第十八話 セオドアの回復
精霊さまとの話が終わって、王宮に戻る馬車の中。
「大変なことになったな……」
「えぇ、そうですね。ですが、希望でもあります」
「そうだなエリー。……アイリーン、この国の未来は君に託されたといっても過言ではないだろう」
「はい……」
「難しく考える必要はない。精霊さまも仰っていたように、君は今までと同じく、心のままに動けばいいのだと思うよ。大丈夫。必ず守るよ、アイリーン」
「私も全力でサポートするわ」
「ありがとうございます、お父様お母様」
とても大きい役割を任されて、本当にあたしにできるかどうか分からなくなってしまったけど、あたしには頼れる家族がいる。
精霊さまも、シルもいるわ。だからきっと大丈夫。
「国内一周旅行をすると思って、のびのびと楽しんでおいで。旅の護衛はこちらで選別しておくから」
「お父様、護衛の人選について、あたしの希望を聞いていただけませんか」
「なんだい? 言ってごらん」
「騎士団に行ったとき目を惹かれた人物がいます。リナ・クルトワという、鳥族の女性騎士です。魔物に襲われたときも助けていただきました」
「ふむ、騎士団長との相談になるが、おそらく大丈夫だろう」
「ありがとうございます。それから、ずっと考えていたのですが、この旅は空を飛んで移動したいと思っています」
「馬車で行くのではないのですか?」
お母様が目を丸くして驚く。
「はい、精霊さまは、これ以上待つのは無理だと仰っていました。あまり時間の余裕はないんじゃないかと。……この翼が授けられたのも意味があると思うのです」
「そうか、アイリーンがそう思うなら、そうなんだろう。分かった。護衛も飛べる者を選ぼう」
「では私は行く先々でサポートできるよう手配しますわ」
お父様とお母様は本当に優しい。不安な気持ちがだんだんとしぼんでいくのを感じる。
「僕たちは本当に感謝しているんだよ、アイリーン」
「え?」
「私たちは今まで、この国がゆっくり崩壊していくのをどうにかしようとしていたけれど、どうしても、止められなかったの」
「お母様……」
「守護精霊の木は真っ黒で、結界が弱くなっていくばかり。魔物は強くなっていき、土地は痩せていく。暗い未来しか見えなかったんだ。それで私たちも、セオドアも随分悩み苦しんだ」
「お兄様も……」
お父様とお母様は悲しい表情をしていたけれど、瞳には希望があった。
知らなかった。お兄様、確かにここ最近変だとは思っていたけど、国の未来を想って苦しんでいたなんて、知らなくて。
あたしは……何も知らず、のんびり楽しく暮らしていた……。
恥ずかしいな。
「顔をお上げなさい、アイリーン。あなたにはまだ早いと思って、言っていなかっただけよ。気にしなくていいの」
「アイリーン、みんな自分にしかできないことがあるんだ。だから胸を張って、明るい未来を見据えて、前に進むんだよ」
「いついかなるときも、己の役割を忘れてはなりません。アイリーン、あなたの役目を果たすときが来たのです」
「君ならきっとできる。なぜなら僕たちの娘だからね」
お父様とお母様はそう言って優しく微笑む。二人の瞳には国を背負ってきた覚悟の光があった。
「はい! お父様、お母様、あたし頑張ります!」
「うん、ありがとうアイリーン。必ず守るよ」
「必ず助けになるわ。アイリーン、ありがとう」
ちょうど止まった馬車の中で、おいでと言われて向かいのお父様とお母様のもとに行く。
二人にぎゅーっと抱きしめられ、頭をいっぱい撫でられる。
安心する匂いにあったかい手。大好きな場所。あたしの帰る場所。
「僕たちのかわいい子。無事に行って帰っておいで」
最後にほっぺにちゅーを二人からもらって、あたしもお返しにちゅっ。
思う存分甘えて、とっても満足だにゃ。
馬車を降りてそのまま三人でお兄様の部屋まで来た。精霊さまを信じて、お兄様の状態を早くなんとかしたい。
許可をとり入室する。
ゴクリと喉がなってしまう。本当にうまくいくだろうか。もし、できなかったらどうしよう。
大好きなお兄様が苦しんでいる。やるしかないのに、怖くなる。
お兄様のベッドの近くに行く。相変わらずベッドに寝ていて、うなされている。胸元の黒いモヤモヤは健在だ。
前に来た時より、お兄様の顔色が悪くなっていた。このままではいけない。
ベッドの手前で両膝を床に着け、両手を前で組んで祈る。
どうかお兄様が元気になりますように。楽になりますように。
胸元の黒いモヤモヤが無くなりますように。
目を開けて様子を見ると、黒いモヤモヤが丸ごと透明な花の蕾に包まれていた。
あれは体内にあるのに、どうやっているのか不思議だ。さすがは女神さまから授かった力ということか。
サラサラと不思議な音がして、モヤモヤが減っていく。
蓮華の花が開くとそこには光り輝く球体があった。黒いモヤモヤはどこにもない。
直感的にその球体はお兄様の魂だと分かった。綺麗な魂だ。さすがお兄様。
蓮華がキラキラと消えていくと、輝く魂はスッと見えなくなった。
これで大丈夫なはず。お兄様の容態はどうだろう。あぁ、よかった。顔色が良くなって、呼吸も落ち着いている。
お母様がお兄様のそばに行き、額に手を当てた。
「熱が引いているわ!」
「ほんとかい! すごいぞアイリーン! よくやった!」
お父様があたしをぎゅっと抱きしめて褒めてくれる。
目に見えてお兄様の様子が落ち着いていて、ちゃんとできたことが嬉しい。
安心して力が抜けてお父様に抱っこされる。
「どうしたアイリーン? 疲れたかい?」
「緊張して疲れました」
「そうか。ありがとうアイリーン。今日はもう部屋に帰ってゆっくり休みなさい」
「え、でも騎士団の方に行かないと」
「明日以降で大丈夫だから。初めてのことだらけで疲れただろう?」
「そうですよアイリーン。無理をしてはいけません。ゆっくりお休みなさい」
お父様が抱っこしたまま、あたしを部屋に送り届けてくれた。
お兄様はこれから侍医の診察を受けるらしい。ちゃんと治っているといいのだけど。
シルが『姉さんの兄は、もう大丈夫だぞ』と言っていたので、安心して眠った。




