6、寛大な女王
不本意ではあるが、支度をされたのでは行くしかない。
別館を出て本館の正面玄関に行けば、義妹の姿が見えた。
各所をリボンで結んだ桃色のドレスを着た彼女は、さらに幼い印象を与えている。
「お姉さま、とっても素敵」
「ありがとう」
「早く行きましょう!」
義妹に手を引かれて馬車に乗り、スマラクト公爵の邸宅へと向かう。
道中、義妹はずっと喋り通しだった。
(本当にうるさいわねぇ……)
これまでの振る舞いを見るに、令嬢として碌な教育を受けていないのだろう。
ただ、身なりを整えて物を与えているだけの存在にしか見えなかった。
(おそらくは、後継ぎとなる男児を産むために再婚したから、娘は適当に扱っている感じかしら……まあ、馬鹿な子も可愛いっていう気持ちは分からなくもないけど……)
スマラクト公爵家の門前で、婚約者は待ち構えていた。
「わぁ、ヘンリー様のお屋敷ってうちより大きい」
我先にと馬車を飛び出す義妹を降ろしてから、婚約者は此方を見る。
「え……エリザベス……」
暫し見つめた後、彼は目を逸らす。
「今日は……随分、雰囲気が違うんだな……綺麗だ」
化粧を施した顔や、露わになった鎖骨辺りを横目で見ながら、おずおずと手を差し出してきた。
(あら、おこがましい……まあ、案内ぐらいは許してあげるわ)
フランチェスカが手を重ねると、まるで腫物に触るかのように、そっと握るのであった。
初めて入る公爵家、フランチェスカは婚約者の後に付き従う。
自分達は屋敷の中を通り、庭園へ向かっているようだ。
(ふぅん……いかにも堅実ですって感じの家ね。あのスマラクトらしいわ)
遙か昔、自らの処断を後押しした一人でもある将軍に思いを馳せながら、内装を眺めていた。
婚約者はフランチェスカと手を繋いだまま歩こうとしていたが――
「こっちは何の部屋ですか?」
「ああ、それは貴賓室で……」
「すごいシャンデリア! 落ちてきそうで怖いわ」
義妹が彼方此方を見渡し婚約者に質問して回るので、隣を譲っておいた。
フランチェスカ・エーデルシュタイン、生涯で愛した存在は王配アンガスのみ。
社交の為とはいえ、他の男と手を繋ぎ続ける趣味はない。
すれ違う使用人達は、ローズに怪訝そうな表情を向けているので、周囲の目からも非常識に映っているのだろう。
フランチェスカは俯いて、全てを見ない振り。
(恥ずかしい娘でごめんなさいね……親の代わりに謝ってあげるなんて、私ったらなんて心が広いのかしら)
到着した庭園には、既に多くの人々が集まっていた。
フランチェスカよりも色鮮やかなドレスを着た令嬢達は、グラナート家の姉妹を品定めしているような視線を送る。
そんな事にも気付かず、ローズは目を輝かせて周囲を見渡していた。
煌びやかな衣装を纏った来客や絢爛豪華な食事、全てが珍しいのだろう。
婚約者はフランチェスカ達を噴水の前へと誘導する。
其処には、大勢の若者に囲まれる青年の姿があった。
歳は婚約者と同じぐらいだろう。金茶の髪を伸ばし、自信に満ちた眼差し。
彼は居心地悪そうにしている同伴者の背を押している。
背が高く、金髪碧眼の容姿が目を引いた。
(……まあ、なんて美しいのでしょう)
フランチェスカの胸は躍った。




