誰かのせいで君が黒い犬を飼い、君のせいで誰かが飼うんだよ
その犬は「黒い犬」と簡単な可愛い名前で言うのはずいぶん大きかった。犬なのでもちろん四足歩行であるが、その状態でも犬の頭は俺の身長を軽く超えていて、写真どおりの鋭い牙からはよだれが垂れ、「はぁはぁ」吐息を漏らして俺をじっと見ている。犬が口を大きく開き俺に近づいてきた⋯⋯
あずきは俺の体をお姫様抱っこで持ち上げて俺の家の屋根に上る。犬は今にも跳んで俺をかみついてきそうな勢いで、俺をずっと睨んでいた
「あの犬はどこかへ向かっていたんじゃなくてきちんと座っていた。そして食べようとしてきた。あれも刺客と見ていいだろうね」
「だろうな。俺あずきいなかったら今頃死んでたぜ⋯」
「あの犬は運動能力は高いけどさすがに屋根まで上ることはできない」
「ここから銃でちまちま撃っていけばいいんじゃないか?」
あずきは俺を下ろし、リボルバーを犬に向け放つ。弾は綺麗にまっすぐ犬の方へ向かったが、犬はものともせず弾丸を食べた。
「もし当たってたとしても体を妖力でおおわれてるから傷一つつかない。拳の周りにだけ妖力を集中させて覆わせてなぐれば、ダメージは入れると思うけどスピードで負けてるから初撃は避けれたとしても、犬の攻撃を避け切り続けて殴るのは現実的じゃないだろうね」
「じゃあどうやって⋯」
「君の出番だね」
「⋯おとりで?」
「さすが。君は今のところすべておとり成功してるから今回も多分大丈夫だよ」
おとりを失敗してたら俺は今ここにいない。そんな危険な役をあずきは遠慮なく俺に押し付けてくる
「このまま屋根をつたって少し行ったところで君を下ろすから。犬が来たら十字路を曲がり続けて何とか逃げ切るんだよ」
屋根をいくつか渡り、あずきは俺を地面に下ろした。途端、黒い犬がいた方角から咆哮が飛んできた
「噛まれたら死ぬって前言ったけど、噛まれた時ポジティブなこと考え続けたら、伝染が遅くなる場合があるからそうして」
「じゃあ」と言ったあずきは透明になっていき見えなくなっていく。「遅くなる場合」なので絶対というわけではないだろうし、なによりあの図体のでかい犬にかまれたら腕一本くらい簡単に引きちぎられる。
一直線上に黒い犬が見え目と目が会った瞬間に俺は十字を曲がって走った
死に物狂いで十字路を右左右右左とジグザグに走り続けているが後ろから聞こえる犬の鳴き声はどんどん背中に近づいてきている。
ふと前を見れば次の十字路の中心であずきが立っていた。あずきは俺から見て左側を指して左にさっていった。これは左に来いということ。俺は犬の荒れた吐息を耳もとから受けながらなんとか左に曲がり切った
曲がるとすぐにあずきがかがんでいるのが見えた。そして俺に続いて犬が飛び掛かってくる。
あずきは犬の体を殴り飛ばした。
電信柱にぶつかった犬は、大きな鈍い音がしたというにも関わらず体を微かに震わせると、何事もなかったかのように俺に飛び掛かってくる。
一目散に走る俺をあずきが抱えて屋根の上に飛び乗った
「これをあと100回繰り返せば多分殺せそうだけど」
「現実的じゃないんじゃねえか?次かその次くらいでスタミナ切れで俺死ぬと思うぞ」
「だろうね。人に見られるわけにもいかないし時間の問題的にもきつそうだね」
「じゃあどうするんだ?今日はいったん退避か?」
「家がばれてるんだから逃げても意味無いよ」
「それじゃあどうやって」
「奇襲のために呼んでおいた助っ人に助けてもらおう」
黒い犬がじっと眺める先。それは俺たちではなかった。犬はてくてく屋根を渡ってこちらを向かってくる一匹の猫を見つめていた。猫は俺らのところに来ると二足歩行に切り替える
「せや!ワイが助っ人やで」




