21
寝ていた祈織を起こして、状況を説明した。祈織は信じれれないといった表情を浮かべている。まさか、沖縄まで追っかけてくる財力などないと予測していたからだ。それはアキラも同じだ。しかし、どうやら詩音がライトと接近を図り、莫大な財力を武器にして何か意図をもって追っかけてきた。詩音の目的が何なのかは解らない。
「祈織ちゃん。ここは危険だ。すぐに場所を移そう」
「まさか、沖縄まで復讐しにくるなんて。その努力を他に向ければいいのに。だから、ライトは嫌いなんです。昔からそうです。勉強もスポーツも全て中途半端。何かを最後まで成し遂げたことなんてないはずですよ」
「まぁ、祈織ちゃんの気持ちは良くわかる。本当に好きなんだったら、相手の幸福をいちばんに考えるのが本当の恋愛だ。あまりにも身勝手すぎる」
「それで、アキラさんが見かけた人は詩音さんで間違いないんですか?」
「間違いなく詩音だと思う。あの星のモチーフが入ったジーンズは、ディーゼル社がわざわざ詩音のためだけに作ったジーンズなんだ。しかもそれをカスタマイズしている」
「わざわざ身バレするような恰好で来たってことは、アキラさんに見つけて欲しかったのでしょうか?」
「今のところ解らない。川崎で喧嘩して別れてきたから、長い付き合いだけどそういうのはじめてなんだよ」
「この時間からどこに逃げれば良いのか………」
「恐らく星崎財閥の娘である詩音を敵に回したとするならばかなり手ごわい。スマホですらハッキングされている恐れがある」
「スマホをハッキング?」
「そう。企業とかもユーザーのGPS機能を使って、現在地を特定することができる世の中なんだ。それを悪用することは犯罪だが、詩音なら犯罪すらもみ消すことができる」
「では、詩音さんと組んでいた方が安全だったってわけですね?」
「ごめん。詩音が僕の信念を否定するようなことを言ってきたから、つい頭にきてケンカ別れした」
「でも、いいです。仮に殺されたとしても、私はアキラさんと一緒に沖縄を旅できたことで後悔はないです」
「まだ人生の楽しみはこれからじゃないか。方法はまだある。僕は諦めない」
「ライトは喧嘩弱いですけど、キレると何をするか解りません。小学校の頃、意味もなく同級生にカッターナイフで切りつける事件がありました」
「弱いやつほど武器に走る。僕の友達でもそういう奴がいる。ある意味、病気なのかもしれない」
「アキラさん。わたし、アキラさんと一つになれて幸せでした」
「今生の別れみたいなこと言わないで。僕が守るから」
「もし、生きて帰れたら………」
「その先は言わないで。辛くなるから」
アキラは祈織を強く抱き寄せた。純愛とセックスから始まる恋と鑑定から繋がる恋。そのどれも選べない自分は世界一情けない男だ。彼女たちが魅力的すぎるから悪いのだ。祈織とキスをする時、自分が吸ったタバコのフレーバーがしてほろ苦かった。
「まずは、状況を整理しよう。詩音とライトは間違いなくこのホテルに宿泊している。でも、詩音は赤子みたいに寝るのが早いんだ。ライトと一緒の部屋に泊まっているとしても、詩音だけ寝てしまえば、頭脳戦でこちらが有利だ。まずは念のためにスマホの電源を落とそう」
アキラの提案に祈織は「はい」と素直に答えた。アキラは続けて言う。
「こっからさきの行方はGPS機能をハッキングできないので、向こうは勘を頼るしかない。詩音は占術の初級鑑定師だけど、はっきり言って素人みたいなものだ」
アキラがスマホの電源を落とそうとした瞬間、LINEからの着信があった。
ライトからだった。
「ちきしょう、めんどくさいやつだな。自分がしていることがこんなにも人を恐怖のどん底に陥れていること解ってるのか」
アキラは無視して、電源を落とした。祈織は恐怖で震えていた。
「明け方になったら、張り込みされる恐れもありますよね?」
「そうだね。できれば深夜のうちにどこかに逃げたい」
「もうすでにロビーで張り込みしてるのでは?」
「そんな根性はないと思う。占術上でもリアルを見ててもそう思う」
「じゃあ詩音さんが寝ている隙がチャンスですね!」
「そうだね。詩音はああ見えてK大卒のエリートだから頭もキレる」
「詩音さんがバックについている以上。9月29日まで逃げ切るプランは白紙ですか?」
「いや、詩音はあくまでも利用しているだけだと思うから、利害関係がなくなればあっさりライトを切るよ」
「ひょっとして、アキラさんと寄りを戻すためだけに来たのでは?」
「………」
アキラは薄々解っている。詩音は執念深い一面がある上、まだ会ってもいなかったのに自分のことを運命の人だと決めつけて、ヴァージンまで捧げた。しかし、今となってはその愛が重いのだ。
「そうだ。佳子先生の家へ行こう」
「佳子先生ってさっきの占い師さんですか?」
「そう。この時間でも家でお仕事してるはずだから」
「私、荷物まとめておきます」
「いや、悪いけれど、衣服とかは捨てて最低限の荷物で行こう。行けば何とかしてくれるはずだから」
「解りました!」
「僕は今から一瞬だけスマホの電源をいれて佳子先生の電話番号をメモする。そして、すぐに電源を落とす。ホテルの外線から佳子先生に連絡しとくね!」
アキラは祈織の身を護るためだったらなんでもすると誓った。佳子はかなり忙しい身の上だが、遠くの親戚よりも近くの他人の方が力になってくれることもある。佳子の家に逃げた後は、沖縄の親族の家に逃げることも頭に入れながら、佳子へ電話した。




