ツバキside
色々と環境が代わり、昨日までの自分の生活とは完全に変わってしまい期待や不安というよりは困惑することが多い1日だった。
収容人数の関係で姉と2人でコンテナハウスで寝ることになったのだが…そもそもこんな大きな物をダンジョン内に持ち込むという発想が昨日までの私にはなかった。
探索時の荷物は最低限、無理をせず探索して危なくなったりしたらすぐに逃げる事…これが探索者としての鉄則だと教えられた。
そもそも無茶をして狩るのは良くない事であり自分のレベルより高い階層には絶対いかないというのが探索者としての常識である。
10階層までの敵はそこまで強くないのだが11階層から20階層は、基本的に自身のレベル引く3が適正階だと言われている。
20階層以降はさらに厳しくなり条件の合わない階層では狩らないという石橋を何度も叩いて数回渡って本当に大丈夫だったらそこで狩るというのが日本人探索者の基本だ。
だというのに18レベルで30層のボスであるグリフォンを狩るというのだから本当に驚いた。
実際に参加させてもらったのだがほぼ1人で完封してしまった彼には脱帽である。
一緒に見ていた沙月ちゃんからも
「あのレベルは求めてないので安心してくださいね」
あれで自分と同じレベルなのかと疑いを向けていたのだがやはり別格だったようだ。
グリフォンをまるでじゃれてくる猫をあやすかのように攻撃を躱しているのでグリフォンが一瞬猫に見えてしまった。
「あれが昔のお姉ちゃんの彼氏なの?」
「ブッ!!違うから彼氏じゃないから!」
吹き出しながら答えていた。
「そうなんだ、見た目も含めてスペックも高いしかなり超優良株だねぇ」
「婚約者4人いるから…」
「そこまで多いならなんとか食い込めたり?」
「婚約者の前で不穏な会話してますねぇ…」
と沙月ちゃんからツッコミが入った。
「実際、アキラさんに好意を寄せてる人は多いんですよね…立候補するなら止めませんけど隠れてはNGですよ」
と牽制をいれられていた。
「正直、今は恋愛感情よりも幼馴染の距離感でいたいので…」
と遠慮していた。
絶対好きだと思うんだけどなぁ…さっきも背負われてる時に乙女の顔していたし…。
ただあのメンツに食い込むにはまだまだ自信が足りないか。
現状トップクラスの知名度と人気を誇っている、日本のトップ探索者の4人のうちの3人が婚約者だと言うんだから尻込みする気持ちは分かる。
しかし、私のお姉ちゃんは私と同じ歳と言われてもおかしくないほどの童顔に加え欧州人もびっくりの綺麗な金髪、細身の体型でありながら胸は大きなEカップ。
4人と比べてもかなりイイ線いっている…というか私の中では最強だと思っている。
正直そこらの男だったら全力で妨害する。
なぜならお姉ちゃんは私の最推しなのだから!
しかし、あれほどのスペックを見せられると認めざるを得ない…そして何よりもここ数年ずっと私への罪悪感や日々蝕まれていく身体のせいでずっと暗い顔をしていたお姉ちゃんにあんな表情をさせられる男性なのだ。
それこそ昔の姿に戻ったのも彼の影響が大きいとこれまでのお姉ちゃんの態度から分かっていた。
恐らく、彼がいなければこの話自体も受けてはいなかった可能性が高いことも察していた。
なのでお姉ちゃんが好きだと言うのなら全力でサポートする所存である。
推しの幸せを願ってこそのファンだ。
そんな事を考えている間にとんでもない魔法がサキさんから放たれてグリフォンが綺麗に霧散していった。
昨日まで狩っていたマシーンタイプの魔物を倒すのに苦労していた私達からすると本当に次元が違っていた。
本当にあのレベルまで強くなれるのだろうか…。
今はいない相棒の事を思いながら今後が不安である。
ボス部屋から出て今度はフェンリルを狩るという…。
現在全世界でも討伐報告がされていないとんでもないモンスターである。
正直それをこのレベルで?と思っているのだが…。
本人達は至って真面目に狩る相談をしているので本当に狩れてしまいそうである。
今回は2人を連れて行くのはさすがに無理なのでお姉ちゃんだけ連れて行くそうだ。
正直危険なので反対したい気持ちもあったのだが、全身ミスリルの鎧に包まれてしかもミスリルの大盾を持つお姉ちゃんを見て突っ込める状況ではなかった。
結果的に言えば入ってから30分ほどで出てきたのだがお姉ちゃんは卵を抱えていた。
どうやら無事に成功したようだ。
誰一人怪我らしい怪我をしていない様子だったのでホッと胸を撫で下ろした。
待っている間にカレンさんと話をしたのだが…
「ああ、一応戸籍上は年上だけど私3年間眠ってたからまだ18のつもりだから!カレンって呼んで」
と言われ
「じゃあ一個下ですね!よろしく!」
と返した。
アイドル業界では年齢詐称に関してあまり珍しい事でもないので本人の希望を受け入れる事にした。
なんなら朝まで一緒にいた方はすでに3年ダンジョンに潜っているというのに19歳だと言い張っていた。
恐らく見た目から察するにお姉ちゃんより上…下手すると30手前位ではないかと睨んでいる。
しかしお姉ちゃんの幸せそうな笑顔を見てるとこちらまで気持ちが安らぐ…。
物心がついた頃には両親によく遊んでもらった記憶があった。
父も母も優しく怒られた記憶はほとんどなかった。
しかし、突然父がいなくなり、母もほとんど会えなくなった。
そんな私の面倒を見てくれていたのがお姉ちゃんだった。
正直それまでのお姉ちゃんの印象は家族ではあるが遊んでもらった記憶もなく私の大好きな父と母を奪うどちらかというと邪魔者だと感じていたように思う。
そう思っていた相手と一つ屋根の下、それこそ2LDKしかない部屋に2人きりにされ当時の私はずっと駄々をこねていた記憶がある。
どうして父はいないのか、どうして母は遊んでくれないのか…子供ながらに突然の環境の変化を受け入れられずにいた。
◯あとがき
1話でまとめるつもりが長くなってしまったので2話に分割します




