1、女王は死にました
碧い瞳は見開かれ、苦痛を滲み出していた。
血が迸る口元からは、喘ぐ様に言葉が紡がれる。
「は……母上……どうして……」
その無残な姿に、フランチェスカ・エーデルシュタインは胸を高鳴らせた。
(どうかしら? 処刑したと思った母に殺される気分は)
体の成長を終え、“老い”という概念に恐怖を感じたのは、フランチェスカが二十を超えた頃。
年の離れた王配は既に老境に差し掛かっており、体の不調を訴え始めていた。
永遠に若く、美しい女王で在りたい……ついでに愛する夫に長生きしてほしい――そのような思いで医療の発展に取り組んだ。
しかし、夫が病死した後に、フランチェスカはある結論に達した。
生を得た人間は、老いと病と死から逃れられない。ならば老いとは関係ない体を作り、魂を移してしまえばいい――
彼女は、錬金術や魔術と呼ばれる類にも手を伸ばす。
自らが持つ権力や財力を駆使し、王都の地下に研究室と隠し通路を作らせたのは、この頃。
『魂の交換』という魔術の体現を目指し、多くの民の命を利用した。
儀式や検証を繰り返し、犠牲者の数は膨れ上がる。
彼女の宿願が成就したのは、処断の日。
手を触れた相手の体に乗り移る――その力を行使して、自分の処断に踏み切った息子と魂を交換した。
次代の王として扱われるようになった彼女は、再び権力と財力を駆使し、今度は人形作りに励んだ。
ほぼ人間と変わらぬ精巧な人形に魂を移せば、永遠に美しいまま生きる事と同義では――
しかし、フランチェスカの理想は崩壊する。
人形の体は、老いも病も無い。
即ち、感覚も感情も得ない体は生きている実感に乏しい。
そのような体での生など、フランチェスカは満足出来なかった。
若い娘の体に魂を移し換えていく方法が、一番効率的で、人生を謳歌できる――フランチェスカは、そう結論付けた。
それ以来、フランチェスカは目を付けた娘の体を奪い、数百年の時を気ままに生き続けていた。
何回、何十回と魂を交換し続けてきた彼女は、いつしか、その過程を楽しむようにもなっていた。
自分を不幸だと思い込んでいる少女達に『神の導き』『貴女が望めば』と適当な作り話で希望を与え、幸せな夢の中で朽ちさせる――時にはそんな善行に及ぶ事も。
そんなフランチェスカに転機が訪れたのは、二十年近く前。
待ち望まれた王の世継ぎが、金髪碧眼の赤子であった事であった。
フランチェスカの影響で、金髪碧眼の容姿は、貴族社会で忌み嫌われていた。
両親に似ず、しかも“悪徳の象徴”を彷彿とさせる容姿――王妃は不貞を疑われ、心を病んだ。
王妃の父であった貴族が、周囲の侍女達に嫌疑を掛けようとした。
折悪く侍女の一人の体を借りていたフランチェスカは隠し通路に逃亡し、人形の体に避難した。
侍女の体は適当な所に捨てておいたので、向こうで都合の良いように処理してくれたらしい。
後は、適当に新しい体でも見つければいい――フランチェスカは、次の移り先を探し始めた。
若く、美しく、健康な体。
そして、『ちょっと』性格が変わってしまっても気にされないような立場。
女王陛下のお眼鏡にかなうような娘は、直ぐには見つからない。
「まあ、人形の体はいくらでも作り直せるし、気長に待ちましょう」
数百年を生きるフランチェスカ・エーデルシュタインにとっては、大して気にならない時間であった。




