「 」
目が覚めると知らない天井…ではなく、よく見知ったホテルの天井だった。
「あら、目が覚めたようね」
ああ、気分は悪いが身体を起こす。
「カレンは…大丈夫だったか…?」
「あの娘なら大丈夫よ、『超回復』ですぐに治ってピンピンしていたわ」
「そうか…すぐに謝りに行く…」
不甲斐ない自分のせいで怪我させるなんて…という思いが湧き上がってくる。
「血を失った分、今から寝るから寝ててくださいだってよ」
とシトリーに言われて起こした身体を倒された。
「いや、でも」
「良い?本人は寝てるって言ってるの、女性の無防備な姿を見ようなんて10年早いわ」
「婚約者でそれだと困るだろ…」
とツッコミを入れつつ身体を起こすのを止めた。
「まさかあそこまで動揺しちゃうとはなぁ…」
「そう?割と周りも仕方ないみたいな反応してたわよ」
それはそれで…情けない。
「元々あなたは潜在的に女性に対して躊躇する傾向があるし…もし幻を見せなかったとしてもあなた殴れなかったんじゃない?」
令嬢の姿をしたレイスの事を言っているようだ。
「それは…」
「そうでも無ければあの状況で止まれないわよね」
普通であれば、あんな直前で幻を出されたとしても恐らく止まれず、攻撃をそのまま繰り出すかもしくは態勢を崩して外すかしか出来ない。
しかし、俺は攻撃を止めていた。
恐らく知らない内に攻撃自体をセーブしていた。
「模擬戦は大丈夫なんだが…」
「元々模擬戦は、手加減前提でしてるしアレじゃわからなかったでしょ」
確かに本気でやるとは言ってもそれはあくまでも建前で、相手に怪我をさせるつもりは無い。
たまに怪我をすることはあっても擦り傷程度だ。
「以前、結婚をかけてやった勝負…あれもあんた無意識に手加減してたわよ」
「いや、そんなことは?」
「ミレイに水壁を貼られた時にレールガンを撃たなかったのは?沙月の時もそう、本気で殴ってれば障壁も魔纏も破れてたわよね」
「どれも…もし相手に当たれば手加減が出来ないからでしょ?」
そう言われて無意識に手加減していた事を理解させられる。
「本気を出させないのも相手の戦略と言えばその通りなのだからあの娘達の勝利であることには変わらないのだけどね」
「あんたは、女性相手は本気を出せない。あの日和にビビって安全マージンを確保しようとしてるのもその裏返し」
シトリーに矢継ぎ早に図星を突かれて何も言い返す事が出来ない。
「安全マージン、つまり余裕があれば相手を傷つけずに制圧することが出来るって考えてるでしょ」
パーティの安全の為、それが建前にあるのは間違いないが、俺は無意識のうちに日和に対しても同じ事を考えてしまっている。
「そんな甘えた考えだと死ぬわよ、悪魔を舐めすぎ…それにもしあんたと同格、もしくはそれ以上の存在の女性が現れた場合…あなたあの娘達を守れるのかしら?」
それがシトリーから突きつけられた事実であり現実だった。
「まさにぐうの音も出ないって奴だな…」
「出てるじゃない」
「ハハ、どうするのが一番だと思う」
現状、無意識に行っている行為に対しての解決策は思いつかない。
意識したとして改善出来るかと言われればその自信もない。
自分の身体を完璧にコントロール出来る自信があるということは、裏返せば確実に手加減が出来るという事に他ならないからだ。
「どうしようも無くなったらワタクシが手を貸してあげる、でもそれはあなたの手でその女性を傷つける事になる…そこにあなたの意思が乗るという事…耐えられる?」
例え他者に任せたとして俺自身の判断でその決断をしたという事は、俺が傷つけたのと同義だ。
その行為に耐えられるのか…今回こんな状態になった俺がだ…。
「いや、無理だな。どんなに他者に責任を押し付けたとしても俺の責任に耐えられる自信がない…」
「ええ、きっとそうよね…だから甘い事は言わないわ。克服しなさい」
「やっぱりお前優しくないな」
「当然よ、ワタクシを誰だと思っているの」
「悪魔め…」
そう、綺麗事だけで生きていける世界であればそれが一番。
だけど、俺が身を置いている世界では甘えは死に直結する。
この問題を放置は出来ない。
「何から始めるべきかな」
「とりあえず今は、頭を休めなさい…ゆっくり眠るの」
そういってシトリーが頭を撫でる。
「優しいんだな」
「ワタクシを誰だと思ってるの」
「…悪魔め」
そこで俺は意識を手放した。
シトリーside
心の根幹に触れたからこそわかるアキラの弱さ。
そして触れたからこそわかるアキラの強さ。
どちらにも価値があり、それが今のアキラを作り出している。
弱さを捨てるのではなく受け入れる。
それがアキラにとって一番大切な事。
自覚させる為とはいえ似合わない事を言ったもんだと少し自嘲気味に笑う。
彼と共に生きている現状が、悪魔として生を受けた自分にとって最上の幸せだと思えているからかもしれない。
そしてアキラの唇に自身の唇を合わせた。
いつもなら警戒して起きるというのに余っ程心が擦り切っていたようね…。
あの短時間の接触だけでこの擦り切れよう…本当に克服出来るのか…それはわからない。
最悪の場合はワタクシが盾になる。
空虚だったワタクシの心を埋めた存在…。
その結果自分がどうなったとしても…そんな覚悟を抱かせるほどに彼を愛してしまっていた。




