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けもみみ王女は世界を救う【女神の翼×浄化】~大好きな家族と大切な仲間、そしておいしいご飯のために、あたしも戦います!~  作者: あまね月


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第十三話 お見舞い

 お見舞いの許可をもらったあたしは、両親の執務室を出てそのままお兄様の部屋に向かう。

 本当はお見舞い品、なにか持って行きたいけど、皆忙しくてそれどころじゃないんだよね……。

 やはりたくさんの人に声をかけられて、元気ですと伝えながらお兄様の私室に到着した。



「失礼致します」



 入室の許可をとったあたしは、静かにお兄様の部屋に入る。

 綺麗に整えられた寝室にはお兄様の看病をするための侍女がいて、口を覆うマスクを渡される。

 しっかり身につけたあと、ベッドに案内された。



 ベッドにはお兄様が横になっていて、額には固く絞られた濡れタオルがある。

 寝ているのに息が荒く、汗をかいているお兄様を見て、あたしは驚きで固まってしまった。



「でていけ……くるな……うぅっ」



 うなされているお兄様の胸元にハッキリと黒いモヤが見えたからだ。

 昨日見た、あのモヤだ。それがお兄様にっ!

 急いでお兄様の胸元を手で払うが、モヤは消えない。というか表面にない。お兄様の体の中に入り込んでいた。

 冷や汗が流れる。

 どうしたらいいか、わからないよ!



「姫さま、いかがされましたか?」


「このモヤなんなのかしら」


「モヤ、でございますか?」


「お兄様の胸元にある、この不気味なモヤのことよ」


「……私には見えませんが」


「えっ? でも……」



 あたしには見える。お兄様付きの侍女には見えないらしい。

 ここまでついてきてくれた侍女頭に目で尋ねる。



「……私にも見えませんわ。姫さまにはそのモヤ、が見えるのですか?」


「見えるわ! これは昨日襲われたときに見たモヤと同じものよ!」


「昨日、姫さまが魔物に襲われたときのものとですか?」


「えぇ」



 お兄様付き侍女とあたしの侍女頭が真剣な表情で互いに見つめあったあと、頷く。



「姫さま、重要なことのようですので、両陛下と侍医にお伝えしておきます」


「えぇ、あたしも調べてみるわ……」


「姫さま、そろそろお戻りになりませんと」



 後ろ髪を引かれる想いでお兄様の部屋を後にする。

 お兄様が発熱しているのは、あのモヤが原因かもしれない。そうじゃなくても、あのモヤは悪いものだと感じる。

 肌が粟立つ感覚、あのときとそっくりだ。



 ふと思い出して籠の中を見てみると、ドラゴンが震えて怯えていた。優しく撫でて落ち着かせる。

 このままあのモヤを放っておくと、お兄様はどうなってしまうのか。

 恐ろしい想像にあたしの胸はギュッと締め付けられたようだった。





 自室に戻ったあたしは、テーブルに用意されたお茶と茶菓子をいただいていた。

 おいしいはずなのに、お兄様が苦しんでいることがずっと頭を支配する。

 あのモヤはどうしてお兄様の中に入っているのか、どうすれば消えるのか、考えてもわからない。

 こういうとき頼りになるのは、やはりユビキタス館長だろう。



 館長に手紙を書こうと侍女に用意をお願いしようとしたら、来客があったようだ。

 なんとユビキタス館長だった。なんていいタイミングなんだろう。



「姫さま、お元気になられましたか?」


 心配そうに尋ねる館長は相変わらず綺麗で、思わず見惚れそうになった。

 さすがエルフ族。


「ユビキタス館長! ちょうど会いたかったところなのっ!」


「それはよかった。王都で人気のケーキも持ってきましたから、ぜひ食べてくださいね」


「わぁ! うれしいっ! ありがとうございます、館長!」


「いえいえ、姫さまと一緒に甘味を食べる時間は私も気に入っていますから」



 おぉ! これは噂に聞くトレビアンケーキ店のケーキ‼︎ まだ食べたことがないから楽しみだ!

 侍女たちがテーブルをセットしてくれて、紅茶を淹れてくれる。

 お皿に並べられた三種類のケーキをみて、思わずニマニマしてしまう。

 なんて綺麗でおいしそうなケーキたち!

 館長のお皿にもあたしと同じ種類のケーキが並んでいて、館長はケーキを見て嬉しそうにニコニコしている。やはりあたしと館長は同好の士なのだ。



「ではいただきましょうか」



 準備が整ったのでまず館長が毒味も兼ねてケーキを一口ずつ食べてから、あたしもいただく。

 最初はフレジェ。う〜ん、このカスタードとバターのしっかりとした風味が生地と大ぶりの甘〜い苺とマッチして、非常においしい。

 軽いけど程々にどっしりとした味で紅茶がよく合う。



 お次は、メロンショートケーキ。白い生クリームにメロンの緑色が映える。

 よく熟したメロンを使っているようで、しっかりと種を取り、だけど一番美味しい部分を削らないように絶妙な包丁さばきで切られたメロン。

 トロリと甘い果汁、軽い生クリームと生地が合わさって、いくらでも食べられそうな味わいになっている。



 最後はザッハトルテ。鏡のような光沢を持つチョコレートがコーティングされている。

 一口食べると、舌触り良くとろけるチョコレートがチョコ風味のバターケーキを包み込み、アプリコットジャムの酸味がほどよく絡まる。

 チョコ好きにはたまらない一品だ。



 あたしと館長はしばらくケーキを夢中で味わった。お互いおいしいものを食べるときは無言になって自分の味覚の世界に集中するので、そういうところも気が合う友人だ。

 お互いケーキを食べ終わり、おいしい紅茶で余韻を楽しむとお話タイムに突入する。



「ごちそうさまでした。素晴らしいケーキでした! さすがは王都一の人気店、トレビアンケーキだわ」


「そうでしょう、そうでしょう。私も滅多に手に入らなくて、今日は朝から並んで一番乗りで買ってきたんです」


 見ているこちらがほっこりする笑顔で嬉しそうに言う館長。


「手に入れるの大変だったのに、あたしにも分けてくれて、ありがとうございます」


「いえいえ。姫さまのために買ってきたものですから気になさらず。思ったより姫さまがお元気そうで、安心しました」


 心から安堵したような笑顔になる館長。かなり心配をかけてしまった。こんなにおいしいケーキまで持ってお見舞いに来てくれるなんて、優しい人だな〜。


「ご心配をおかけしました。この通り、元気いっぱいよ!」


「えぇ、大変喜ばしい。それにしても今回は災難でしたね。両陛下より話は聞いています」


「そうなの。あたしを守るために、騎士たちに無理をさせてしまって……」


「騎士とはそういうものです。突発的だったのですから死者が出なかっただけ不幸中の幸いです。気に病まれないでください」


「はい……」


 うにゃー、気に病むよ〜。そのときあたしにできる精一杯のことはした。わかっていても苦い思いが広がる。

 そんなふうに思っていたことが顔に出ていたのか、館長は心配そうに眉を下げた。


「そんなに気になるなら、自室待機が解除されたときにでも、騎士団のお見舞いに行かれるとよろしい。姫さまは部屋にこもって悶々としているより、行動している方が良い方向に風が吹きますからね」


「そうね、そうするわ」



 友人と呼べるだけの時間を過ごしてきたからか、ユビキタス館長はあたしのことをよく理解してくれている。

 だからつい、いろんなことを相談したくなってしまうのだ。


 

 騎士団のお見舞いに行く。それは決定事項だ。でもそれだけじゃダメだ。

 強くなろう。自分を守れるくらい強くならないと、きっとまた同じことが起こる。

 自室待機が解除されるまで待てないから、部屋でできる運動をしっかりやろっと。


 あたしは改めてそう決意した。

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