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もしも十年前に戻ったら  作者: 茶々
第1章 動き始める人生
17/28

#17新入生代表挨拶



「まあ分かってはいたけど」


「席替えに賭けよう…」


 座席は離れ離れだった。まあ僕の名前が河野で『か』、林さんは『は』だ。席が遠くて当然だ。

まあ教室が一緒だから問題はないだろう。きっとずっと一緒なのだから。


「じゃあ帰りは一緒に帰ろうね」


「うん、了解」


 帰りを一緒に帰る約束をして、僕たちはお互いの席に着いた。


 教室では僕たちのようにもともと知り合いだったであろう人たちが会話をしていたり。

初めましてで挨拶している人たちがいる。僕も誰かに挨拶しておこうと思ったところで、教室のドアが開き先生が入ってくる。

つい先ほどまで一緒にいた浅見先生だ。


 先生が入ってきたことでみんな話をやめて静かになる。


「あ、まだ時間じゃないから喋ってても大丈夫よ」


 と、先生が言ってくれたのでみんな変わらず喋りだしたが。

とりあえず僕も前の席の男子に話しかけてみる。

肩をトントンと叩きこちらに振り返ってもらう。


「お、びっくりした。何?」


「いや、前の席だし挨拶しようと思って」


「あぁ、それ以外ないか。俺は大船雅史だ。お前は?」


「…………」


 その名前を聞いた僕は何も言えなくなっていた。

大船の顔をよく見ると色々とつながった。

こいつ、前回の人生で大学に入って友達になった大船だ。そういえば新道駅付近に友達が住んでるとかでバイト先に茶化しに来たこともあったな。高校がここだったのか…。

僕が何も言わずに顔をじろじろと見ているからか大船が訝し気な顔をする。


「あ、ごめん。僕は河野颯太。よろしく」


「あぁ、よろしく」


 さっきじろじろと顔を見ていたせいで少し警戒されている感じがする。まあ無理もないだろう。

だけどまさかだったな。ここで出会うとは思っていなかった。そもそも今回の人生では会うことないだろうと思っていたのだ。運命というのは本当にわからない。


「…………?」


 僕が思考の海に潜っていると、今度は大船の方が僕の顔を見てくる。


「どうかした?」


「あぁ悪い、なんかお前とどっかであった気がしてな、他人の空似だろう忘れてくれ」


「あ、うん分かった」


 わからない。そもそもこの世界は何なのだろうか。記憶を持ったまま僕が過去に戻ってきたのか、別の世界の小5の僕に前の世界の僕が乗り移ったのかすらわかっていない。パラレルワールドだとしたら、ほかの世界のことを夢に見たりしているのかもしれない。そういう話は聞いたことがあるしな。

 今まで考えて来なかったが、僕が戻ってきた理由や原因とかも考えた方がいいのかもしれない。さっきの大船の言葉はそう思わせる言葉だった。

前の世界に戻ることはない、と確信できないから少し怖くなる。いや、やめよう。今の僕はこの世界の僕だ。

 だが、可能性の話にはなるが、急に戻される可能性だってある。その時にこちらに戻ってこれる手段を考えておくのもいいだろう。たとえ無駄になったとしても、必要な気がする。大船と出会い、前の人生の記憶のかけらが大船の中にあり、ふとした拍子に前の人生に戻ってしまうのではないか、そんな不安が大量にわいてきたのだ。

今まで目を背けてきた問題だが、いい加減向き合うべきだろう。


「とにかく、よろしくね大船」


「ああ、よろしくな河野」


 僕は不安に駆られながらよろしくの挨拶をした。

そんなタイミングで丁度よく浅見先生が口を開く。


「よし、じゃあ時間になったからそろそろ静かになってね」


 先生がそう言うとすぐに静かになる。いいクラスだな。


「おお、さすが一組。最初は私の自己紹介をするわね。私はこの一組の担任の浅見由衣です。教科は英語を受け持っています。このクラスは私が英語を教えることになるかな。とにかく一年間よろしくね」


 先生がそう挨拶すると、口々に「よろしくお願いします」という声が放たれる。

もちろん僕も言った。すでに言ってはいるが。


「じゃあ次は入学式の説明ね」


 次は入学式の説明が行われる。

さっき僕に説明した時よりだいぶ丁寧に説明している。なんというか解せぬ。


「よし、じゃあ時間だから教室の外に出席番号順に並んで。列ごとに外に出ようかしらね」


 僕は出席番号が前の方なのですぐに外に出る。

大船と一緒に外に出る。列になり体育館に向かう。ついさっきも体育館に行っていたので少しおかしな感覚だ。


 体育館近くで列になり開式を待つ。

入場のタイミングになり、先生が歩き出したので入場する。一組なので入場は最初だ。

席に向かうとき、音楽が流れ在校生の人たちや保護者の方たちが拍手で迎え入れてくれる。

うちの家族は残念ながら仕事で来れていない。仕方ないだろう、それなりに忙しい人なので。

一組の生徒が座席に座り終える。二組の生徒も続々座り始めている。

 全生徒が入場し終えて、入学式が始まった。




――――――――――――――――――




「本日はご入学、誠におめでとうございます」


 在校生代表の生徒会長が歓迎の言葉を言い終える。

僕たち新入生は言葉を聞いていた。だが僕は少し緊張していた。次が新入生代表の挨拶だからだ。

慣れてはいても緊張はするものだ。演台に立ったらもう緊張しないんだけどね。


「次は新入生代表挨拶。一年一組河野颯太」


 その瞬間はすぐに訪れた。


「はい」


 先ほどの練習と同じように返事をする。

立ち上がった瞬間、横に座っていた大船が「お前かよ」みたいな顔をしていたがスルーだ。少し後ろの列を見て林さんの表情も見たいが、ここで後ろを振り向くのはおかしいので我慢だ。まあ林さんは気づいていたと思うんだけどね。

ゆっくりと歩き前に向かう。生徒の横を通るたびに僕の顔を覗いてくる。体育館のステージに上がり、演台に立つ。


 人で埋まっている体育館はさっきより狭く見えた。

だが、先ほどとは違い全ての人の視線が僕に向いている。これを最初に感じた瞬間だけは少し怯えてしまう。だから一度息を吸う。そしてゆっくりと吐く。原稿用紙を取り出し両手で持つ。

そして僕は口を開く。


「冬の寒さが過ぎ去り、春の訪れを感じる今日、私たちは友澄高の入学式を迎えることとなりました」


 小学中学とここに立つ場面はあったが、今までのどこよりも広い。高校でここに立つのは目標の一つだったので嬉しい。


「本日はこのような立派な入学式を行っていただき大変感謝しています」


 少し感慨深くなってしまう。ついにここまで来たのか。

あの時小学生に戻されて、頑張ろうと誓い。ここまで自分にできることを短い時間で全力を尽くしてきた。


「中学生の時にそうであったように、高校での三年間はあっという間に過ぎることと思います」


 そして小中と、前の人生からは想像もできないほどの努力を重ね、高校に入学した。そして目標にしていたここに立つことができている。


「これからの日々は終わった後に悔いのないよう、毎日を大切に勉学や学校の活動に励みながら今年度共に入学することができた友人たちとの日々を過ごしていきたいと思っています」


 だが、ここで終わりじゃない。まだ高校生活も始まったばかりだし、高校を卒業しても大学がある。むしろ僕の人生はここから始まる。まだまだ頑張らなければ。


「先生方、それから来賓の方々これから厳しいご指導のほどを宜しくお願いします」


 前回の人生では盛大に失敗した高校生活。今回は絶対に失敗しない。前回のようなミスはもうしない、絶対にだ。


「もしも私たちが間違った道に進もうとしているときは、正しい道を示してくださるとうれしいです」


 今は一緒にいてくれる人もいる。僕たちなら大丈夫だろう。


「27年4月8日 新入生代表河野颯太」



 この時はそう信じていた。





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ありがとうございます。

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