親子揃って
詳しい事情を説明した。
隠し通すことはできない⋯それに俺自身も話しておきたかった事でもあった。
罪の精算は済んだと思えたとしても親友の命を直接奪ったのは俺である事実は変わらない。
奇跡的にも本人から許しを得たとはいえ、やった事実は変わらない。
重苦しい空気が流れる⋯。
「これも私がしっかり格闘技を教えてなかったのが原因ね⋯」
確かに母に指導されていれば恐らくあんな奴に遅れをとったりはしなかっただろう。
しかしまだ学生の身分で母の格闘技術を学んでいるというのは教育上良くなかったであろうことはなんとなく分かっている。
運動に関しては他者を圧倒していたしそれに武力が加わればもしかしたら道を踏み外していた可能性すらある。
まぁ母(聖歌)がいれば踏み外そうとしても物理的に出来なかっただろうが⋯。
「その事については既に私の方で片はつけたからこれ以上責めるのは無しよ」
と母(京香)が口を出す。
「ええ、わかってるわ⋯そもそも私が原因で起きた事、責めるのはお門違い。ただ悔しいのはそんな目に合わせた奴らが誰も残っていない事よ⋯」
残念ながら一族郎党アカネの活躍もあってほぼ残っていない。
獄中死、報復、投獄など救われている関係者はいないと言っても良い。
そう考えるとアカネの周到具合が怖いという事になるのだが⋯。
「後でお礼をいっておかないと⋯後はもし末路まで知ってるなら全部聞いておこうかしらね」
と呟いていた。
「この件について私がとやかく言うつもりは無いわ⋯発端が私であった以上私も殴ってもらわないといけないわね」
と母(聖歌)は窓の側で立ち尽くす。
「別に恨んでる訳じゃないんだけど⋯」
「良いのよ、親子の不始末しっかり精算して頂戴」
と言って母(聖歌)は立っていた。
「全く親子揃って融通が効かないとこはそっくりね、まぁそういう所が好きな訳だけど」
と言いながら母(京香)が構える。
「立派に育ててくれてありがとね、京香」
「ええ、これからは頼むわよ。聖歌」
と言葉を交わしたのちに母(京香)の拳が腹部へと突き刺さった。
そしてそのまま窓を破りプールに向かって飛んでいく。
「俺も傍から見るとあんな感じで飛んでいったのか」
「親子揃ってめんどくさいわね。ほんと」
恐らく母(聖歌)も親友が亡くなった事に責任を感じていた。
もし今のように精算する事ができなければしばらく引きずっていただろう。
そもそも後悔をするような行動をすることが少ない母(聖歌)だが、失敗した時の落ち込みようは激しい。
予防接種などで気をつけていたというのに共演者からインフルを貰ってしまいコンサートを休んだ時にはひどい落ち込みようだった。
もっとなにかできたはず⋯。
今からでもなんとか歌えないだろうか⋯。
とずっと自問自答していた。
ちなみにその後、自宅からラジオで歌声を配信するという荒業を行っていた。
その後、無理をしたせいかしばらく療養期間が長引いたのは言うまでもない。
それくらいには、失敗を後悔する質なのである。
「俺が殴られるのも覚悟してたんだけどな」
「あんたを責める事はしないわよ⋯まぁそれよりも戻ってきたら報告しなさいよ」
「えっ?何を?」
「婚約者の件よ、まだ報告してないでしょ?」
「そっか⋯報告しなきゃいけないよね⋯」
「そりゃそうよ、アイラもソワソワしてたわよ」
顔を手で覆う。
「何を恥ずかしがってんのよ」
「そうだよなぁ⋯報告しなきゃだよな⋯」
「まぁ戻ってきたら報告しなさい」
ということで悩ましい課題が増えてしまった。
別に報告することが嫌な訳では無い。
「実父の事を考えると重婚は良い顔されないよなぁ⋯」
「プッ!そんな事気にしてたの?」
「そりゃ気にするだろ⋯全員親がいないから許されるようなとこあるんだし」
正直親目線で考えたら重婚なんて嫌がられる気しかしない。
「あんな糞男と一緒にしないわよ、それに娘欲しがってたし喜んでくれるんじゃない?」
「そうかなぁ?割と身持ち堅いとこあるし怖いんだけど⋯」
母に言い寄ってきた男は、別に実父だけではない。
他にも業界関係者を含め果ては政治家や石油王までプロポーズしてきたほどだ。
母(聖歌)はその気はないといってすべて断っていた。
「別に気にせず結婚してくれてもいいんだよ?」
と自身の出生の秘密を知った後も頑なに関係を結ぶことはなかった。
「結婚するならあなたみたいな人じゃないとトキメカないのよね~」
と真面目な顔をして言われた時は戦慄したもんだ。
本人曰く、自身に及ぶ位のスペックがないとダメらしい。
「一から育てるしかないのよね~」
「待って、歳の差考えると犯罪者だからやめて」
という訳で本人は自分と並び立てる位のスペックじゃないと認められないそうで残念ながらそんな人物は現れなかった。
「俺は、報告したら殴られる気がする」
「ハハッ!気にしすぎよ、なら賭けようか?」
と悪ノリした母(京香)から提案を受ける。
「いいよ、俺が殴られる、もしくは怒られたら俺の勝ち」
「気にせず笑ってたら私の勝ち、いいわね」
勝っても嬉しくない勝ちになるんだが⋯。
「もし私が負けたらアノ話受けてあげるわ」
それは大分メリットのある話だ。
「嬉しいけどぶっちゃけその場合、殴られる一択だからめっちゃ嫌だな~」
というやりとりをしているとびしょ濡れになった母(聖歌)が戻ってきた。
「こんなまともに殴られたの初めてかもしれないわね⋯」
そういって髪を振るう。
美しい髪が揺れる。
「髪戻ってよかったね」
改めて母のトレードマークである綺麗な黒髪を見て呟いた。
「ええ、まぁアンノウンの時のが手入れは楽だったのだけれど」
といって笑っていた。
やはり嬉しそうであった。
「伝えたい事があるんだけど⋯」
そういって婚約者の件を切り出した。




