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女になった俺と、距離感がおかしくなった奴ら  作者: わかめ
女になった俺

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11/25

女になっても、仕事は普通に来る


火曜の朝。


俺は八時半にノートパソコンを開き、五分後には一度閉じた。


「……これもか」


原因は机だった。


正確には、机と椅子。


昨日まで何年も使っていた仕事環境なのに、今の身体で座ると妙にしっくりこない。


以前と同じ高さに椅子を合わせると、足が床へ届かない。かといって足がつくところまで下げれば、今度は机が高くなりすぎて、キーボードへ手を置くだけで肩が持ち上がる。


椅子の奥行きも微妙に合っていない。


身体を背もたれへつけると膝の位置がおかしくなるし、少し前へ座れば今度は腰が落ち着かない。


「家まで俺に合わなくなってんじゃねえか……」


昨日、美琴と一緒にキッチンの収納を少しだけ変えた。


あれだけでも、自分の家が自分用ではなくなったような妙な気分になったのに、今度は仕事机まで調整が必要らしい。


仕方なく家の中を探し回り、以前ネット通販で届いた頑丈そうな箱を見つけた。


椅子の高さは机に合わせる。


足元へ箱を置く。


両足を乗せる。


「……お」


かなりマシになった。


見た目はひどい。


一応Webサービス会社で働いている人間が、自宅で通販の空き箱をフットレスト代わりにしている。


だが背に腹は代えられない。


今日は、女になってから初めての仕事だった。


黒田さんからは昨夜、


『午前からリモートでいい。ただし無理だと思ったらすぐ切れ』


と念を押されている。


月曜は「休め」と言われて、本当に一度も会社のチャットを開かなかった。


正確には何度か開こうとして、そのたびに黒田さんの顔が頭に浮かんでやめた。


そのおかげなのか、身体の疲れはかなり抜けている。


まだ新しい身体の扱い方が分からない部分は多い。それでも、買い物をしただけでぐったりしていた日曜よりはずっと動けるようになった。


たった数日なのに。


少しずつ。


身体の方が今の状態へ合わせてきている。


今日は仕事をする。


それだけのことなのに、少し嬉しかった。


午前八時五十八分。


会社のチャットへログインする。


読み込みが終わった途端、昨日一日分の未読と通知が一気に表示された。


『香坂さんお休みなのでここ黒田さん確認お願いします』


『先方回答来ました』


『デザイン修正版上がってます』


『仕様確認、香坂さん復帰後で大丈夫です』


俺の名前が普通に並んでいる。


「…………」


安心した俺を殴りたい。


俺が男だろうが女だろうが、仕事はちゃんと溜まっていた。


     *


九時ちょうど。


黒田さんから個別メッセージが来た。


『おはよう。体調どう』


『大丈夫です』


送る。


すぐに返ってくる。


『本当に?』


『本当にです』


少し間が空いて。


『じゃあ9:30から人事と話す。そのあと仕事』


『了解です』


さらに一件。


『今日は定時までやらなくていいからな』


『善処します』


『善処するな。従え』


「厳しいな」


口ではそう言いながら、少し笑った。


昨日までと同じだ。


黒田さんは、俺が女になったからといって急に腫れ物を扱うようにはなっていない。


体調については気を使う。


必要な手続きも考える。


でも、それ以外は普通。


今の俺にとって、その距離感が一番ありがたかった。


九時半。


オンライン会議へ入る。


今日は最初からカメラをつけた。


昨日、黒田さんへ初めて今の姿を見せた時ほどの抵抗はない。


画面の端には、ショートボブの女が映っている。


一昨日なら、それだけで落ち着かなかった。


今は仕事の画面の端にそいつがいても、無視できる程度にはなってきている。


黒田さんが入室した。


続いて、人事の担当者。


三十代くらいの女性だった。


社内イベントで見たことはあるが、まともに話すのは初めてだ。


『おはようございます、香坂さん』


「おはようございます」


一瞬だけ。


相手の視線が止まった。


事前に聞いていても、実物を見ると驚くらしい。


もうこの反応にも少し慣れた。


『黒田さんから概要は伺っています。まず、体調はいかがですか?』


「今のところ問題ないです」


『分かりました。では今日は、今後必要になる社内手続きについて一度整理させてください』


「お願いします」


そこからは、驚くほど普通の事務手続きの話になった。


社員情報。


健康保険。


社員証。


健康診断。


会社が契約している医療制度。


出張時の宿泊。


福利厚生サービス。


そして、出社時に利用する設備について。


病院から正式な確認書が発行されれば、公的な手続きと連動して順番に変更していくことになるらしい。


「結構ありますね……」


思わず漏らすと、人事の女性が苦笑した。


『そうですね。今回の場合は変更箇所がかなり多くなります』


「名字も名前も変わらないんですけどね」


『そこは助かります』


「助かるとかあるんですか」


『システム上はかなり』


知らない世界だった。


本人の人生がひっくり返っている横で、人事システムには人事システムなりの事情があるらしい。


黒田さんが横から入る。


『香坂、会社ってそういうところだから』


「昨日も似たようなこと言ってましたよね」


『一日で理解したな』


「したくなかったです」


人事の女性が少し笑った。


その笑いで、俺も少し肩の力が抜けた。


『それから、社内での情報共有についてですが』


来た。


俺は少しだけ姿勢を正す。


『現時点では、黒田さんと人事の必要な担当者以外には詳細を共有していません。ただ、今後出社される場合は、外見やお声が大きく変わっていますので――』


「どうしても分かりますよね」


『はい』


当然だ。


百七十六センチだった男が、百四十八センチの女になって何の説明もなく同じ席へ座っていたら、むしろ事件になる。


『どの程度まで事情を共有するかについては、香坂さんの希望を優先します』


俺は少し考えた。


完全に伏せることもできるのだろう。


医療上の事情がある。


体調上の問題がある。


そう説明すれば、会社としてはそれ以上言う必要もないのかもしれない。


ただ。


「……転性現象になった、ってところまでは言って大丈夫です」


自分でも少し意外なくらい、答えは早かった。


黒田さんがこちらを見る。


「たぶん隠しても面倒なんで。ニュースで知ってる人もいるでしょうし」


『そうだな』


「病院で何言われたとか、身体の細かいことまでは勘弁してほしいですけど」


『そこは当然だ』


黒田さんがすぐ答える。


人事の女性も頷いた。


『では、本人の同意なく詳細な医療情報には触れないという前提で進めます』


「お願いします」


答えてから、少し不思議な気分になった。


転性現象。


一昨日までは、自分とは関係のないニュースの中にしかなかった言葉だ。


それを今は、自分を説明するために会社へ伝えていいと言っている。


慣れたわけではない。


受け入れたつもりもない。


ただ、会う人間全員へ毎回ゼロから、


「朝起きたら女になりました」


と説明するよりは遥かにマシだった。


     *


『あと、出社についてです』


人事の女性が資料を確認する。


『黒田さんから、しばらくはリモート中心と伺っています』


「はい」


『ただ、社員証の再発行や本人確認などで、一度来社していただく必要が出る可能性があります』


「やっぱり行かないと駄目ですか」


『完全オンラインでは難しい手続きがいくつかありまして』


「ですよね……」


ここ数日ですっかり使い慣れた言葉だった。


理屈では分かる。


頭では全部分かる。


問題は、会社へ行くということだ。


今の姿で。


昨日まで毎日顔を合わせていた人間たちの前へ出る。


「…………」


『香坂?』


黒田さんに呼ばれて顔を上げた。


「あ、すみません」


『嫌なら急がなくていいぞ』


「いや」


少し考える。


逃げ続けても仕方がない。


会社を辞めるつもりはないし、仕事だってずっと完全リモートで済むわけではない。


いつか行くなら。


「必要になったら行きます」


『分かった』


黒田さんはそれ以上言わなかった。


日程もその場では決めない。


そこがありがたかった。


     *


人事との打ち合わせが終わり、画面には黒田さんだけが残った。


『疲れた?』


「ちょっと」


『じゃあ今日は終わる?』


「まだ十時ですよ」


『確認しただけ』


「仕事します」


『そう』


黒田さんが何かを操作する。


直後、チャットに通知が一件届いた。昨日のクライアント会議で出た修正事項。資料更新期限、本日十五時。俺は画面を見る。それから黒田さんを見る。


「黒田さん」


『何』


「俺、体調明けですよね?」


『今のところ元気なんだろ?』


「そうですけど」


『仕事は今まで通りがいいって言ったの誰だっけ』


「俺です」


『じゃあよろしく』


完敗だった。


「……覚えてろよ」


『上司に言う言葉じゃない』


通話が切れ、俺は画面を睨んだ。


だが、数秒後には資料を開いていた。


先方からのコメント。昨日の議事録。デザイナーから上がっている修正版。


やるべきことは分かる。


手を動かす。構成を直し。数字を確認し。チャットでデザイナーへ質問を投げる。


返事が来ればまた直す。いつもの仕事だった。


そのうち、画面の隅に映っている自分の顔すら気にならなくなった。


     *


十一時半を過ぎた頃、同じチームの佐々木からメッセージが来た。


『香坂さん復帰した?』


『した』


『体調大丈夫?』


『大丈夫』


少し間が空く。


『なんか声変わったって黒田さん言ってたけど喉?』


「…………」


黒田さん。


どこまで言った。


いや、たぶん昨日、俺が定例へ出なかった理由を説明する過程でそうなったのだろう。


『喉ではない』


送る。


すぐに返事。


『???』


まあ、そうなる。


俺もそう思う。


さらに、


『重病じゃないよね?』


と続いた。


その一文を見て、少し申し訳なくなる。俺がいない間、周りは普通に心配していたのだろう。


俺からすれば身体が女になった事実が大きすぎて、会社の人間が何を考えているのかまで気が回っていなかった。


『健康。詳しい話はそのうちする』


送る。


『ならよかった』


それだけだった。余計な詮索はない。少し安心する。ただ、「そのうち」は確実にやってくる。


チャットなら、俺はまだ昨日までとほとんど同じだ。


社員アイコンだって男だった頃の顔が表示されている。


佐々木が今文字を打っている相手は、たぶん今までと同じ香坂悠真だ。


実際に会えば。


そこだけは、嫌でも変わる。


「……まあ、その時考えるか」


最近、本当にそればかりだった。


     *


十二時半を回ったところで、ようやく仕事の手を止めた。


冷蔵庫を開けると、昨日美琴が買ってきた惣菜が残っている。キッシュとサラダ、それからプリン。


昼飯としては少ないようにも見えたが、皿に出して食べ始めると、キッシュを半分ほど食べたあたりでもうかなり満足していた。


以前の俺なら、これにパンか何かを足していたはずだ。


「……燃費良くなったな」


身体が小さくなった以上、胃の大きさまで以前と同じというわけではないのだろう。


財布には優しい。


一晩で身体が女になった代償として考えると、あまりにも割に合わないメリットではあるが。


食後のプリンだけはきっちり食べた。


「うま」


そこが変わっていないことに、妙な安心を覚える。


スマホを見ると、美琴とのトーク画面には昨夜のやり取りが残っていた。


『ちゃんと休んでね』


『お前も黒田さんみたいになってきたな』


『黒田さんって人、信用できそうでよかった』


昨日は何とも思わず読んでいたはずなのに、今日は画面を見ているだけで、ソファに並んで座った時の近さまで一緒に思い出してしまう。


女同士だから。


美琴はそう言った。


俺も嫌ではないと答えた。


それだけの話なのに、考え始めるとまた面倒なところへ戻りそうだったので、スマホを伏せる。


今は仕事だ。


そう思ったところで、別の通知が届いた。


蓮だった。


『仕事復帰?』


『した』


『生きてる?』


『仕事が俺を殺そうとしてる』


少しして、


『通常運転じゃん』


と返ってくる。


思わず笑った。


このくらいのやり取りなら、本当に何も変わっていない。


続けて、もう一件。


『今日暇なら夜飯行く?』


指が止まった。


別に珍しい誘いではない。


金曜の夜にも二人で飲んだばかりだし、それ以前だって数え切れないほど飯を食ってきた。仕事が早く終わった方が連絡して、そのまま駅前で落ち合う。


俺と蓮にとっては、それだけの予定だった。


『どこ』


『いつものとこでもいいし』


いつもの居酒屋。


つい数日前までなら、それで会話は終わっていた。


俺はほんの少し考えてから、


『いいよ』


と返した。


『じゃ19時』


『了解』


スマホを置く。


断る理由なんてない。


日曜には千尋と街へ出たし、人混みにも多少は慣れた。


何より、相手は蓮だ。


十年以上付き合ってきて、互いの家に泊まるのも、旅行へ行くのも、終電を逃して同じ部屋で寝るのも何とも思わなかった男友達。


美琴とは違う。


蓮は蓮だ。


そう考えたところで、自分がわざわざそんな確認をしていることに気づいた。


「……何で確認してんだよ」


誰もいない部屋で呟く。


少し引っかかったが、答えを探す前に午後の仕事へ戻った。


     *


午後は、驚くほど普通だった。


資料を直して黒田さんへ送れば、五分もしないうちに、


『7ページ数字違う』


と返ってくる。


確認すると、本当に違う。


「くそ」


直して送り直す。


今度は、


『12ページ、文言古い』


だった。


こちらも確認すると、やっぱり古い。


「…………」


身体が女になったからといって、資料のミスまで大目に見てもらえるわけではないらしい。


もっとも、それは俺自身が望んだことでもある。


仕事は今まで通りにしてほしい。


そう言った。


だから、黒田さんは本当に今まで通りだった。


三度目に送り直した資料へようやく、


『OK』


と返ってきた時には、俺は椅子へ深く身体を預けていた。


「疲れた……」


それでも、不思議と嫌な疲れではなかった。


女になって初めて仕事をした。


以前と同じ資料を作り、以前と同じようにミスをして、以前と同じ上司に直される。


身体は何もかも変わったのに、頭の中へ四年間積み上げてきた仕事まで消えたわけではない。


分かっていたつもりだった。


でも実際に働いてみて、ようやくそれが実感になった。


十五時を少し過ぎた頃、黒田さんから個別メッセージが届いた。


『今日はここまででいい』


『まだ定時までありますけど』


『初日だから』


『元気です』


すぐに返ってきた。


『夜予定ある?』


俺は眉を寄せた。


何でそんなことまで聞くんだ。


『ありますけど』


『じゃあなおさら終われ。仕事復帰初日に無理して翌日潰れるのが一番面倒』


正論だった。


この人、本当にこういう時だけ逃げ道を塞ぐのが上手い。


『了解です』


と返すと、もう一件届く。


『明日もリモート。木曜か金曜、一度会社来てもらうかも』


そこで手が止まった。


朝、人事から言われた話だ。


社員証の再発行や本人確認。それに人事との面談。


いつか必要になることは分かっていた。


ただ、「そのうち」だと思っていたものが、急に二、三日後の予定として現れると話が違う。


『社員証関連?』


『それと人事面談。確定したら明日連絡する』


『了解です』


送信してから、しばらく画面を見ていた。


木曜か、金曜。


遅くても三日後。


今の姿で会社へ行く。


昨日まで俺を男として見ていた同僚たちの前へ出る。


考えれば考えるほど落ち着かなくなりそうだったので、パソコンを閉じた。


今日はもう仕事をするなと言われた。


なら、これは明日の俺に任せる。


最近、未来の俺への仕事が多い。


     *


仕事を終えた時刻は十五時半だった。


十九時の待ち合わせまでは十分時間がある。


俺は一度ソファで休んでから、夕方になって着替えるためにクローゼットを開いた。


そこで、少しだけ動きが止まる。


男物の服が大量に残っている。


シャツ。


ジャケット。


パーカー。


パンツ。


数日前まで普通に着ていたものばかりだ。


気に入って買ったものもあるし、何年も使っているものもある。


一着、大きめの黒いパーカーを手に取った。


昔から割と気に入っていたものだ。


今の身体でも着られないことはない。


試しに羽織ってみる。


袖は指先を完全に隠し、裾も以前とは比べものにならないほど下まで来た。


鏡を見る。


「……これは違うな」


服に着られている。


日曜、千尋にも言われた通りだった。


ただ。


大きな服そのものが嫌なのかと考えると、少し違う気もした。


元々、ぴったりした服ばかり着ていたわけではない。


パーカーも、少し大きめのアウターも好きだった。


問題は今のこれは、俺が大きく着ようとして選んだ服ではないということだ。


百七十六センチだった自分に合うものを、百四十八センチの身体へそのまま被せているだけ。


「……サイズ違えば、こういうのもいけんのかな」


何となく思った。


すぐに、


「いや、今考えることじゃねえな」


と脱ぐ。


そのうち必要なら考えればいい。


今はまだ、服を選ぶだけでも人の助けがいる状態なのだから。


男物を戻す。


その隣には、日曜に買ったばかりの服が少しだけ並んでいた。


今の俺が普通に着られるもの。


黒、白、紺。


千尋が選んだ薄い青。


まだ選択肢と呼べるほどの数もない。


蓮と飯を食うだけだ。


以前ならクローゼットの手前にあるものを適当に取って、それで終わっていた。


今回もそれでいい。


黒いパンツに白いトップス。


鏡の前に立つ。


ショートボブに、シンプルな服。


普通。


この数日で見た自分の中では、一番「俺らしい」と思える。


「これでいいな」


そう呟いて、その場を離れかけた。


けれど、鏡の前を通り過ぎる直前に何となく足が止まる。


前髪が少しだけずれている。


別に変ではない。


蓮と飯を食いに行くだけだ。


直す必要なんてない。


そう思ったのに、手が勝手に上がった。


軽く整える。


そこで。


自分が何をしているのかに気づいた。


「…………」


美琴と会う前も俺は鏡を見た。髪を確認して、服が変ではないか気にした。


あの時は、美琴だからだと思っていた。


二年近く好きだった女が、女になった俺を初めて直接見に来る。


なら、多少気にするのは当たり前だ。


今日は蓮だ。


親友。


十年来の男友達。


俺が寝癖だろうがジャージだろうが、今さら何とも思わない相手だった。


それなのに。


俺は今。


蓮に会う前に、自分がどう見えるのかを確認した。


「……何やってんだ俺」


鏡の中の女へ聞いても、当然答えは返ってこない。


その時、スマホが震えた。


『仕事終わった?』


蓮からだった。


『終わった』


『早』


『黒田さんに追い出された』


『いい上司じゃん』


『そうなんだよな』


いつものやり取り。


それだけで少し安心する。


『じゃ後で』


『おう』


画面を閉じた。


何も変わっていない。


蓮は蓮だ。


俺も俺だ。


だから今日も、いつも通り飯を食う。


それだけだ。


そう思いながら、もう一度だけ鏡を見る。


百四十八センチ。


短い黒髪。


女物の服。


そこにいるのは、金曜の夜に蓮と飲んでいた俺とはまるで違う姿だった。


十九時。


いつもの店。


いつもの親友。


何十回も繰り返してきた予定だ。


ただ一つ違うのは。


女になってから、蓮と二人で待ち合わせるのは。


今日が初めてだった。

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