだった。心なしか目がキラキラしているような。
「えぇ、驚きました! 強い光に思わず目を瞑ったら、体がなんだかスッキリして、疲れが取れたような気がいたします!」
ん? そんな効果があるんだろうか。よくよく見るとオルドリック騎士団長の魂が輝きを増している。この輝きが正常なら、さっきまでは曇っていたのだな〜。なんにせよ、表情も明るくなっていいことだ。
『魂が綺麗になって、肉体も清浄な力に満ちている。さすが姉さん。すごい浄化だ』
「え、そうなの? ちゃんとできていたなら良かった」
「姫さま、シルヴァリウス様、ありがとうございました」
どうやら今のシルの言葉がみんなに聞こえていたらしい。騎士団長があたしたちに向かって深々と頭を下げる。
「頭を上げてください。まだ、肝心の騎士寮が残っていますから」
「はっ。よろしくお願い致します」
それからまた馬車に乗り、騎士寮に向かう。今度は騎士団長も一緒だ。
馬車の中でユビキタス館長に先ほどのことを根掘り葉掘り聞かれるのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
これはフィクションです。生肉は食べないでくださいね。危険なので。
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