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国際通りをまっすぐ歩いていくとゆいれーるの牧志駅が見えてきた。広場に出ると、ダイワホテル直通のカーゴスがある。このショッピングモール内にはアキラが業務提携しているミラクルスポット本店がある。エスカレータ―で2階まで登るとピンクの看板がミラクルスポットの目印だ。
閉店までまだ一時間はある。今から鑑定を出してセレクトしてもらえば、まだ間に合うだろう。
アキラは店の中を覗いて一瞬目を疑った。トップ鑑定師の佳子がいたからだ。佳子はマジカルカラー白のワンピースを着ていて、ラッキーカラーの青いカーディガンを羽織っている。胸元には楕円形のジービーズである天珠を連ねたネックレスをかけている。アキラの4歳年上でおねぇちゃん的存在である。
「佳子先生、お久しぶりです」
「あら、アキラ君。沖縄来てたのね」
佳子は千代田区を拠点に活動しているが、沖縄にも別邸を持っている。ミラクルスポットを開業した時から約10年間は沖縄暮らしが続いた。夢だった東京進出を叶えても、こうして思い出の地である沖縄で再会できるとは思ってもみなかった。
「お連れの方は新しい彼女さんかしら?」
佳子は垂れた瞳でじろじろと祈織を物色する。
「はじめまして。遠野祈織です。宜しくお願いします」
祈織は軽くお辞儀をした。アキラは簡単に佳子を紹介した。セレクトブレスの予算を佳子に伝える。佳子が鑑定書を出すまでの間、お茶を飲んで祈織と雑談していた。
「祈織さんはマジカルカラー白ですね!」
「白ですか?大好きな色です!」
嬉しそうにはしゃぐ祈織を見てほっとした。マジカルカラーは運気が上がる色だが、好きな人と嫌いな人に分かれる。マジカルカラーが大好きということは運気があがっている証拠だ。
「白は何色にでも染まるという性質から、マジカルカラー9色ある中で、一番成功する可能性が高いです」
「私、看護師なんですよ。制服が白なので、運が良かったのかもしれませんね」
「とても自分に正直に生きてきた証だと思います」
佳子が鑑定書に目を落とす。
「やはり祈織さんにとって看護師というのは天職のようです。後はマジカルナンバーは5ですね。心の奥底では癒しを求めています」
「5ですね!大切にします。癒しは求めています。アキラさんと懇意にさせて頂いてるのも一緒にいると癒されるからです」
「アキラ君は属性が緑樹だからねぇ~。癒し癒されたい人です。祈織さんとアキラ君は好相性ですよ!祈織さんも優しくされたい願望が強いですから。一緒にいるだけで運気があがります。それと、環境に影響されやすいですから、その辺りは注意が必要です」
アキラは佳子と祈織のやりとりを静かに聞いていた。確かに、マジカルナンバー5は深層心理でいうと【樹】にあたるので、祈織は優しさを求めていたのかと再確認した。
「パーソナルではより自覚されている性格がわかるのですが、祈織さんは守り守られる性格をしています。組織において守る人は必須ですので、どこの職場に行っても必ず守られます。基準となるべき性格ですので、ルールや法則は厳格に守ります。例えば、漫画を買うときに、面白しろそうな巻から買うのがアキラ君だとすると、祈織さんは一巻から順を追って買わないと気が済まないタイプです」
「えー当たってます。まず、遅刻する人の気持ちが解りません。漫画も絶対に一巻から揃えていきます。なんでそんなに解るんですか?」
祈織が佳子に尋ねると「プロファイリングですから」と短く返した。確かにプロファイリングはFBIでも使われているくらい信頼度が高い。そして、付き合いが長くなっていくほどに、データが増えていく。究極は、何も言わなくてもわかるような関係性になることだってできるだろう。この占術を悪用されたら非常に困る。だから、協会員になるためには、幾つものフィルターを潜り抜けなければならない。
「さて、そろそろパワーストーンのセレクトをしたいのですが、ご予算は10万円でよろしかったですか?」
「はい」
はじめてセレクトするときは1万から3万円がミラクルスポットの相場だ。いきなり10万円も出せるのは、祈織が日本屈指の高級住宅街である田園調布に住むお嬢様だからだろう。星崎財閥の一人娘の詩音は30万円のスーパーセブンを買った。しかし涼子は初めてのパワーストーン購入で50万円も出した。祈織の10万円のセレクトが可愛らしく思えてしまう。
「祈織さん、アキラ君からも聞いているとは思うのですが、運気を上げるためには魔を遠ざける必要があります。マジカルカラー白の方は特に環境やお付き合い人に影響されやすいので、縁切りの特別なパワーストーンを入れたいと思います」
そう言って佳子はガラス張りのケースの中から一つの楕円形の天珠を取り出した。
「これは天珠といってチベットの王族しかもてなかった珍しいパワーストーンです。ショウケースの中を見てもらえるとお分かりだと思いますが、色んな模様が入った天珠があります。これは、息増壊天珠と言って縁切りのパワーストーンです。悪縁を遠ざけ、良縁を呼び込む強力な天珠ですので、当店でも人気ですよ。このパワーストーンに、シルバールチルクォーツを合わせたいと思っています」
「先生にお任せ致します」
祈織は不思議に思ったはずだ。ライトから追われている身の上話は一切していないはずだ。佳子は鑑定書から読み解いたのだ。占術は魔法ではない、統計学であり科学だ。
佳子は息増壊天珠の周りにシルバールチルを一粒づつ並べていく。カット水晶をちりばめて、一つ一つ丁寧にゴムに通していく。最後に念を込めてゴムを結んだ。
「これで出来上がりです。腕に通してみて下さい」
そう言って佳子は出来上がったばかりのブレスレットを祈織に手渡した。
祈織は「うわぁ」と感嘆の声をあげて、その美しさに見惚れていた。
シルバールチルは水晶の中に針のような銀色の線が何本も内包されていて、光の下で見ると輝きが眩い。佳子は出来上がったブレスをもう一度返してもらい、チベットの秘宝であるシンキングボールで浄化した。シンキングボールはお寺や仏壇に置いてあるりんのような形状をしていて、棒でその周囲を撫でていくとヴォーンという音が響き渡る。供養の祈りを極楽浄土まで届けるという意味がある。ブレスレットが受けた汚れを払うことを浄化という。
「なんだかさっきよりも輝きが増した気がします」
祈織にとって浄化ははじめての体験である。アキラもはじめてシンキングボールでブレスレットを浄化してもらった時には、その音色の美しさと効果に衝撃をうけた。特に、邪気だらけの人間に対して、シンキングボールの音色を聴かせると途端におとなしくなるのがいまだに不思議で仕方ない。
「精一杯、真心こめて作成させて頂きました。どうか祈織さんの周囲が穏やかになりますようお祈りしてます」
佳子が言うと祈織は「ありがとうございました」と深々と頭を下げた。
たぶん佳子も鑑定書から祈織とライトとの悪縁を見抜いたはずだ。その悪縁を断つためにもパワーストーンの後押しが必要だろう。息増壊天珠とはそいうパワーストーンなのだ。良縁であるか悪縁であるかは、本人には解らないものだ。
ミラクルスポットの閉店間際まで佳子と雑談した後、祈織とホテルへ戻ってきた。
沖縄の風と海を感じるハイアットリージェンシのツインルームはベッドの距離が近くて、いつでも寝込みを襲えそうだ。涼子ならば迷わず向こうのほから仕掛けてくるだろう。明日は祈織の服や下着を買いに出かけなければならない。
22時近くになって、まだ夕食をとっていないことに気づいた。せっかくだからレストランにでも行きたかったが、沖縄の店は閉まるのが早い。祈織にどうするかと尋ねたら、沖縄のコンビニに行ってみたいと言うので、近くのファミリーマートへと向かう。
「アキラさんなかみ汁ってなんですか?」
「モツのことだね。沖縄の郷土料理だよ。美味しいよ」
「へぇ~今度食べてみたいです」
「定食屋とか嫌じゃなければ連れてってあげるね」
「沖縄ってゴーヤチャンプルーとかですよね。あれ大好きなんです」
「そうなんだ?ゴーヤ食べれるなら島ラッキョウとかもおすすめだよ」
「居酒屋にすればよかったですね」
「お酒けっこう飲むんだ?」
「お酒は弱いんですけど雰囲気が好きなんですよ」
「僕は沖縄そばとジューシーにしようかな」
アキラは新商品の沖縄そばを手に取る。確か、ホテルの一階ロビーに電子レンジがあったはずだ。沖縄そばは毎日でも食べたいくらい飽きがこない。
「ジューシーって沖縄の混ぜご飯みたいですね。私もアキラさんと同じにしよ」
祈織も同じものを買ってコンビニを出た。自然のうちに手と手を繋いで歩いていた。祈織は恋愛では奥手なほうだと占いに出ているのだが、特別気にもしなかった。一緒にいることが空気のような存在で自然体でいられる。同じ食べ物を選ぶだけでなく、分身といるような感覚になる。あまりにも居心地が良すぎて、前世では夫婦だったのではないかと錯覚するくらいだ。アキラも祈織も宿曜占術では奎宿と出る。同じ宿同志の関係性を【命】と呼び前世からのソウルメイトとされているのだ。
ハイアットリージェンシーへ帰る最後の交差点で、アキラは見知らぬ男と目があった。マスクと帽子をしていて素性も解らないが、因縁を付けられたような嫌な感じがした。
まぁ、地元の蒲田でも因縁を付けられることはよくあることだし、いちおうアキラだってインディーズの世界では名の知れた小説家であるから、身バレしている可能性だってある。顔写真を公表するかしないかは作家の自由だが、顔出しした方が貰える仕事は多いらしい。小説スクールの先生が言うのだから事実なのだろう。世の中、才能あるものに嫉妬する人間は意外と多いのかもしれない。そうポジティブに捉えている。
ホテルまでたどり着くと一階にある電子レンジで沖縄そばを温めてから5階へと上がった。マジカルナンバー5番の者同士たまたま5階が空いてたのも神の意思だろう。
祈織はファミリーマートでTシャツと下着も買っていたようだ。アキラはタバコを吸うから匂いには鈍感だが、自分自身で汗臭いと感じたのだろう。ライトから逃げきる目的とはいえ、準備もできずに旅に出てきたことを申し訳なく思う。まだ夏のような気候でTシャツでも充分だが、本当はお洒落してきたかったはずだ。
「アキラさんはサイズLでよかったですか?」
「え?僕の分も買ってくれたの?」
「はい。ちょっとタバコの匂いしまので………」
「それはごめん。すぐにシャワー浴びてくるよ」
アキラは真っ先に風呂場に向かった。おもむろに服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。
ほてった身体には冷水が気持ちいい。シャンプーを泡立ててごしごしと髪の毛を洗い、タオルにボディーソープを垂らした時に気づいた。替えの下着がない。さすがにノーパンで寝る訳にもいかない。隣に女性が眠る以上は、なんか履いておかないとムラムラきてしまうことだってあるのだ。
アキラは頭を抱えた。ノープランの旅には慣れていたはずだが、それは一人旅限定の話である。あぁ祈織を傷つけたくはない。知らぬ顔してもう一日だけ同じパンツを履くしかない。それか後で、コンビニに買いに行けばいいだけの話だ。
アキラは風呂場を出た。さっき自分が脱いだ服はなく、洗面台の脇にホテルのアメニティのバスローブが置かれていた。祈織が気を利かせてフロントにコールして取り寄せたのだろう。まぁ後でコンビニに行くからノーパンでもいいか。髪の毛を乾かして、洗面所を後にする。
リラックスムードの祈織がテーブルにお菓子や酒などを広げていた。
「おかえりなさいませ。ご主人様」
アニオタの聖地・秋葉原のメイド喫茶さながらのセリフに思わず吹いた。
「祈織ちゃん。ウケる。そんな趣味あったんだ?」
「なんのことだか解りませんにゃ」
招き猫のようなポーズをして祈織が言う。マジカルカラー白で影響されやすいとはいえ、一体どこのだれから影響を受けたのか。ふとアキラは時計を見た。もう23時過ぎている。早く祈織を寝かしつけて、寝た後でコンビニへ行こう。
「祈織ちゃん、お菓子もいいけど先にお風呂入っておいで」
父親のような温かみを込めてアキラが言う。
「はーい」
アキラにとって祈織のこういう素直さがとても可愛いのだ。祈織は洗面所へと入っていった。
アキラはベッドにダイブして、寝がえりをうち大の字になった。今日はとても疲れた。そういえば、祈織のラッキーナンバーは幾つだっただろうか。気になってスマホから鑑定書を出した。ラッキーナンバー【7】という数字が出た。意外に浮気性ということが解る。詩音のラッキーナンバーは【1】かなり潔癖症で好きな人としか性行為はしない。涼子は【8】かなりの変態で色んな人と性行為に及ぶ可能性がある。そうか、祈織は【7】なのか。では、ヴァージンってわけではないな。そんなことを思いながらアキラは瞳を閉じた。




