13、女王の眠れない夜
明日の婚儀に備えて、伯爵邸の者達は早々に眠りに就いているようだ。
静まり返った屋敷を、白いうさぎの人形が闊歩していた。
見回り中の使用人を遣り過ごし、裏庭に出て地下室へ――
仲良く遊ぶ天井の住人達を横目に、フランチェスカはサラの体を引っ張り出す。
細かい作業が出来て、ローズと面識の無さそうな体が必要だった。
(暫く寝かせておいたから、少し体が硬いわね……まあ、婚儀が終わったら始末しちゃいましょ)
うさぎを抱えて井戸を出る。
目指すは、婚儀のドレスが保管されている場所。
その部屋の鍵は、執事と家政婦長だけが所有している為、誰かが入る可能性はほぼ無い。
サラの体を隠しておき、再びうさぎの姿になってローズの部屋を訪ねる。
(白いうさぎに誘われて夢の世界へ……何て素敵なお話かしら)
ヘンリー・スマラクトの贈り物が、役に立つとは思いもしなかった。
部屋の外でローズを呼び、小さく手を振って見せると、彼女は疑いもせずに付いて来る。
先程の部屋に戻り、サラの体でローズの支度をすませて――可愛い花嫁さんの出来上がり。
(適当に着せたから、ちょっと見栄えは悪いけど……まあ、こんな物でしょう)
裏庭で薬を混ぜた酒を飲ませれば、ローズはすぐさま昏倒した。
(さあ、やる事は残っているのよ……ああ忙しい。今度は二人に分裂する魔術とか欲しいわね)
うさぎの姿に戻り、今度はエリザベスの部屋へ。
寝台に横たわる彼女へ近付くと体を交換した。
適当な袋に押し込んでいる時に、彼女は目を覚ましたらしい。
もぞもぞと暴れ出す袋にシーツを被せ、寝台の下に押し込んだ。
(エリザベス、貴女は悪い夢を見ているだけよ。ゆっくりお休みなさい)
倉庫でローズの体をシーツで包んでいる時に、ヘンリー・スマラクトが姿を現した。
周囲の様子を窺いながら近付くヘンリーの手を取り、フランチェスカは倉庫へ誘った。
自分が出した手紙を預かり、ローズと同様に酒を振る舞う。
彼も勧められるままに飲み干し、譫言を呟きながら昏倒した。
(さあ、後は二人を……)
フランチェスカはローズとヘンリーの体を倉庫に並べた。
『手の位置はここで……』『服を少し脱がせた方が、“それっぽい”かしら』と試行し――
(……まあ、なんてはしたないのかしら)
あられも無い格好で折り重なる男女――目の前の光景に、思わず頬に手を当てた。
倉庫に鍵を掛けて、フランチェスカは満面の笑みを浮かべる。
中の二人は、婚儀の時間になっても起きないだろう。
騒ぎが大きくなる前に、家政婦長が『偶然』二人を発見する。
両家は隠蔽を図りつつも、伯爵側は婚姻の破棄を求める筈。
そこで、優しいエリザベスはこう言うのだ。
「私は大丈夫ですわ。ヘンリー様と結婚致します」
当分はお飾りの妻として存在してあげてもいい。
それも、ほんの少しだが。
適当な移り先を見つければ、エリザベスの体など放棄する。
ヘンリー・スマラクトは、愛する女性に誤解されたまま先立たれるのだ――なんて、不幸なのだろう。
後は、エリザベスに体を返して、サラの体を地下室に戻すだけ。
(……疲れちゃったわ)
フランチェスカは今日の仕事を終えた気分だが、家政婦長としての仕事はこれから。
(お片付けも必要だし……あーあ、面倒だわぁ)
夜が明ける前に全て終わらせないと――
振り返った時に、ふと、何かが視界に映った。
屋敷へと歩きながら、横目で井戸を確認する。
(誰か、いるのかしら……?)
ふと、悪い予感がしたので、サラの体は家政婦長の部屋へ隠しておいた。




