涼みにこの家に来るのもいいんじゃない?
「ペスト医師相手には逃げるしかできてなかったけどね」
「いやぁ、それは」
「まぁあれは格上も格上だからしょうがないかな。今の私でも無理だと思うし」
「あーゆー初心者狩りが好きなやつとは仲良くなれそうにねぇわ」
「相手は君のこと好いてたみたいだったけどね」
「勘弁してくれよ」
どうせ好かれるなら女に好かれたいものだ。
その時、俺の前を歩いていたあずきが止まった。俺は足を止めず、わざとぶつかり髪の匂いを嗅いだ
「うーん、シャンプーの匂いしかしねえな」
「そりゃあ君の家で毎日髪洗ってるからね。そんなくだらないことより」
いくらあずきのといえど、顔がととのっている人の髪の匂いを嗅ぐのはくだらなくないだろ。そういいかえそうと、喉元まで出かかったとき、あずきが止まった理由が見えた。血がどっぷりついた包丁だった。
「⋯⋯ケチャップを切ったってわけじゃなさそうだな⋯」
「ケチャップを切るシーンなんてほとんどないと思うけど」
あずきは冷静だった。すこしでもボケてこの恐怖をごまかそうとした俺があほみたいだった。
「この包丁の血は妖怪の雰囲気がしない。人間を殺すのに使われたんだろうね」
「⋯⋯血が、ずいぶん新しいものに見えるけど⋯⋯」
「そうだね」
あずきは淡く肯定した。
次に物音がした。日本人形がじっとこっちを見ていた。その髪の毛は伸び続けていた。
「あーずきさん⋯⋯お願いします」
「ヴァン」
俺が言い終わった瞬間に、あずきはリボルバーの引き金を引く。だが、弾丸は当たらなかった。
外れたのではない。日本人形の髪が触手のように動き、弾丸をつかみ取っていた。
髪は弾丸を捨てると、するする俺たちに向かってくる
「猫助!!髪を切って」
「あいよ!」
召喚された猫助はまっすぐ日本人形にとびかかり、爪を長く伸ばす。猫助は力いっぱい振りかぶった。
だが、髪の毛は切れなかった。
「あら?えらい硬いなぁ」
「猫助もう一回だ」
「まかせぃ」
猫助はさらに爪を伸ばし、振りかぶる。また切れなかった。
猫助が地面に着地する前に、日本人形はじっと猫助をにらむ。髪の毛が束になって、猫助を殴りつけた。
「あかんでぇ⋯」
重い一撃を食らった猫助は消えていった。




