思い出話
母の顔を見ていたら突然母がこちらを向いた。
「そんなに見られると気になるわ」
「なんで気づいたし⋯」
「視線には敏感なのよ⋯なんでかは覚えてないのだけど」
どうやら記憶が戻ったというのはすべてが戻った訳ではないようだ。
「記憶が全部戻った訳ではないんだな」
「ええ、あなたがアキラという名前であるのは事前の資料で知っていたけど、昔あなたを指導していたというのを身体が覚えていただけね⋯それ以上の記憶はないわ」
断片的というレベルではないレベルの記憶だったみたいだ。
「よくそれで息子って分かったな」
「子供を生んだ事があるのは知ってたから、そこからの予想を立ててって感じだけど違った?」
「いや、どうもそうだったみたい⋯うちのパーティメンバーが確認してくれた」
そこから少し沈黙が流れる。
「私の記憶が無くなってからだと10年以上か⋯実感はないのよね⋯」
「そこまで記憶が不完全で実感もなにもないんじゃない?」
「それもそうね⋯まぁ脳の海馬部分が傷ついて物理的に破損してるから戻らないのかもしれないわ」
そしてそこから色々と話をした。
本当は意識が戻ったら教えて欲しいと言われていたのだがそんな事を忘れて話し込んでしまった。
「そっか、私世界の歌姫だったのか」
「自分の写真位は見たことあったんじゃない?」
「あったけどそういうのは記憶になかったから、私の残ってる記憶は自身の身体で体験した記憶位なのよ⋯アキラっていうのも呼びなれた名前っていう覚えだけだったし」
恐らく身体が記憶していた話なれた言語、戦闘技術などの身体に関する記憶は残っているが思い出と呼ばれる記憶をすべて無くしている状態らしい。
「それにしてもかなり波乱に満ちた人生を生きてたんだね」
「各国の潜入任務とかは楽しかったわよ、こんな顔だったから化けるのは得意だったの」
と言って笑う。
やはり笑った姿には面影を感じる。
「まだまだ話足りないのだけど⋯そろそろ外にも伝えた方がいいんじゃない?」
「ああ、そっか⋯忘れてたよ」
名残惜しさを感じながらも沙月に連絡した。
「これから私はどうなるのかしら、悪いけど殺されるなら全力で抵抗するわよ」
「ないない、うちは基本的には殺さず主義だから幹部連中も全員生かして捕えてるはずだ」
「あら、そうだったの⋯じゃあ国王を殺っちゃったのはまずかったかしらね」
話を聞く限り殺し殺されの世界に生きていたみたいなのでそういう面では俺達とはかなり心持ちにズレがある。
いや、元々の性格からもそういう所はドライだった気がするので本質的な物な気がしてきた。
「まぁ本当は隷属させるつもりだったみたいだけど⋯まぁ悪い処遇にはならないと思う」
母の処遇に関しては沙月も悩んでいるようだったが、悪いようにはしないと言っていたので特に気にしていない。
「そう、まぁ正直抵抗しようにも息子にやられたダメージがでかすぎて動けないのだけどね」
「人の全力を全部受け止めといてよく言う⋯マジでこんなに強いのは反則だと思ったよ」
「かなりデメリットがあるスキルだからダメージを受けないように立ち回っていたのだけどね⋯まさか『未来予測』を上回れるとは思わなかったわ」
「ああ、あの先読みしてたスキルか⋯あれの突破には色々無茶したからこっちも全身筋肉痛で動けないんだからお相子様だよ⋯」
「それにしても格闘技の主体は何?主体は拳だったからボクシング?」
俺の動きだけで格闘技を当ててくるあたりさすがすぎる。
「さすがだねぇ⋯主体はボクシングで足技は軍隊格闘術を少々って感じ」
「実戦ならやっぱりジークンドーよ機会があったら教えてあげるわ」
「その時はお願いしようかな⋯昔は格闘技は教えてもらえなかったから」
「今、25ってことは私と分かれたのは16歳位でしょ?さすがに教えないわよ⋯まぁ柔軟とかそういう体操とかは教えてたみたいな記憶はあるけど」
この時に格闘技を教わっていればと思うことは実は何度かあった。
もし教わっていればあのときアイツを撃退出来たのではないか⋯。
しかし、幼少期に格闘技を学んでいればもしかしたら同学年の子供相手に使用していた危険性がある。
それを考えれば母の考えは正しい。
そこを責めるつもりはない。
そんな会話をしていると沙月達が入ってきた。
「目を覚ましたみたいで⋯初めまして、まずは自己紹介から⋯恐らく資料等で知ってるとは思いますが」
そういって沙月とカナタ⋯そしてサキの番なのだが⋯。
「ええ、ああ、ええっと仙道サキでででっす」
こんなサキは見たことがないほどに緊張していた。
母は大丈夫?といった顔を向けている。
全然大丈夫じゃない、俺含め沙月やカナタも少し引いていた。
「サキさんね、大丈夫よ⋯こちらから何かする気はないから落ち着いて」
「生声⋯はぅうう」
と母から声をかけられて緊張のあまり固まってしまった。
「ええっと彼女はあなたの大ファンだったらしくて⋯」
「あら、そうなの⋯ごめんなさい。正直記憶が戻って無くてまだ実感がないのよ」
という彼女の言葉に沙月がぴくりと反応した。
(身体が覚えてた記憶しか戻ってないそうだ、俺の名前を含め自身の出生等の記憶は皆無。俺が息子だっていうのも自身の状況から照らし合わせた予測だったそうだ)
と念話で耳打ちをする。
(了解です)
「混乱してる所で申し訳ないのですが⋯『王権』は今はどんな状態でしょうか?」
「ああ、えっと基本的に奪った状態をそのまま引き継ぐからレベルも能力もそして眷属たちもそのままよ」
完全に王位を簒奪した形になっている。
なんて怖い能力だ。
「なるほど⋯それを踏まえてなのですが提案があります。そのまま王になって頂けませんか?」
と沙月は母へと提案をした。
◯あとがき
少しずつ復旧してきた。
明日には元の更新ペースに戻せそうです。




