第十二話 大事な話
あたしを抱っこしたお父様がそのままソファに行き、一緒に座る。お父様とお母様に挟まれる形になった。
昨日の一連の流れを話す。
「ふむ。地形訓練場で試験を受けていたアイリーンは森の奥に進んだ。そこで水晶玉と卵を見つけた。その卵からドラゴンが生まれてきて、水晶玉から出てきたモヤに襲われたので、ドラゴンを抱えて逃げたと、そういうことだね?」
「はい。その通りです」
あたしは籠からドラゴンを出して膝に乗せる。ドラゴンは周りの様子をキョロキョロと観察していた。
「この子がそのドラゴンです。モヤに襲われたとき、すぐに抱き抱えて払ったけど、ドラゴンの身体に黒いシミのようなものができてしまったんです」
「本当だわ。せっかくの美しい鱗がこんなことに……」
「これでも昨日一晩で薄くなったんですよ」
「このまま綺麗に消えるといいんだが……」
お父様とお母様が恐る恐るドラゴンを撫でる。キュア? とあたしを見て問題ないと判断したのか、おとなしく撫でられている。かわいい。
「このドラゴンはアイリーンにとても懐いているみたいだね。離すのは可哀想だから、お世話できるかい?」
「はい! しっかりお世話します!」
「わからないことは頼れる人に相談しなさいね」
「もちろんです!」
本当に昨日の件で自分の力不足を痛感した。あたしだけの力では逃げ切れなかっただろうし。
だから、自分だけで解決しようとはしない。大切なものを守るために。
「さて、アイリーン。とても大切な話がある」
「はい。お父様、お母様」
「今回の件。おそらく人の手が関わっていると見ていいだろう。つまり、敵が近くにいる、ということだ」
「敵が近くにいる……?」
「そうね。騎士団長が言っていたのだけど、アイリーンが見た水晶玉のようなもの、それは魔物の核ではないかということよ」
「あれが魔物の核……」
「魔物の核が単体で地面に落ちているなんて聞いたことがない。魔物の体内にあるのが普通だからね。それにドラゴンの卵も、あんなところにあるのは明らかにおかしい」
「それはあたしも思いました。ドラゴンが生まれたとき、こんな場所でありえないと」
「そう、ありえないのよ。誰かが置いたとしか考えられないの」
「僕たちの推測はこうだ。誰かが、魔物の核とドラゴンの卵を訓練場の森に置いた。ドラゴンが生まれ、魔物の核に接触したとき、核から出たモヤがドラゴンを襲い、取り込み、魔物となる」
「魔物になったドラゴンは暴れるでしょう。たとえ生まれたばかりの子ドラゴンだとしても、その力は魔物化によって増幅され、圧倒的でしょうね」
「実際に騎士たちの報告によると、アイリーンを追いかけたモヤは近くにいた鹿を取り込み、魔物と化した。それがこの推測に至った、最も強い材料だよ」
「ではこの子は。魔物にするために、何処かから攫われてきたと?」
「おそらく、ね。ドラゴンを魔物化して王宮を襲わせようとしたんじゃないかな。近くでたくさんの人の気配があるのは王宮だから」
そんなのって、あんまりだ。この子の親はどんな気持ちで……。ドラゴンの力を利用するために、こんなことを。許せない。
大丈夫、安心して。あたしが一緒にいてあげる。守ってあげる。親を探してあげるから。
そんな気持ちが伝わるように、優しくドラゴンの頭を撫でる。キュウ〜と気持ちよさそうに目を閉じた。
「どこの誰がこんなことをしたのか、まだわかっていない。アイリーンが卵を見つけたのは想定外だったと思うよ。昨日は急に決まった試験だったからね」
「アイリーンがドラゴンを助け出したことで、鹿の魔物というありきたりで比較的倒しやすい魔物が生まれたのだと思うわ。そのドラゴンとの縁を大切になさい」
「はい! お父様、お母様!」
もうひとつの懸念事項。しっかり聞いておかないと。
「お父様、お母様。お兄様の容体はどうなんですか?」
「怪我は打撲くらいだ。あとは発熱だけど、なかなか治らないみたいなんだ」
「侍医も手を尽くしてはくれているのですが、薬を飲んでも熱が下がらないとか」
「そんな……」
「きっと大丈夫だ、アイリーン。セオドアを信じよう」
「はい……」
なんでお兄様がそんなことに。はやく熱が下がるといいけど……。
お母様があたしを落ち着かせるように頭を撫でてくれる。
「お兄様は誰に襲われたのですか?」
「それが……わからないんだ」
「わからない……?」
「救出に向かわせた騎士団長の話では、現場に着いたとき、誰も彼もが気を失っていたらしい。騎士、御者、セオドアにライオネル。さらには馬まで」
「馬までですか? それは奇怪ですね」
「呼びかけても起きないから、王宮まで運ぶのに苦労したようだ」
「しばらくして気がついた騎士から話を聞きました。襲ってきた敵は一人で、初めはただの人間にしか見えなかったが、黒いモヤに包まれたあと変化して、腕が六本ある大きな人型の何かだったと」
「黒いモヤ……変化……」
「似ているだろう? アイリーンのときと。さらに騎士はこう言ったんだ。見たことのないものだったが、全身黒色で目だけ紫色に光っているのはよく知っている、と」
「……魔物⁉︎」
「そうだね。我々もそう推測している」
「人間の魔物……」
「人間が魔物になったのか、魔物が人間に化けているのかはわからないけど、大変な脅威だ」
「通常魔物に襲われたら、生きるか死ぬかの戦いになります。だから今回セオドアを襲った魔物のようなものが、誰も殺さなかったというのは、とても不気味なことなの」
「……人間の魔物には知性があるのだろう。人間に化けられるほどの知性が。そんな奴がなんのために襲ってきたのか、それが分からない。それにその人間の魔物はどこかに姿を隠してしまった。とても危険な状態だ」
お父様はあたしには滅多に見せない、眉間に深い皺を寄せた表情をしていた。
お母様はとても真剣な瞳であたしを見つめる。
「何かが起きているのです。アイリーン、非常事態ですのであなたには自室待機を命じます。外に出てはなりません」
仕方がないだろう。もしまたあんなことがあったら、あたしは足手纏いでしかないのだから。
本当は騎士たちのお見舞いに行きたかった。謝りたかった。あたしのせいで、怪我をした人もいるのだから。
「わかりました。お父様、お母様。お願いがあります」
「この状況で叶えてあげられることは少ないよ?」
「騎士団長に、足手纏いでごめんなさい、助けてくださってありがとうございます。騎士たちにも、あたしのせいで怪我をさせてしまって申し訳ありません、とお伝えください」
「それくらいなら、わかった、伝えておこう」
「それから、お兄様のお見舞いに行かせてください。どうしてもお兄様に会いたいんです!」
「あまり会うのは良くないんだが……」
「どうかお願いします!」
立って、お父様とお母様に頭を下げる。ドラゴンはあたしの腕の中でおとなしくしていた。
「エド、会わせてあげないと、きっと部屋から抜け出して会いに行ってしまいますわ」
「……仕方ないな。十分だけだよ?」
「はいっ! ありがとうございます!」
こうしてあたしのことをよく理解してくださっているお母様の援護射撃もあり、お兄様のお見舞いに行けることとなった。
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