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「それで、アキラ君。明日以降どこに逃げるんですか?」
佳子が尋ねる。
「まだ決めていません。というか決めあぐねています」
アキラは行先のだいたいの見当はつけていたが、佳子には黙っておくことにした。
佳子が裏切ると言いたいわけではないが、100パーセント信頼しているわけでもない。なんだかんだ言ったって所詮は占い師だからだ。人は自分で運命を切り開いていける力が備わっている。人生において大切なことはそんなに多くない。好きな物を食べて、好きな服を着て、好きな場所で暮らして、好きな人たちと笑って過ごす。それ以上、何を求めるだろうか。占術は科学だと考えているが、決まりきった運命などない。ゆえに、最後は人間臭い戦いになるだろう。電話も使えない。メールもできない。そんな昭和の時代みたいな話が現実に起きている。
「明日、詩音ちゃんはここに来ると思います。私からは断れませんので、それだけはどうかご了承下さい」
佳子は見抜いている。アキラが嘘をついたことを。本当に頭がいい人は要点だけしか話さないし、1言えば10を理解する能力がある。佳子もその一人だろう。
「かしこまりました。こちらもあえて行先は言いませんので、お気になさらず」
アキラはマジカルカラー緑から黒に運命転換している。上司に対してこんなにはっきりものをいうようになったことに気づき始めている。
「そうそう。アキラ君の運命転換のお話しですが、実は、生まれた病院を調べたところ、現在は2つの病棟があるみたいなのです。緯度と経度の問題で、もし仮に、生まれた場所の緯度が道一本分でもそれていたら、緑か黒か解らなくなります」
「東京蒲田病院は建て替えや増設があり、当時のことは親に聞いてもよく解らないと思います」
「そうでしょうね。ですから、緑と黒をうまく使い分けて下さい。ラッキーカラーは赤で変わりませんから」
「解りました。しばらくは黒で生きていきたいと思います」
マジカルカラーは全9色ある。白、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒の順番だ。これを数値化すると、白は【1】となるし、赤は【2】黒ならば【9】になる。自分自身がもともと持って生まれた色があり、その色を身に着けることで、自分らしく生きていくことができる。
「占術はあくまでも幸福に生きていくための羅針盤です。何かの事件を解決したりできるほど、世の中の仕組みは単純ではありません。そのことをよく覚えておいてくださいね」
「先生、最悪は死人が出るかもしれなかったんですよ。それでも、占術を事件解決に使うなと仰いますか?」
「いえ、そうではありません。最近、アキラ君のメール鑑定の文面を観させて頂いていますが、当てることばかりに意識が向いて、クライアントさんの恐怖を煽るような言葉まわしになっています。この占術は本来怖いくらい当たりすぎるがゆえ、封印された歴史があることはご存じだと思います。もしもこの状態が続くようでしたら………」
佳子は手を組んだ。
「協会をやめろ、と?」
「言いにくいですが、そういうことになります」
「先生、解りました。その時は僕の方から協会を去ります。ただ、ここで見聞きしたこと経験・体験したことを小説に書くことだけはお許し下さい」
「解っています。そういうと思ってアキラ君には教えていないことが山ほどあります。もし、アキラ君が小説家になる夢を捨てて、総師に仕えるというのならば、その時は悪いようにはしません。まぁ、一度くらいは夢のために協会を離脱しても良いでしょう。また、気が向けばいつでもご相談に乗ります」
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分です」
「では、仮眠を取りますか?それとも夜食でもお作りしましょうか?」
「久しぶりに佳子先生の夜食が食べたいです」
「朝までコースですね。アキラ君もだいぶ占術師らしくなってきて嬉しいです」
そう言って、佳子はキッチンへと向かった。アキラは孤独の中、必死に行く先を考えていた。




