13・14冊目『鹿の王』(上・下)上橋菜穂子(偕成社)
〇あらすじ
【第一章 生き残った者】
岩塩を採掘する鉱山で奴隷として働かされていた主人公・ヴァン。ある日、仕事を終えた奴隷たちが入れられる房に黒い獣が現れ、奴隷たちを襲った。
ヴァンも獣に噛まれて傷を負い、同様にケガをした者たちは次々に謎の熱病によって命を落とした。
八日目の晩。ヴァンは高熱に浮かされて悪夢を見る。そして、夜が明けると衝撃的な光景を目の当たりにする。
奴隷も、見張りも奴隷監督も、炊事場の女たちも皆死に絶えていた。
その光景を目にしたヴァンは、もう一人、竈の中に隠されて生き延びた幼い女の子を連れて鉱山から逃げ出すことを決めた。
その道中で足を怪我した青年・トマを助け、彼に頼まれて彼らの住む集落で働くこととなる。
【第二章 恐ろしき伝説の病】
場面は変わり、もう一人の主人公である天才的な医術師ホッサルの視点に移る。
ホッサルは大量死が起きた岩塩鉱に視察に向かう。
死体の見分をしたホッサルは彼らの死因を黒狼熱ではないかと予測した。
その後、ホッサルは繋がれていた奴隷の一人であるヴァンだけが生き延びて逃亡したことを知り、生存の秘密を知るために女狩人のサエと従者のマコウカンを追っ手として送り出す。
的確にヴァンの痕跡を追っていたサエたちであったが、山道を進んでいる最中に獣の群れに襲われた。サエは弓で、マコウカンは剣で獣たちと戦ったが、獣に襲われたサエは崖道を踏み外し川へ落ちてしまう。
【第三章 トナカイの郷で】
トマの故郷へ辿り着いたヴァンは幼い女の子にユナという名を与えていた。
ユナと二人、トマの故郷に身を寄せたヴァンは彼らに飛鹿の育て方を教えながら共生する。
以降、黒狼熱に感染してから身体に変化が起きたことを感じつつ様々な人と出会っていくヴァンと、黒狼熱の正体とその治療法を求めるホッサルの視点を交互に繋ぎながら物語は展開していきます。
高い致死率を誇りながら、東乎瑠に征服されたアカファの人間は高確率で生還するという黒狼熱。
その特性から「アカファの呪い」とも噂されるのですが、その正体は。そして治療法は見つかるのか。
続きは書籍をお楽しみください。
〇感想
私の好きな「守り人」シリーズの作者さんが本屋大賞を獲ったという話は聞いていて、ずっと気になっていた作品でした。
が、なかなな読書に掛ける時間を取ることができず先送りに。
今年の春先ごろ? にアニメ映画にもなっていたんですよね。そんな気になって気になって仕方のなかった作品にようやく手を伸ばすことができました。
最初はやはりハイファンタジーということで世界観を掴むまで没入しにくい感じがあるのですが、過去の作品である「守り人」シリーズや「獣の奏者」に通じる部分を見付けると自然とページをめくる手が進みました。
戦闘シーンの美しさは守り人を、医術の描写は獣の奏者を彷彿とさせますね。
そこに加えて様々な地域の人間たちの思惑が絡み合う。とても複雑なお話でした。
同じ家系の人名が似通っていたり、カタカナ名が多いせいで誰が誰だかピンと来ないのがハイファンタジーあるあるな悩みだなぁと思ったり。
あとは地図ですね。地図がないから読みながらヴァンたちが今どの辺りにいて、ホッサルたちはどこにいて、とかの距離感がいまいちピンと来ずにいました。
双方の会話から「そろそろ近いところにいるのかも……?」と思ったくらいで。
そして、一番強く感じたのが「もしや今大流行しているあの病気を予見していたの……?」ということでした。
未知の病気の発生から、その治療薬の開発を急ぐホッサルの姿が今まさに世界中の製薬会社さんとか研究者さんがやっていることなのでは? と思わされるのです。
現代を生きる我々にとってそのプロセスは確立されていますが、ホッサルたちが生きる世界では製薬は最先端の技術でまだわからないことだらけという違いこそありますけれどね。
テーマ的にも身近に感じられましたし、テレビでさんざん解説を聞いていたので作中でなされる説明も(呼称としては別の造語が付けられて今すが)「あぁ、あれのことかぁ~」と頭の中で整理しながら読み進められました。
上下巻合わせて1100ページ超えという大ボリュームでありながら、児童文学作家さんの文章なので気が付くと100ページがあっという間に終わっています。
物語の世界に没入したい方、お手に取ってみてください。




