捜し人
それから俺は、お風呂を満喫した。
なんだかんだとシトリーが乱入してくることが多いので客がいるとはいえ一人で満喫できて大満足である。
母も来たがっていたのでまた来る機会があれば一緒にこれたらいいが…まぁ認識阻害のアイテムは必須だな。
そういえば編集者との打ち合わせもほんとは本人に任せようかとも思ったのだが…。
「もう死んだ人間が手を出す問題じゃないから好きにしな」
の一言であった。
ちなみにアカネとも話したそうだが…オタクが二人揃うとあんなことになるのかと…とんでもないことになったそうだ。
その時に大体のことはアカネに任せていることを伝えている。
俺よりも作品に対する解像度が高いのでチェックをお任せしている感じだ。
当初、本人は神作品に関わるなんて恐れ多いと言っていたのだが…。
作者本人からもお墨付きをもらったので張り切っている。
「さてあいつらが出てくるまでどうするか…」
と以前スミレといった食事処でアイスを楽しんでいると…。
「すみません」
「はい?」
声をかけられた方向を向くと温泉施設には似つかわしくない、立派なスーツに身を包んだ初老の外国人男性が立っていた。
認識阻害をつけているので俺だと認識されている訳ではないと思うが…。
「こちらの男性と女声を探しているのですが…」
と写真を提示された。
その写真を確認すると…。
そこに写っていたのは俺とシトリーの写真であった。
「いや、私は見たことがないですね…」
眼の前にその写真の男性がいるのだが…目的がわからない以上安易な干渉は避けた。
「そうですか…ありがとうございます」
と目に見えて肩を落とす。
「そちらのお二人はどういった?」
「ああ…申し訳ございません…片方は行方不明の娘でして…もう片方はその娘と一緒にいたということで探しております」
娘!?
「そ、そうですか…ここにはよく来るのでもし見つけたら連絡を差し上げましょうか?」
と言うと…。
「ほ、ほんとうですか!ありがとうございます!ありがとうございます」
といって男性は必死に頭を下げていた。
「こちらにご連絡を頂ければ飛んでまいりますので…!」
と深々と何度も頭を下げてどうやら他の人にも聞き込みにいったようだ。
「シトリーの…しかも実の親ってことか…」
シトリーは、ハワイに来ていた女性の肉体を使用している。
有名な資産家の奥さんだったそうだが…家族が生きていたとは…。
これをシトリーに伝えたところでなんの解決にもならない。
そもそもシトリーの人格自体はもとの人格と全く関係なくシトリーという悪魔の魂の存在である。
シトリーの姿形はあくまでもシトリーが使用していた肉体の形に魂が変容したに過ぎない。
つまりシトリー自身には彼の娘としての記憶は持ち合わせていないのだ。
「まぁこの理屈だとストラスも同じ可能性が高いんだが…」
日和が救おうとしているストラスも同じく肉体に魂が宿った状態だ。
ならば…本当の魂はどこにいったのかという話になる。
「肉体に付随していないのであれば…あれも無駄になるかもなぁ」
必死に集めている糸だが…実際のところどうなるかはわからない。
そもそも効果があるのすら試していないのだから。
本人の魂が残っている日和には効果的なんだろうが…。
「それはそれとしてどうするか…」
娘に合わせて上げたいという気持ちもあるが、娘の姿をした全くの別人である。
合わせたところでなんの解決にもならない。
シトリーには注意するように伝えつつ…この件については沙月に打ち上げておくことにする。
俺だけが抱えてなんとかなる問題でもなく対策は考える必要がある。
不要な混乱を招く危険性もあるため注意しなければいけない。
そんなこんなで悩んでいると噂のシトリーたちもお風呂から出てきた。
全員館内着の浴衣に着替えて非常に華やかである。
そして一部の違和感を見つける。
「カナタ…お前」
「いいだろ、別に飲んでおかないと男に間違われたりするんだよ」
と言いながら目を逸らされてしまった。
「まぁ気にする必要はないと思うが…綺麗だと思うぞ」
と一声かけておいた。
別に胸がどうという訳ではないのだが、いつもとは違うヘアスタイルと着こなしにドキッとしたのも事実である。
「そりゃ、どうも…」
と少し赤くなっていた。
それから他の女性陣にも感想を求められもみくちゃにされたあとに焼肉店に移動した。
今日は、お店に渡すものがある。
「こちらを納品させてもらいたくて」
と函館ダンジョンの検疫を終えた米を納品した。
正真正銘の正規ルートの正規品である。
「これは今、超話題の!?」
と言われたが…残念ながらその情報は知らなかった。
「そうなんですか?」
「はい。米のドロップは初なので今は日本中の話題ですよ」
といってスマホの画面を見せられる。
そこには米発見か!?
新種の米!ダンジョン米!
函館で米発見!!
とニュースの一覧には米の話題が大量に並んでいた。
「こんなことになってるとは…」
「まさかそのドロップした米がうちに…本当にありがとうございます…このお礼は必ず」
と頭を下げすぎて完全に土下座していた店長をそのままにして部屋を後にした。
後日聞いたのだが、金銭的には未だに価値が定まっていないものなのでという事で…。
全国展開しているホテルの無料かつスイートルームを常時使えるようにしてくれるようにしてくれたそうだ。
とんでもないサービスである。
そしてそのまま焼肉をごちそうになった。
そこで先程あった出来事を共有しておく。
「へぇ…」
と余り興味のなさそうなシトリーはパクパクと肉と米を口に運んでいた。
「お前のことだぞ?」
「いえ、違うわ…そもそも肉体は取り上げられてるしその肉体の話でしょ?」
シトリーの肉体はストラスに回収されてしまっているので確かにここには彼女のものは何もない。
「そうはいっても探してるんだから気をつけろよ」
「まぁそうね…面倒事はごめんだし気をつけてあげる」
と完全に他人事のような態度でパクパクと食べていた。
「後で沙月に相談しておくけどまぁもし会ったらごまかしておいてくれ」
と皆に言伝ておいてから食事を楽しんだ。




