スミレSIDE
私とアキラ達が残された部屋で私はすでに覚悟を決めていた。
どうしてだろうか、アキラがいるというだけで少し心が軽くなっていた。
もう二度と会うことはないと思っていたのだがこんな縁でまた会えた事は本当に嬉しかった。
今回、ツバキが渋っていたのには私の事情が関係している。
本来であれば私が盾になって妹の身の安全を確保するのが普通かもしれないが…私にはある事情から探索者としては重大な欠点がある。
ここまでレベルを上げれたのも妹にくっついて一緒に経験値を貰っていたに過ぎない。
それでも探索者をやめられなかったのには理由がある。
それは私の体質に関係がある。
「まず私の体質から説明させて頂きます…私は[ダンジョン症候群]という病を患っています」
ダンジョン症候群…この世界にダンジョンが現れてから発見された病気の総称。
現代医学では治療方法が確立していない物も多く未だに治療不可の難病とされている物が多い。
魔力欠乏症などの魔力関連の症状やダンジョンで定期的に経験値を取得しないといけない症状も存在する。
私の症状は後者である。
「私は、定期的にダンジョンに入って経験値を取得しなければ徐々に衰弱していきます…妹がアイドルをする上で魔石を集めるノルマがある事務所に入ったのもその為です」
一般的なアイドル事務所では、怪我などの危険性を考慮して探索を禁止している事務所がほとんどである。
まぁ地下アイドルが所属する事務所では普通に横行している制度ではあるのだが…。
下手なトレーニングを繰り返すよりもダンジョンによるレベルアップの方が手っ取り早いからという理由も大きい。
「スミレ自身がレベルを上げなければいけないっていうならツバキには関係ないんじゃないか?」
「それには、もう一つの私の重大な欠陥…私はモンスターを倒せないんです…」
「は?」
アキラ達は驚きの表情を浮かべていた。
探索者だというのにモンスターを倒す事が出来ない。
これがどれほどの欠陥か…分かっているつもりである。
ダンジョン災害で倒壊した建物に7日間取り残され、その間に消えてく命を見すぎた…助けても溢れていく命、瓦礫の下から聞こえる声が段々しなくなる空間…そして徐々に弱っていき最後まで私達の心配をしながら旅立っていって母親の存在。
何かの命を奪おうとする際にはその光景がフラッシュバックしてしまい身体が固まってしまう。
病院にいって治療をしてみたが改善の兆候はなかった。
人によっては甘いと言われるかもしれない…それでも私はモンスターを倒す事が出来なかった。
どうしても最期の母の顔が離れなかった。
私は事情を説明した。
そして会議室は静寂に包まれた。
「こんな欠陥を抱えているというのに[ダンジョン症候群]に罹ってしまい妹には本当に迷惑をかけています…今回妹がスタッフに誘ってくれたのもダンジョンで一緒に活動できるからです」
元々やっていた理容師の仕事もダンジョン症候群のせいで普通に働くのは難しくなっていた。
衰弱を緩和する為には1日潜ってモンスターを狩っても2日ほどしかもたない固定パーティを組むにも私が足を引っ張り結局2人で狩りをするしかなかった。
「それでは、今まで一度もモンスターを倒した事はないのですか?」
沙月と名乗っていた彼女が質問してきた。
「はい…一度も倒せていません」
「本当にですか!?」
念押しされる。
「妹と一緒に狩りをしていましたが基本的に妹が倒して私は盾をもって防御したり荷物持ちをしていましたので私の手で倒したモンスターは一匹もいません」
「それはなんて行幸ですか!条件を見た時は大変なのを覚悟してましたが…これは是が非でも一緒にやりましょう!」
「は?」
今度はこちらが声を出して驚いてしまった。
こんな状況の私を彼女は一緒にやろうといってくれたのだ。
本当に信じられない事だった。
「何を言ってるの?こんな私をつれてくメリットなんてないでしょ?」
「話を聞く限りは別に探索者をすることには問題はないと思われますが違いますか?」
「それはそうだけど…」
「なら別に問題ありませんよ、それにあなたの固有スキルは『テイマー』ですあなた自身が戦う必要もないじゃないですか」
「そういう訳には…それに私には妹みたいにテイムしたモンスターはいない」
「そうですね…じゃあテイムしてしまえばいいんですよ。あなたの代わりに戦ってくれるモンスターを、そうすれば病気も問題ありませんよね」
確かに代わりに戦ってくれるモンスターがいれば私は1人で経験値を稼ぐ事も可能になる。
もし本当にテイムが出来れば願ったり叶ったりの状況にはなるが…。
「そうまでして私を抱えるメリットを教えて!やっぱり妹だったら…」
「ああ、違います違います。本来の目的はあなたです。妹さんは言い方は悪いですがあなたを取り込む為に勧誘しました。もちろん先程説明した内容に嘘はないのでお仕事はしてもらいますが」
「私?」
当初妹と話していた内容とは予想が大きく違っていた。
モンスターをテイムした妹を取り込み、私には探索者として働かせるつもりなのだと…そう考えていた。
だからこそ妹は私の代わりに探索者をするから私の免除を申し出たのだ。
私の病気の為に一緒にダンジョンに潜る必要はあるが、モンスターを倒せない私が危険に晒されないようにする為だった。
「まだ受け入れてないみたいだが、俺達はお前達姉妹を悪いようにするつもりがないことを言っておくぞ、今回の措置もこちらの思惑も絡むが保護が目的みたいな所あるしな」
「でも…」
「別にモンスターをテイムした後は、妹について一緒にアイドル活動でもすればいいんじゃないか?」
「私がアイドルなんかできるわけ…」
「そうか?妹に似て可愛いと思うがな、案外事務所もそのつもりなんじゃないのか」
「はぁ!?可愛い…なにいってんの!」
「アキラさん!婚約者の前で女の子を口説くなんてどういう事ですか!?」
「そうです、そうです!不潔です!」
「浮気…」
「不純です…」
と沙月と呼ばれた彼女の言葉に続いて他の女性達も各々に続く。
その中に聞き捨てならない言葉が混じっていた。
「ねぇアキラ…あんたもしかして全員と婚約してんの?」
話の流れからそんな空気を感じ取っていた。
「ああ、全員俺の婚約者だ」
アキラのその言葉で全員が黙り顔を赤くしていた。
「昔からモテてたけど…この女たらし!」
「ぐうの音も出ない事をいってくれるな…」
気まずそうな顔を浮かべているが昔、私を殴った後に浮かべていた困り顔を思い出し少し笑えてきた。
「なんか気を張ってるのが馬鹿らしくなってきた。いいわ、妹に何かあったら承知しない!何かあったらあなたが責任もちなさいアキラ」
「わーったよ、お前含めて面倒みてやるよ」
「それは一体どういう意味です!?」
とさらにツッコミが入り場はカオスになってきたが私は数年ぶりに心の底から笑っていた。




