文化祭編 その2
女王様役をするのは?
11話です
「わ、私……?」
いきなり名指しされて、あたふたと戸惑う萌。
「藍ちゃんはお芝居がとても上手だから、双子の萌ちゃんも上手いかもよ?」
「……! そういえば向こうでいる時、劇団で少し芝居を習っていたんだろ?」
「……!」
「あっ、それならじゃあイケるんじゃない??」
「わ……私……は……」
そうして徐々にクラスの中で『白雪姫』の女王様役が萌になる空気になっている時であった。
「駄目よ。私は反対よ!」
仁王立ちの状態で、威圧感ある声でただ一人反対す女子の姿があった。藍だった。
「藍……」
「だって萌が芝居していたのっていつの話よ!?」
「……」
「しかし芝居をしたことない子より、多少なりとも芝居をかじっているんだから、幾分良いと思うんだが……」
「子役の頃の芝居とは訳が違う。それは貴方が一番よく分かっているはずだわ」
「……それはー、そうだが……」
「……」
「それにこの子引っ込み思案だから、そもそも人前で、しかも知ってる人達に芝居を見せるなんて、どだい無理な話よ」
「……」
「だからね、悪いけど萌には荷が重すぎるわ」
確かに藍の言っていることは正論そのものだった。とはいえ他に女王役が務まる生徒がいるかどうか、と優大はいたく悩まされた。
「……しかしこのクラスの中で他に適任者が……」
そう弱々しく言っていると、彼の隣から小さいながらも腹の底からしっかりと声を出す女子の姿があった。
「……私……やるわ!」
「……え、萌……?」
「!?」
萌は力強い眼力で藍の方を見る。それは芝居を改めてするという確固たる決意の元の眼差しだった。
「…………やる!」
「萌、助か……」
「ちょっと待ちなさい……!」
萌に芝居をさせまいと制止する藍の大声がクラス中に響き渡る。そして指を指しながら萌に近づく。
「あんたが思っているほど年数の差は大きいわよ」
「……分かってる」
「もうあの頃の芝居とは違っているわ!」
「知ってる。いつも近くで見ていたから……」
「だから貴女にはハードルが高……」
「まぁ、落ち着けって藍。一度萌に演じてみてから決めるのも遅くないだろ、な?」
「…………」
そして萌に女王役を演じてもらった。そしたら多少粗いところはあるにはあるが、文化祭までの残りの日にちでなんとかなるかもしれなかった。
「おし、白雪姫のライバル役は『上城萌』……だ!」
こうして文化祭に行うクラス劇の全員の役柄が決まったのであった。それから数日が経ち、徐々に演技の勘を取り戻してきたのか、萌の女王様役が様になってきた。藍が扮する白雪姫との掛け合いが対応出来るまでになっていた。
(おしおし、これなら本番に間に合うぞー!)
萌含むクラスの子達の演技を見て自信が溢れる優大なのである。
「ふあー……」
だしものの練習が終わり、みんなと解散した後に優大は一人トイレに行き、一息つく。そして疲れをいやしながら、のんびり歩いてクラスに戻ると、まだ芝居の練習をしている萌の姿があった。
「萌、まだ練習しているのか」
「……うん。……だってまだ役の形が出来てないから」
「そうかな? 文化祭レベルなら、もう十分だと思うが……?」
「だって姉さんが凄いから……。そこに追いつくには人一倍以上の練習をしないと……」
彼女なりに演劇の本番が上手くいくかやっぱり不安なんだなと優大なりに思った。
「とりあえず今日の納得する演技が出来るまで付き合うよ」
「うん……、ありがとう……」
そして萌の芝居を優大は温かく見守るのだった。
◇◇◇
来るべき文化祭当日。学校の生徒達ががやがやと賑わいでいる。クラスでは男女別れて、それぞれ役の衣裳に着替える。そしたら女子の更衣場所から賛美の声が聞こえる。
「萌ちゃん、凄く綺麗」
「わー、ほんと綺麗ー!」
着替え終えた生徒達が一人一人出てくると、別格の美しさが際立つ二人の姿があった。藍が綺麗なのは勿論なのだが、萌を知ってからこれまで見たことがない綺麗な姿に優大は目を奪われるのだった。
体育館で2-3の演劇がそろそろ始まる時、出演者達は緊張の渦の中にいた。
「わー、緊張するね~」
「本当、ちょーやばい……」
そう皆が喋りあう中、萌は一人静かに佇んで、床に何かを書いている。
「何してるんだ?」
「ん……緊張を無くすおまじない」
「緊張してるのか?」
「……うん」
「そういう時はな、楽しかった時の思い出を思い出せ」
「……! ふふ、そうねっ」
「ありがとうございましたー。次は2-3のだしものになります」
「あ、終わった……」
「よし萌、頑張れ」
そして優大は萌を励ます。そしてぞろぞろと前のクラスの生徒達が舞台裏に戻ってきたので、藍が自分のクラスの生徒達に掛け声を上げる。
「おし皆やるわよー! 2-3ー、やってやるぞー、おー!」
「おー!」
彼女の掛け声とともに皆が一丸となった。萌が優大に振り向いて言う。
「私のこと……見ててね」
「あぁ」
そしてぞろぞろと出演者が舞台に上がり芝居が始まる。劇が進行していき次に女王様役の萌が壇上に出てくると、観客席から歓声が広がる。
「綺麗ー」
「あの娘だれ?」
『おー、鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?』
萌の魅力的だが異彩を放つその別次元の演技に優大はその時フラッシュバックのようにある記憶が蘇る。
そうそれは初めて芝居に感動した時の初恋の子の演技だった。その演技が今の萌の演技と重なっていく。
(萌………?)
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