要望
すでに沙月の中では色々と策を巡らせ引き込む事にかなり前向きな姿勢を取っているが…。
沙月の考えも分かるが、パーティメンバーを続ける事かなりのメリットに繋がっている今までのメンバーとは違い彼女達は、探索者をやる必要がない。
妹の方は、アイドルとして活動するというのであればわざわざ探索者を続ける必要はない土壌は揃っている。
姉の方に関しても今回の賠償やらなんやらが片付けば理容師として生活するのは問題ないはずだ。
やむを得ない理由を持って探索者になる訳では無い。
テイムによる拉致監禁についてもそれは最悪の結末なだけでもっといえば誰か他にも完全テイムを達成させてしまえばその希少性はかなり薄れる。
もっといえば政府関係者でテイマースキルを持つ人にその役目を取らせても良い。
どうしてもその考えが先行し乗り気にはなれなかった。
姉妹の結論次第ではこちらから反対意見を出す事も考慮していた。
部屋に戻ると2人はすでに結論を出していたようで覚悟を決めたような表情をしていた。
「おまたせしました。そちらもどうやら決まったみたいですね」
沙月がそう声をかけながら全員が席に着く。
「一つだけ要望を聞いてもらえませんか?」
姉の方から話をするかと思っていたが話の切り出しは妹の方からだった。
「こちらで応えられる要望であれば」
最近、こういった交渉事をしていると思うのだが沙月が出会った頃の辿々しさというか幼さが消え歴戦の交渉人のようになっている…。
恐らく国からの要望やらなんやらで相手をしてる内にこうなったと思っているが…凄いと素直に関心してしまう。
「私が姉の分も働くので姉は探索者を免除して頂く事はできませんか?」
妹の提案はこちらが想定していた事とはかなり違っていた。
冷静を装っているが沙月も驚いているようだ。
「理由を伺っても?」
「そちらでアイドル活動を続けても良いというのは私にとっては願ってもない話ですし特に問題はありません…ただ姉は別です。今回の事も賠償責任さえ果たしてしまえば姉は危険な探索者を続ける必要がないからです」
妹の言うことも尤もだ。
妹の方は今回のテイムの事もあり今の事務所に所属していくという事であれば今後も色々と制限がかかるのは間違いない。
そこを退所してこちらに来るのはかなりのメリットがある。
すでに探索者として活動はしている以上、レベル上げ等に関しても許容範囲なのだろう。
しかし、俺が考えてた通り姉の方に関しては、すでに理容師として手に職をつけておりわざわざ探索者をする理由はない。
確かに賠償問題という問題は抱える可能性はあるが、お金で解決可能ということであれば解決するのは然程難しくはない。
命をかけて探索者をする必要はない。
「理由を伺っても?」
沙月が質問を投げかける。
「今回の件は元を辿れば私の問題ですし、それに姉を巻き込みたくないんです」
ツバキは、はっきりと答える。
先日救助の際にはおどおどした印象を受けたが根はしっかりした子のようだ。
しかし、妹とは違い姉の方は段々俯きがちになっている。
その様子を見るにスミレの望んだ結果とは言えないようだが…。
「なるほど…」
沙月としても出資するにしてもある程度のリターン見込みがあってのこと、恐らく妹を抱えて得られるメリットでは出資に見合わない。
お金に関しては特に問題にはならないが、すでにかなりの人間にバレてしまっているテイムモンスターの存在を抱えて秘匿するデメリットに加えて姉を保護する労力も追加される。
なんせ妹だけ引き取って、ではさようならとはならない。
姉がどこで仕事するにしてもそれを守る必要もでてくる。
さらに言えば親類親族のことも考えればメリットよりもデメリットが大きくなりすぎてしまう。
まぁそれでも沙月は、そんな損得勘定で切り捨てる人間ではないので抱え込むと思うが…その負担はそのまま沙月にのしかかるので俺としても負担は軽くしてやりたかった。
ここは俺が悪者になるか…。
「君のテイム能力についてはすでにかなりの人間が知っている…特に芸能関係の会社ということはこの事実を一生伏せるというのは恐らくというか絶対に無理だ」
「はい…」
「つまり君の価値は非常に高い…そうなるともし君が事務所を離れたとしても悪い事を企む人間はでてくる、それこそご家族に迷惑がかかることも考慮しなければいけない」
「えっ!?」
「彼女が2人ともうちに来ないかと誘ったのにはそういう事情もある。ここで君だけを迎えたとしてもそれで解決とはならない事を考えなければいけない」
口を噛み締め俯くツバキ…どうやらそこまで考えは回っていなかったようだ。
「それにお姉さんにそんな顔をさせるもんでもないと思うぞ」
「えっ…」
そういってツバキはスミレの顔を見る。
「バレてたみたいね…正直気持ちは嬉しいけど妹を犠牲にすべてほっぽり出すなんて無理…私もお世話になってもいいでしょうか?」
沙月に問いかける。
「でも、お姉ちゃんは…」
「うーん。まぁなんとかなるでしょ。せっかくまた繋がった縁もあることだし悪いようにはしないんでしょう?」
と今度は俺の顔を見る。
何やら複雑な事情が存在しそうだが、まぁこれも乗りかかった船という奴だ。
最後まで付き合わないと夢見も悪くなりそうだ。
「勧誘にあたって私の事情をご説明します…正直私はある問題を抱えているので探索者になるにあたって問題があると思います…その事情を知ってから話を進めるという事でもよろしいでしょうか?」
「わかりました、それでも大丈夫です」
パンッという音を西園寺さんが手をたたき鳴らす。
「長くなりそうだし、こっちもあなたの関係者に説明する必要もある…それにプロモーションの撮影もまだ残ってる。それについては最後までやりきる必要があるのでしょう?」
「はい、辞めるにしてもこの仕事はやり遂げないといけません」
「代わりの人員の補充が終わったみたいだし早速ダンジョンに潜るようだからすぐに向かったほうが良いわ…あなた達は話があるならこの部屋は使ってもらって構わないからごゆっくり」
ツバキはすぐにでもダンジョンに向かう必要があるようなのでここで退席となった。
西園寺さんがツバキを連れ立って部屋を後にした。
「それでは、ご説明させて頂きます…」
そういってスミレは重い口を開いた。




