写実
呼び出された依頼内容が絵のモデルになってほしいと言われ困惑していると…。
「私のスキル『写実』に必要なことでして…」
「な、なるほど?」
彼女の話を詳しく聞くと。
『写実』
・自分で描いた対象を実体化出来る。
実体化したものは、描いた本人が把握している状態と同じ性能を持つ。
「聞く感じだととんでもないスキルに聞こえますけど」
「その通りで凄いスキルだけど使い勝手がね」
と西園寺さんが補足を入れてくる。
「このスキルで描いた実体化は私が把握してる能力しか描写できません…」
「それとスキル系に関してもダンジョン内ならともかく地上でほとんど使えないっていうのは一緒だ」
とのことだ。
「そうなると俺じゃなくても良さそうに聞こえますが…」
「それは…」
西園寺さんが言いにくそうにしているが…。
「私があなたじゃないと嫌とお願いしたので…」
とアリーナさんが俺の目を見ながら訴えてきた。
「こいつは昔から描きたいものしか書かない偏屈な性格な上…もし描かせてもらえないなら仕事をボイコットすると言われてな」
西園寺さんは何やら遠い目をしながら訴えてくる。
「という訳で頼む」
と頭を下げられた。
「別に構いませんが…」
俺に特にデメリットが無いようなので快く了承する。
それから2時間ほど動かずに描かれる事になった。
「本当にありがとうございます!」
とても感激しながらお礼を言われる。
額には俺の絵がしっかりと描かれておりちょっと気恥ずかしい。
「ところで実体化するところも見てもいいですか?」
「はい」
アリーナさんがそういって書いた絵にスキルを使用すると絵から俺自身が飛び出してきた。
「うぉ…なんかすごいな、これは勝手に動くんです?」
「ええ、基本的には私の指示通りに動きますよ」
というと勝手に動き出した。
「指示を出してないみたいですけど」
「ああ、脳内で指示を出すのでわざわざ言葉にはしなくて大丈夫なんです」
「ほぇ…なるほど」
「ところで気になっていたんですがこれは何に使うんです?」
「私が描きたかったっていうのが一番の理由ですよ」
「それは、なんかどうも…」
そうはっきり言われると気恥ずかしかった。
「後は、護衛としての能力も欲しかったので…能力に関しても大まかには知っているので再現がしやすいっていうのもありますね」
彼女は俺の戦闘スタイルを見ているのでそれでだろう。
「護衛として使ってもらうのはいいのですが顔は隠してくださいね…同じ顔の人間が2人いるのはややこしいですし」
「大丈夫です!しっかり用意してあります」
といって顔半分がすっぽり隠れるような仮面を出してきた。
しかしその仮面に見覚えがあった。
「それってもしかして…」
「ええ、気付きました?アランの敵役であるボンドのつけてる仮面です!」
と自慢される。
母の漫画に登場するアランの敵役として登場するボンドという工作員の仮面だった。
「それでこの黒スーツだった訳ですね…」
絵を描かれる前に着替えさせられたのは真っ黒な黒スーツだった。
この仮面とセットと考えると完全に漫画のボンドを再現するつもりだったようだ。
「私、あの漫画の大ファンでして!アキラさんに是非この格好をさせたかったのですよ」
「それなら最初から仮面をつけて描けばよかったのでは?」
「仮面は外せるからいいのですよ…描いてしまったら外せませんので」
と言われてどういうことだと思い手を伸ばすと服は来ているのに服の隙間が存在しないという奇妙な存在になっていた。
「なるほど、服とかは変更出来ないんですね」
「強力が故に色々と制約があるんですよ」
という訳で俺の分体はボンド(仮)として今後は護衛に就くようだ。
まぁアリーナさんがボンドの格好をさせたいと思った気持ちは理解出来てしまった。
なぜならボンドのモデルは母(聖歌)だからだ。
しかしここまでそっくりだと試したくなってきた…。
「ちょっと戦闘して試してみても?」
「実戦ですね!こちらも性能が見たいので是非」
そういって訓練場に移動する。
「破壊しても数時間で復活出来るので遠慮なくやってください」
「そういうことなら遠慮なく」
ボンドと相対していると母と対峙している気分になる。
未だに勝てる気がしない母と重ねて本気で相手をする。
一気に踏み込んでからの裏拳からの膝蹴りを軽くいなされる。
どうやらロシアで兵隊たちを小一時間弄んでいたのを見ていたのだろう俺の受け流しの技術を完璧に再現していた。
以前ミレイに俺の分身を出してもらい対峙したがあれは性能が同じでも操作しているのがミレイの為、俺と同じ動きは出来るけど俺と同じ事はできないという状態だった。
しかし、眼の前にいるボンドは俺と同じように思考して俺と同じように行動いしているように見える。
「これってアリーナさんが細かく指示を出してるんですか?」
「いいえ、戦ってという指示を出しているだけよ」
「それでこの動きが出来るのは凄いですね」
喋りながらも距離を詰めて攻撃を仕掛けるもいなされてしまう。
これは凄い能力だ。
そこでロシアでは使っていない技術を使用する。
踏み込みからの身体全体を使った体当たりをぶちかます。
しかし、それも衝撃を受け流されてしまい背後に飛ばれただけであった。
知らない技術でも受け流せるという事は俺の記憶を再現してるという訳ではなくアリーナさんの中の俺はこの攻撃を受け流せると認知しているということだ。
ただ、これで種が割れた。
「次はそっちから仕掛けてきてもいいですよ」
「わかりました」
アリーナさんの声に反応してボンドは俺へと突っ込んでくる。
先程使った俺の技をやり返してくるがそこに受け流すのではなく踏み込んだ足に蹴りを叩き込む。
バランスを崩した事で威力は削がれ態勢も崩れる。
拳を突き出し反撃を試みたようだがそんな攻撃は躱してこちらの拳を顎に叩き込もうとした所で俺は攻撃を止めた。
「これで充分です」
「やはり気付いてしまいましたか…」
防御面での性能は確かに高いのだが攻撃面がおざなりなのは彼女が俺の攻撃スタイルを理解してないのが原因だ。
なので先程俺がした動きを模倣させた攻撃をしてきた訳だ。
「これって最強の人とか想像して描いてもその強さにならないんですか?」
「無理ですね、あくまでも私は実物として描く必要があるので想像で描いたものには中身が伴いませんので」
「なるほど、あくまでも実体がありその性能もアリーナさんが把握している強さしか再現出来ないと…」
「そうです。なので私が表面的に写し取った写し絵のようなモノです」
非常に強力な能力故に色々と使い勝手は悪いようだ。
「ただ、私が把握した性能で能力は上書きしていけるので先程の攻撃パターンはもう使用出来ますよ」
「そういうことなら攻撃バリエーションを増やしましょうか」
と小一時間ほど模擬戦を行った所でアリーナさんに呼び出しが入ったのだが…。
「いま良い所なのでと断ったと思ったらアリスが拉致しにきていた」
ボンドはそれを護衛しようとしていたが…。
「もし邪魔するようなら業務量を倍に増やしますよ」
と言われてアリーナさんはシュンっとしながら戻っていった。
俺としては自身と戦うという貴重な経験が出来たので満足していた。
そしてふとスマホを見ると沙月から連絡が入っていたので合流することにした。




