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6

 アキラはいつの間にかソファーで寝ていた。祈織は着替えと化粧をすまし、椅子に座り読書をしていた。白いワンピースに青いカーディガンを羽織っている。その姿はどこに出しても恥ずかしくない立派なお嬢様といった印象だ。

「祈織ちゃんおはよう」

「おはようございます。昨晩はありがとうございました。とっても夢心地でした。ぐっすり寝れて疲れもとれまたした。またお暇な時お願いしても良いですか?」

「喜んでお引き受けするよ」

「これお鑑定料とマッサージ代です」

 そう言って祈織は白い封筒をアキラに差し出した。

「涼子さんの紹介だから受け取れないよ」

「そうは言わず、受け取って下さい。こう見えてもお金だけは持ってますから」

「お金持ちのお嬢様には敵わないな。では遠慮なく頂いておくよ」

 アキラは白い封筒を受けった。鑑定料とマッサージ代金の相場以上の厚みを感じたが、知らぬふりをした。とにかく金持ちがお金を払うというときには、恥をかかせてはいけない。これは彼が日頃から金持ち相手にパワーストーンを販売している経験に基づく実感だ。

「アキラさんは今日、お忙しいですか?」

「いや、究極のフリーランスだから、忙しくはないな」

「そうですか。それならお食事でもどうですか?」

「そういえば、お腹すきましたよね。行きましょう。その前にシャワー浴びさせて下さい」

 アキラがシャワーを浴びている間も、祈織はずっと読書をしていた。アキラの髪は前髪が目にかかるくらいのウルフヘアなので、シャワーを浴びる時間は短い。髪の毛を乾かす時間を含めても、20分もかからない。それにも関わらず、祈織は一冊の文庫本を読み終わろうとしていた。

「祈織ちゃんお待たせ。準備できてる?」

「はい。いつでも大丈夫です」

 二人はホテルの最上階の廊下を歩いていく。

すると、エレベーターの前で中高年のカップルが激しいキスをしている最中だった。アキラは祈織の腕を引き、非常階段へと誘導した。

「はぁ、全く朝っぱらから見せつけてくれるぜ」

 アキラは皮肉交じりに言う。祈織はくすくす笑って

「私たちもしますか?」

 と言い、アキラの手を握り締め、唇を突き出し瞳を閉じた。

 アキラは不意を突かれた。まじかで見ると、そこら辺の女優なんかよりもよっぽど可愛い顔をしている。唇にキスをしかけたアキラだったが、祈織の前髪をかき上げおでこに優しいキスをした。

「アキラさん、ありがとうございます」

 祈織はなぜだかありがとうと言った。アキラにはその意味が解らずに、優しく抱き寄せて「もし来世があったとしたらその時こそ、神の下でキスしようね」と言った。

 祈織の手を引いて非常階段を下りていく。爽やかな夏の朝焼けが二人を照らしていた。このままこの美しい娘を奪いされたら。アキラは詩音や涼子とはまたちがった意味で運命を感じていた。祈織は草花のように可憐で素朴で美しい。何度も踏まれても、大地から強く咲く野花のようだ。そのしなやかさ、温かさ、その全てを奪いたい。アキラは初恋の時を思い出して、祈織にばれぬよう、前髪を手でくしゃくしゃにした。

 ホテルの裏口から出る。酔っ払いが一人寝ていた。見覚えのある顔だった。

「ライト?」

 祈織はライトの事を知っているようだった。祈織はライトに駆け寄って介抱をする。ライトは祈織に気づき「浮気娘に用はねぇよ!」と突っぱねた。ライトはよろよろと立ち上がり、こちらに来た。

「てめぇ、社長のダチだからって、人の女に手ぇだしてタダで済むと思うなよ」

「やめて、ライト!それにいつから私があなたの女になったのよ」

 アキラは無言で突っ立ていた。まるで酔っぱらった時の自分そっくりだったからだ。ライトは祈織の方を向き

「あの時誓ったじゃねぇか。将来結婚しようねって」と言った。

「そんなの子供の頃の話じゃない。馬鹿じゃないの?」

「………お前にその気がねぇなら、お前を殺して俺も死ぬ」

「殺したいなら殺せばいいわ。どうせそんな甲斐性もないくせに」

「うっせー!」

 逆上したライトは酒ビンを手にして祈織の頭を勝ち割ろうとした。アキラはとっさに手を出して制した。

「待てよ。蒲田の大先輩の息子だろうが、女に手ぇ出す奴はゆるさねぇ」

 アキラはライトの腹に横蹴りを入れた。その蹴りは酔っぱらったライトにとって非常に重いものであった。ライトは簡単に気をうしなった。

「祈織ちゃん、救急車呼んであげて。それで俺たちも逃げよう」

「大丈夫ですかね?」

「殺しても死なねぇヤツだよ。こんなくらいで泣いちゃうくらいなら、蒲田に住む資格ないね」

 祈織は救急車を呼んだ。そして、ライトの財布を取り出して、3万円を入れておいてあげることにした。3万円もあれば、救急車代や病院代を払っても今日一日を過ごせるくらいは残るはず。でも、どうしてこんなことになるのだろうか?祈織には蒲田の朝焼けが眩しすぎて忘れられないものとなった。

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