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 アキラと出会った夜、ライトは蒲田の音楽スタジオにいた。蒲田駅東口から徒歩7分に位置する隠れ家的なスタジオだ。バンド練習音楽仲間であり義兄弟の長野信平とジャムセッションをしていた。

「信平!今日はやってらんねぇ!」

 ライトは粗暴なまでにエレキギターを放り投げて言い放つ。

「また、かんしゃく起こしたか。アニキ、いい加減大人になれよな」

 信平は細い指先で長髪をかき上げた。

「うっせー!もともとは、お前が連れてきたベースのせいじゃねぇかよ!」

「まぁ、そういうなって。アニキに女の良さを知ってほしくてわざわざいい女連れてきたんだから。それなのにアニキったら真面目ぶっちゃってさ。まさか30歳にもなってまだ素人童貞なんじゃ?」

「あーむしゃくしゃする。ネパール人でも殴りてぇ!」

「ウケる!なんでネパール人限定なんだよ?」

「知らねぇのか?蒲田じゃネパール人半グレ組織が悪さしてやがる」

「妄想、幻覚、幻聴………。ドーパミンの出すぎでいよいよ精神病院行きになるぞ」

「うっせー!ナチュラルハイって言葉を知らねぇのか。俺は酒もドラッグもいらねぇ身分なんだよ」

「アニキ、一つだけいわせてくれ」

「な、なんだよ」

「社長の付き合いでチャイニーズエステ通いもいいけど、そろそろ本気の恋愛をしてくれ。そうでなきゃおれ………」

「信平。さっきから様子おかしいぞ。どうした?」

「いや、なんでもない。さぁ、帰りにラーメンでも食ってふて寝しようぜ!」

 ライトと信平はレンタル楽器を受付に返し、スタジオを出た。男同士のバカ話に花を咲かせながらラブホテル街へ歩みを進めていく。するとライトは幼馴染の女性によく似た姿をみかけた。ライトはズカズカと早歩きをして女性の背後までせまる。

「お嬢様はこんなスラム街で何をお探しですか?」

 不意を突かれた女性は、びくっとしながら振り返ることもなく駆け足で逃げていった。呆然とするライトに信平が駆け寄って肩を抱いた。

「アニキ、今の誰?」

「お前には関係ねぇ人だよ」

「ふーん。そうは見えなかったけど」

 信平にはライトの様子が可笑しかった。まるで小学生くらいの男子が好きな女の子に対しわざと意地悪しちゃうような感じに見えたからだ。

「それよかラーメン食べにいくべ!」

 ライトがからっとして言う。

「あ!ごめんアニキ。おれ用事思い出した!先帰るわ」

 そう言って信平は帰っていった。


 ライトはバイクの駐車場まで辿りつく。またしても女性の姿をみかけた。時計の針は深夜一時を指している。過去にライトは女性と面識があった。幼馴染の遠野祈織だ。彼女の住まいは田園調布であることをライトは知っていた。田園調布のお嬢様がこんな時間に蒲田にいるなんて不自然だ。  

ライトは事件の匂いを感じた。祈織には悪いがこれも幼馴染の縁。尾行して護るしかない。ライトはそう決心した。

 祈織は京急蒲田駅西口のタクシー乗り場にむかって歩いているとライトは予測していた。しかし祈織は周囲をきょろきょろと見渡し、ふいをつくように交差点を左へと曲がった。心なしか急ぎ足のようにも感じた。ますます怪しい。この先には天皇家ゆかりの八幡神社があり、そのはす向かいにはセブンイレブンがある。なんてことない。地元民ならば誰もが知っている羽根つき餃子発祥の店ニーハオがある通りだ。その先には朝方にアキラを待っていた公園がある。まさか。ライトは嫌な予感がしていた。

 祈織はセブンイレブンへと入っていった。ライトは持っていたタオルを頭にぐるぐると巻いた。素性を隠すためである。祈織にばれないよう神社側から見張る。すると、今日一緒に仕事で出逢ったばかりのアキラの姿があった。祈織はアキラの後を追うようにコンビニから出きた。二人はライトに全く気付き様子もなく、すぐそばを通りすぎて音楽スタジオの方面へ歩いていった。この先に営業している店はラブホテルかビジネスホテルくらいしかない。

 ライトはアキラを刺し殺したいくらいの情動にかられた。疑うことを知らない純粋無垢な少女のまま大人になった祈織のような女に限って、あんな冴えないジジィと身体の関係をもつことなんてありえないはずだ。しかし、そう自分に言い聞かせれば言い聞かすほど、不信感は募っていく。

 社長のツテでたまにアルバイトに来て中途半端に現場を残して去っていく。ライトだけでなく他の職人もアキラのことを快く思っていなかった。だからみんなでグルになって遠回しにアキラに嫌がらせをする予定だった。「いざとなったらあんなジジィ俺一人で充分すよ!二度とたてつかないように半殺しにしてやりますから」ライトは他の職人たちにクダを巻いた。その罪に対する罰がこんなにも早く降りかかるとは夢にも思っていなかった。

 アキラと祈織はラブホテル【ヴィエラ】へ入っていった。

 ライトは呆然と立ち尽くしていた。お月様はそろそろ満月になろうとしている。生ぬるい一筋の風が吹きぬけていった。この先に起きるであろう運命の悪戯を告げるかのように。


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