#26始まり
「…………くん?か…のくん!」
期末テストが近づいてきていて、昨日寝ずに勉強をしてしまったのでとても眠い。
太ももをつねって意識を保とうとする。
授業中は大丈夫だが、休み時間になった途端落ちそうになる。
「河野くん!」
「…………ん?」
「大丈夫?ずっと呼んでたのに全然気づかないんだもん…」
やってしまった。やはり少しも寝ないのはよくない。一時間でもいいから寝ておけばよかった。
「ごめん、ちょっとぼーっとしちゃってて。えっとどうかした?」
このように林さんの呼びかけに反応ができなかったのは初めてだ。すこし休んだ方がいいかもしれない。今夜は早めに寝よう。バイトもないし。
「今日ってバイトなかったよね?」
「うん、ないよ」
「じゃあ生徒会行こ!体育祭の準備がそろそろ始まるみたいだから話しておきたいってさ」
「そっか、体育祭の準備…」
正直きつい。でも生徒会に入った以上やらないわけにはいかないだろう。
そもそも僕は生徒会を途中で帰ることが多い。バイトを大抵16時から入れているので、シフトが入っている日はみんなより少し先に帰宅することが多い。
「…?どうしたの?いこ?」
「うん、ってそっかもう授業ないのか」
思わず小さな声でつぶやいてしまう。いつの間にかホームルームが終わっていたらしい。気づかなかったのはやばいな。
「ごめん、すぐ行くから先行ってていいよ」
「ううん、待つよ待つよ。一緒に行こ?」
「…うん、じゃあちゃちゃっと片づけちゃうね」
林さんは何も言ってこない。
今日の僕は明らかにおかしいはずなのに。気づいていないのか、それとも気づいたうえで僕から話すのを待っているのか。
どちらにせよ、僕は何も言わない。もし無理していることがばれても僕はやめないからだ。
*――*――*
その後の生徒会の話し合いはほとんど覚えていない。
思っていた以上に頭が働いていないみたいだ。
本格的に寝ないといけない気がする。
「はぁ…。だめだな…」
家に帰ってきて僕は椅子に座って一人つぶやく。
学校の授業内容はかろうじて覚えているが、放課後生徒会で話した内容はほとんど覚えていない。
「勉強……いや流石に寝よう。明日昼からバイトだしな…」
もしバイトで倒れでもしたら迷惑すぎる。
とりあえず夜まで寝よう。
そして少し勉強したうえでまた寝よう。
土曜日なので朝から勉強もできる。とりあえず寝よう。
*――*――*
「ん…。は?」
起きて最初に目に入ったのはカーテンから差し込む朝日だった。
前日は18時には寝ていた。
それなのに目が覚めた時には朝日を浴びている。
要するに…。
「どんだけ寝てんだよ……」
時計を見たら8時だった。
寝不足だったとはいえ流石に寝すぎだ。
時間がもったいないという感情が生まれてしまう。だが過ぎてしまったことは仕方ないと割り切るしかないだろう。
「とりあえず少しだけ勉強するか」
僕は無駄にした時間を取りどすようにバイトの直前まで勉強をつづけた。食事もとらずに…。
*――*――*
期末テスト一週間前なってしまった。
うちの学校は期末テストが7月初めにある。
そしてテストが終わった直後に体育祭だ。準備しながらテスト勉強もしなきゃいけないので生徒的には少しきつかったりする。
かくいう僕も生徒会役員ということもあり勉強に体育祭の準備ととても忙しい日々を送っている。
流石に学生は勉強が優先ということがあり、体育祭の準備はそこまで根は詰めていない。というか浅見先生がそこは許してくれない。
「相変わらずお前らはしっかり対策してるのか」
大船が僕と林さんに話しかけてくる。
いつの間にか教室では、僕と林さんと大船という三人で群がることが増えていた。
時々隣のクラスから生徒会のもう一人の一年の佐藤が遊びに来たりもする。
大船だけ生徒会じゃないのでたまに生徒会に誘ったりもするが、大船はめんどくさがって拒否している。
「当然勉強はしてるけど、ちょっと自信ないかな」
前回の中間テストの結果を受けて以降、僕は勉強に対する自信が減っている。
頭が悪いとは思っていないが、林さんなどめちゃくちゃ頭がいい人たちには絶対に追いつけないと思い始めてしまっている。
そもそも追いつこうとする意識が減っているのかもしれない。
このままでは前回の人生と同じで、物事をあきらめ続ける人生になってしまいそうな気がしている。それは嫌だ。だが自分自身の意思が従ってくれない。
「私も自信はないかなぁ…」
「とか言ってお前らはまた学年上位になるんだろ?」
「んー今度は河野くんに負けそうだなぁ…」
「今度は本気で学年一位を目指そうとは思ってるよ。勉強量も前回より増やしてるしね」
ついにバイトを減らして勉強時間を増やしていた。
流石にそろそろ勉強に本腰入れないと落ちるとこまで落ちる気がしたからだ。
「お前らマジで向上心高すぎだろ、若干引くわ…」
「いやいや、大船も十分にすごいじゃん」
こんなこと言ってる大船は中間テストで学年10位だった。
全然勉強をしているそぶりを見せずにこの結果だったので完全に天才だと判断している。
前回の人生であった時から思っていたが、大船はめちゃくちゃ要領がいい。
正直僕自信は要領がめちゃくちゃ悪いと思っている。
だが、そこばっかりは変えようと思って変えられる部分ではないのであきらめかけている。
「まあ全員いい点数取れるといいな」
「そうだね」
「私もできるだけは頑張るよ」
期末テスト前、頑張ると決めたが、僕はこれ以上の頑張りが分からなくなっている。
だから、今の自分を信じるしかない。
二人はきっと僕よりも効率のいい勉強をしていて、きっと僕よりもいい成績を…いや、やめておこう。この思考は完全にネガティブ思考だ。
僕は僕の全力を尽くす。それだけだ。
*――*――*
期末テストの日になった。
僕は昨夜寝ずに勉強をして、そのまま登校時間を迎えている。
怖かったのだ、成績が落ちるのが。
睡眠が大事なのはわかっている、だがそれ以上に恐れた。
結果。
(だめだ、思考力が落ちてる。これじゃあ、点数は…)
*――*――*
「やっと一日目終わったねー…。河野くんどうだった?」
「………あ、まあそこそこ、かな」
林さんの表情が変わる。
きっと僕の表情も同じか、それ以上にひどいだろう。
僕の表情はきっと…。
「河野くん…?」
「ごめん、帰って明日の勉強したいからもう帰るね」
「あ…待って…」
僕は鞄を持ち上げ、林さんの声も聴かずに教室を出た。
そして学校から逃げるようにして家に帰った。
「なに…やってんだ…」
いや、わかってる。
僕は自分が嫌いになり始めている。
今回の人生、自分のことが嫌いじゃなかった。
努力ができて、その努力も生き続ける。
だけど前回の経験というアドバンテージが無くなった高校に入学し、その直後これだ。
そして、優秀な僕を知っている人に会うのが怖くなり、林さんから逃げた。学校から、逃げた。
正直な話、もう会うのが怖い。だけど、そういうわけにはいかない。明日また学校が、テストがある。
テストの結果が出た時、きっと失望されるだろう。学校の先生に。生徒会のみんなに。家族に。そして、林さんに。
それがとてつもなく怖い。
だけどもう決まってしまった。今日のテストを受けて。
今日のテストは最後の問題まで解けていないのだ。問題の見直しすらできていない。もちろん自己採点も。
こんなの今回の人生で初めてだ。
これが僕の限界というものなのだろうか。
これ以上、上には行けない。
もう、嫌になってしまいそうだ。
「だめだ。こんな考えは…。これじゃあ全てを諦めていた前回と同じじゃないか…」
折角戻ってくることができたのに、こうなってしまってはその全てが意味の無かったものになってしまう。
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