7、女王は運命を導く
金茶の髪の青年は、此方の存在に気付いて口を開く。
「やあ、ヘンリー。君からも言ってくれよ。折角だから、皆でダンスでも……と思ったのだけど、兄さんが参加したがらなくてさ」
彼が見た方角には、楽器を持った一団の姿。
「殿下……」
ヘンリーの表情を見る限り、あれはスマラクト家が手配したものではないのだろう。
殿下と呼ばれる彼は、おそらく、ケヴィン・シュヴァルツェ・ペルレ――この国の王太子にして、現国王の第二子。
国王夫妻とは似ない金髪碧眼の第一子が養子に出された今、世継ぎと見なされている存在だ。
その王太子が背を叩いている青年が、ライアン・ザフィーア公爵なのだろう。
亡きザフィーア公爵の跡を継いだ、国王夫妻の第一子。
「兄さんはあまり社交界に出ないからさ」
「私がこのような場にいては迷惑でしょうし……」
茫洋と、ゆったりとした口調で話す公爵。
眉尻を落とし、気弱な表情を見せる――ふと、瞳が不快そうな光を帯びたように見えたのは偶然か。
(『出ない』じゃなくて、『出さない』のでしょうに)
フランチェスカの処断後、金髪碧眼の存在は王家から疎まれたようだ。
その習慣は今でも残り、“フランチェスカの再来”と呼ばれるライアンは、産まれた時から畏怖を持って迎えられた。
その時の王宮の騒ぎは、フランチェスカも知っている。
若くして養子に出された事実を鑑みるに、国王としては彼の存在を非公式なものにしたいのだろう。
(それを、この弟が何も考えずに善人振っている感じかしらね)
周囲の困惑している表情が見えないのかと、フランチェスカは呆れてしまう。
特に、同伴者がいない年頃の娘達は、今にも泣き出しそうだ。
(これをきっかけに……とか婚約を勧められちゃ困るものねぇ)
この輪から離れている年長者達の様子を窺うと、悩んでいる素振りを見せる者やそっぽを向いている者など様々。
(誰もこの王子様を止められないのね)
フランチェスカは内心嘆息する。
自分が女王の頃には、社交の場でこんな愚行をする男などいなかった――全く、嘆かわしい。
フランチェスカは、隣でぽかんと口を開けている妹の手を取った。
「ローズ。貴女、ダンスは得意かしら?」
「え、お姉様……ごめんなさい、私、あまり上手じゃなくて……」
項垂れる義妹の頭を撫でると、彼女をそっと、婚約者の前へ。
「……ヘンリー様、妹にご教授いただけませんか?」
「え? あ、ああ……」
フランチェスカの意図を察したらしく、彼はローズの手を取った。
フランチェスカはライアン・ザフィーア公爵の前へ。
この体は主催者の身内。
この場を納める義務がある。
それに、婚約者と踊るより、この美しく憐れな末裔を助ける方が、面白そうだった。
(貴方が少しでもお利口なら、どうするべきか分かるわね?)
ザフィーア公爵と目が合う。
「……よろしいのですか?」
公爵が恐る恐る差し出した手を、フランチェスカは優しく握った。




