昔は罪人に入れ墨を掘ってたんだよ
「お前⋯それって」
「いいだろタトゥー堀ったんだー」
あずきから詳しい形状は聞いていないものの、文様が生物にある場合、それはタトゥーとも取れる。
見ているだけで体の内部が厭になってしまうようなまがまがしいオーラは、あめふらしやサンタクロースはの時に感じたものに酷似している⋯。不可抗力のような何かによって、自然と俺の体は少し距離を開け
「へ、へー。その⋯なんで掘ったんだ?」
細かい呼吸で焦りを殺しながら、平静を装いながら尋ねる
「掘ったっていうか、朝起きてたら腕にあったんだよね。消すのバカ高い費用かかるらしいし、あんま害ないからこのままでいいかなって」
意図的ではなく、自分以外の何者かによってタトゥー⋯文様があった。これは確実にあずきが探しているものだ⋯。
「そのタトゥーもっとよく見せてくれよ」
俺は体を極限まで卓也に近づける。それで出来た死角⋯俺の右空間でスマホを開き
「かなざわえきべんちもんよう」
卓也に悟られぬよう、高速で必要最低限の情報をあずきに送った
「ったく、しゃーねーな」
嬉しいことに、このあほはそんなことに全く気付かず、鼻の下を伸ばしながら腕を俺の文字通り目の前に近づける。近くに来れば来るほどそれは、汚く映る。どこかが歪んできているような気もするし、顔になって俺を笑ってきているような気もする。
「お前見とれすぎだって、あっでも触ったらずきずきするから接触禁止な」
触れば俺にまで移っていきさそうなこれは、たとえあずきに命令されたとしても触りたくない⋯。
「あ、悪ぃ電話きたわ」
そう言って俺はベンチを立つ。これ以上近づいていれば体がおかしくなりそうな気がして、俺は咄嗟にあずきに電話をかけた。電話はワンコールでつながった
「あ、もしもしあずき?速く来てくれ」
「今急いで向かってる。本当に文様なんだよね?」
「前の子供の文様を直接見たわけじゃないから断言はできないけど、もう、見てるだけでまがまがしくて、妖怪の雰囲気するから絶対そうだと思う。とりあえずマジ速く来てくれ」
「わかった。ベンチの場所まで3分くらいで着くからそれまでその人を見失わないでね」
俺が返事をするより先に、あずきは電話を切った
この文様ってやつは妖怪度4以上であると猫助は言っていた。あずきは自分を妖怪度5だと言っていたので、多分何とかしてくれる。そう自分に言い聞かせて振り返りベンチを見る⋯そこに卓也はいなかった
まず、あずきに「見失った」と報告を入れるべきだったと、理性的な人なら考えるかもしれないが、それはあずきを見たことが無い人が、適当こいているだけで、実際にあずきから暴力を振るわれた人なら、今の俺と同じようにあずきが来るより先に卓也を見つけ出す方を選んだだろう。
あずきは普段、優しいとまでは言えないものの冷たくはない。そう普段は。しかしもし、ポテチをつまんだり、起こしかたを間違えたりしてしまったら、どうにかしてあずきの機嫌を戻さないと飛んでくるパンチを免れることはできない。今ここであずきに伝えたとして、無駄足をさせたことはどうにもならないしポテチひと箱はもう約束しているので、これ以上機嫌を取る方法はない⋯ーつまり死なないためには一刻も早く卓也を見つけなければならない
「卓也ー!卓也ー!」
奇怪な目で見てくる外国人に構わず、大声で名前を呼びながら人ごみの中を駆け回り、見てくる全員の顔に目を通す。それでも、卓也は全く見るからない⋯
「君」
後ろから聞こえた冷たい女の声に心臓が痛く止まりかける⋯⋯
その女は肩にそっと手を置いて、俺を振り向かせる
あずきが立っていた




